第7話 野良精霊を捕まえろ!

前回のあらすじ

・魔法少女りるる圧倒的力で怪人を撃破!

・こまり、りるるに魔法少女として認められる!

・魔法少女りるるの正体は星見鈴(28)


「はぁ…昨日は結局雷華さんとあんまり遊べなかったな」

すっかり日課になった朝のトレーニングをしながらこまりは呟く。

最近は早起きにも慣れた。バーニンに叩き起こされなくても起きれるほどには…


「結果的に勝てて良かったが昨日の戦い方は危険だったぞ!」


私の頭の上でバーニンはプンスカ怒っている。

確かに昨日は危なかった。りるるちゃんが来なかったらどうなっていたことか…


「お主は魔力が少ないんだからよく考えて使え」


「わかってるけどさぁ…魔力って増やせないの?」


「……身体を鍛えればよい。とにかくトレーニングだ!」


妙な間があった…嘘じゃないよね?!


「身体を鍛えればフィジカルだけで勝てる!!!」


…嘘以前の問題だった。


「それ、魔法少女のアイデンティティを否定している気がするんだけど…はぁ…私もりるるちゃんみたいに魔法が使えたらなぁ〜」


「隣の芝生の青さを羨むより己が大輪の花になる努力をせんか!」


「分かりましたよぅ〜」


鬼教官バーニンの熱血指導を受けながら私は家に帰った。



家で支度を済ませ学校に着いた私の耳に気になる話が聞こえてきた。

なんでも歩くぬいぐるみがいたらしい。


「歩くぬいぐるみってまさか…でも普通の人には見えないんだよね?」


私は小声でバーニンに問いかける。


「それは契約が成立した精霊だけである。大方契約者が見つからずさまよっているのだろう」


それを聞いた私は雷華さんに連絡した。


数分後、雷華さんからメッセージが届く。

放課後にその精霊を見つけて保護しようとのことだ。


「雷華さんと放課後におでかけだ!」


メッセージを見たこまりは嬉しさを抑えられない犬のようにワクワクしている。


「まったく…精霊を捕まえてあの小娘はどうしようというのだ?」


「それは…ふさわしい人を探してあげる…とか?」


「余計なお世話であるな」


そう言うと興味を失ったのかバーニンは机の上でシャードボクシングを始める。


今はいいけど授業中はそれやらないで欲しい…気が散るから。

バーニンは授業中でも自由に動き回っているので結構気になるのだ。


大体は何かしらのトレーニングをしている。

…ほんと身体鍛えるの好きだね。


授業を終え放課後、私は雷華さんに会いに待ち合わせ場所へ向かった。


彼女の調べによるとどうやら町で目撃情報があったらしい。

SNSでも歩くぬいぐるみは話題になっていた。

ずいぶん派手に動いているみたいだ。


「雷華さんおまたせしました!」


待ち合わせ場所には既に雷華がいた。

制服姿の彼女も凛としていてかっこいい…

今日はセバスは家でお留守番だそうだ。


「早速だけど精霊探しに行くわよ、うまく接触できれば力を貸してくれるかもしれないし」


そう言い彼女は最後に目撃情報があった場所へ向かう。

力を貸してもらう…そういえば精霊って同時に何匹も契約できるのだろうか?

そんな疑問を口にするとバーニンが「できないこともないが普通は嫌がるな…我輩も他の精霊と一緒に契約されるのは遺憾である」 と教えてくれた。


「ふ〜んそういうものなんだ…独占欲的な?」


「なっ?!独占欲ではない!なんというか……窮屈なのだ。よく知らないやつとルームシェアはしたくないであろう?」


「あ~そういう感じね」


確かにそれなら嫌がる気持ちも分かる。

私も極力ルームシェアはしたくない。

……雷華さんが相手ならどうだろう?

…それは…いいかもしれない。


「ぼっーとしてないで探しなさい」


雷華さんのその声に現実に引き戻される。

妄想を膨らませている場合ではなかった!

 

私達は精霊を探し薄暗い路地裏の道までやって来た。

こんな所に精霊がいるのだろうか?


「そういえば雷華さんはりるるちゃんと親しいんですか?お知り合いだったみたいですけど…」


薄暗い路地になんとなく薄気味悪さを覚え気分を変えるため雷華に話しかける。


「…別に親しいって程ではないわ。たまに戦ってると会うことがあるくらいよ。正体も知らないしね」


「そうなんですか?!てっきり知ってるのかと…」


「普通はホイホイ正体なんて明かさないわよ」


「えっ?でも雷華さん私の時は…」


「あんたは…特別だからよ」


「!!特別!?」


「そ、それってつまり…」


カラン…カラン


急に路地裏の奥で何かが転がる音が聞こえた。


音の元凶を探そうと私達は目を凝らす。


そこには紫色の猫のようなものがいた。


「あれは猫ちゃん?ですかね?」


「いえ、あれは…」


「失礼な!僕は猫じゃないよ?」


そう言い紫色の猫のような生き物は四足歩行から立ち上がり、こちらへ歩いてきた。


「はじめまして僕はキット!可愛いお嬢さんたち僕はおなかが空いたんだけど何か持ってないかい?」


「…見つけたみたいね」


「…ですね」





あげられるものも無いしここで話すのもなんだということで雷華さんの提案で私達はカラオケへ向かうことにした。


「ここなら人に見られる心配もないしご飯も食べられるわよ」


雷華さんがそう告げるなりキットは食べ物を選び始めた。


「そうだなぁ〜とりあえずこのピザってやつと唐揚げ、あとポテトこれをお願いできるかい?」


けっこうガッツリ食べるんだ…


というか精霊ってごはんいるの?

バーニンが食べてるの見たことないんだけど?

そう思っているとバーニンが「契約していない精霊は大変であるな…食事を取らなければいけないのだから」と言った。


…なるほどそういうものなんだ。


「バーニン君は分かってないねぇ〜食事はただの栄養補給じゃない娯楽なのさ!」


呆れた様子でバーニンを見つめるキットにバーニンは不服そうに鼻を鳴らした。

この子はグルメな精霊さんなのかな?

この子が契約してないのってもしかして…


「あの…なんで誰とも契約してないんですか?」


「僕は僕に相応しい完璧なパートナーを探しているのさ!それに……まだまだ美味しいものを知りたいからね!」


「契約しても食べられるんじゃないですか?」


「君は知らないようだね…空腹は最高の調味料なのさ!契約したらお腹が空かなくなる…それじゃあ最高の食事は食べられないよね?」


ん〜分かるような分からないような…


「あんた、あたしと契約しなくてもいいから力貸しなさい。ご飯ならいくらでも食べさせてあげるわよ?」


一連の流れを聞いていた雷華さんがそうキットに提案する。


「魅力的な提案だけどお断りするよ、僕は自由に生きたいんだ」


「…そう残念だわ」


雷華さんは少し落ち込んだような表情を見せたがすぐに気を取り直し「とりあえず今日は奢るからお腹いっぱい食べなさい」と言った。


そうして私達は届いた食べ物を皆で食べた。

途中雷華さんにせっかくカラオケきたし歌いますか?と聞いたが断られてしまった。


友達とのカラオケという夢は今日はお預けみたいだ…

きっと雷華さんは歌も上手いんだろうなぁ…



それからしばらくしてそろそろ帰らなきゃと私が言うとそこでお開きになることになった。

雷華さんはキットを家に誘っていたけどやはり断られていた。

…私も雷華さんの部屋に行ってみたいなぁ。


そうして私達は解散した。

「ありがとうお嬢さんたち!またいつか会おう」

そう言いキットはどこかへ行ってしまった。


それが私達の見たキットの最後の姿だった。








とある路地裏一匹の精霊が寝床を探し徘徊していた。

今日は優しいお嬢さんたちのおかげでお腹いっぱい美味しいものが食べられた。

幸せな1日だった…そう思いながら彼は歩く。


「ねぇ、君噂の歩くぬいぐるみ君だよねぇ〜」


そう言いながらどこから現れたのか一人の女性が近づいてくる。

自分はキットという名前だ、ぬいぐるみではない。精霊であると彼は彼女に伝えた。


「そっかぁ〜キット君って言うんだねよろしくぅ〜」


女はニヤニヤしながらこちらを見つめている。

あまりいい感じのしない人間だ。


「君はまだ誰とも契約していないのかなぁ?」


女はそう言いながら距離を詰める。

契約のことを知っているということは彼女は魔法少女なのだろうか?


キットは自分は誰とも契約していないし君とも契約するつもりはないと彼女に伝える。

すると女はニヤニヤ笑いながら「契約とかは大丈夫だから」と言った。


なんだか女に嫌なものを感じたキットは女に別れを告げその場から立ち去ろうとした。


「あぁ〜ちょっと待ってくれるかなぁ」


そう言われキットが振り返るとそこには大きな鎌を携え5体の小さなのっぺらぼうのマネキンを従えた女が舌なめずりをしながらこちらを見ていた。


「契約はしないけど君の力は欲しいんだよねぇ」


女は鎌を振り下ろし彼を真っ二つに切り裂いた…




しばらくして路地裏から出てきた女は大通りへと戻っていく。


「いい拾い物しちゃったなぁ♪」


そう満足げに呟く彼女は6体のマネキンを従え夜の町に消えていった。







 

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る