精霊と契約して魔法少女になった私、特異点になり世界を救う!
根津マヨ
第1話 燃えよ兎
夕日が沈み暗くなり始めた町を一人の少女がトボトボと歩く。
今日は帰りが遅くなってしまった…
なんで私は断ることができないんだろう。
普段はもう少し早く帰れるのだが今日は部活の片付けで遅くなってしまった。
他の子は皆で遊びに行くからお願いしてもいいかなと言って立ち去ってしまった。
その皆の中に私は居ない。いじめられている…訳では無いとおもう。
私は人付き合いが苦手だから向こうも誘うのを躊躇ったのだろう…たぶん。
鬱々とした気持ちを抱えながら歩いているとスマホの通知が鳴る。
何だろうと思い確認すると怪人警報だった。
怪人…10年ほど前に現れ世間を大混乱に招いた存在。
どこから現れなぜ人を襲うのかは今尚はっきりしていないらしい。
既存の銃火器の類いが一切効かない怪人に警察も軍も対処できず人々が絶望に暮れていた時、彼女が現れた。
後に始まりの魔法少女と呼ばれる彼女は魔法の力で怪人を次々に倒し人々に希望を与えたのだ。
やがて人々の中からも魔法少女になる人間が現れ始め魔法少女の数は年々増加していった。
そうして怪人が発生すると魔法少女が対処するというのが日常になったころ彼女は「自分の役目は終わった」と言い世の中から姿を消した。
それからも魔法少女は増え続けている。
彼女たち魔法少女は町の人々を救ってくれるからというのはもちろんあるが、皆様々な個性があるため各個人に根強いファンがついてる。
例えば
【アイドル魔法少女 ティンクルスター】
【王子様系魔法少女 月城キラリ】
【原理主義魔法少女 真聖☆魔法少女りるる】
【姉御系魔法少女 泡沫のお銀】
等個性豊かな面々がいる。
様々な個性を持っている彼女達だが一貫していることもある。絶大な力を持っていることと人助けの為に日夜奔走しているということだ。
彼女達のような魔法少女によって平和な日常は維持されていた。
「うわぁ…結構近くだ…気をつけて帰ろう」
私はそう独り言を呟き、またトボトボ歩き出す。
どうせすぐに誰か魔法少女がやっつけに来てくれるだろう。
歩きながらまた自分のことについて考える。
内気で人と話すのが苦手な上になぜかよく頼まれごとをされ断れない…そんな自分が嫌になる。
変わりたいなぁ…頭ではそう思っていても現実はそうはいかない。
何かきっかけがあれば変われるのかな?例えば魔法少女になるとか?
一瞬考えるがすぐにアホらしいと思い直す。
運動も得意ではないし何より大勢の人に見られて応援されるなんて性に合わない。
そんなことを考えながら歩いていると急に近くで爆発音がした。
……えっ?!まさか怪人!
驚き周囲を見回すと蜘蛛型の怪人がビルの間を飛び回っていた。
早く逃げなきゃ!
そう思った時猛スピードで怪人を追いかける人影が近づいてきた。
黒と紫を基調としたゴスロリ服の背中に大きな金属の塊を背負っている。
彼女はなんて名前だったか…
ああ!たしか
最近現れた魔法少女だったはず。
彼女のその名の由来になった背中の鉄塊は火を吹き彼女は空を飛ぶ。
さながらジェットパックのようだ。
「かっこいい……」
その姿に思わず見惚れそう呟く。
やはりあたしにはあんな事するのは無理だ。
早く逃げよう。
そうして少女は足早に逃げようとするのだった。
◆
「お嬢様、奴は街の中心部に向かっているようです。早く止めなければ!」
「言われなくても分かってるわよ!」
ゴスロリ服の少女アイアン・メイデンは苛立ちながら答える。
あの蜘蛛怪人はこちらが派手に立ち回れないよう町中で戦おうとしているようだ。
怪人のくせに頭を使って戦おうなんてまったく腹立たしい。
近頃は知能の高い怪人が増えてきているとは聞いていたが…
「お嬢様、被害を最小限に留めるためこの場で奴を捕縛しましょう。」
執事風の服を来たクマのぬいぐるみが彼女にそう進言する。
「ええ、そうね…セバス!グラップリング用意!」
「畏まりました、お嬢様。」
セバスと呼ばれたクマのぬいぐるみは仰々しく頷く。
突如彼女の背負う鉄塊の扉が開き鉤爪のような物が出てくる。
狙いを定めた彼女はそれを蜘蛛怪人に向かい放った。
鉤爪は見事命中し怪人の肩に深く突き刺さる。
痛みでバランスを失った怪人が地面に落ちるのを追いかけ彼女は追撃をかけようとする。
しかし間一髪のところで避けた怪人は急ぎ肩の鉤爪を引き剥がす。
致命傷とまではいかなくとも相当なダメージを与えられただろう。
「観念しなさい!あんたはもうおしまいよ!」
「ふざけやがってぇ!やられてたまるか!」
ここまできたらもう勝負は見えている。
その慢心が彼女の油断を生んだのだろう。
彼女は自分の少し離れた後ろにいる民間人の少女に気づかなかった。
怪人が苦し紛れに投げてくる車を避けながら彼女は怪人にトドメの一撃を放とうとした。
その時だった。
「きゃぁー」
後ろで聞こえた悲鳴に思わず振り向く。
視線の先には車がぶつかった建物が崩れそこに飲み込まれる少女の姿が映っていた。
「あぶなっ……」
よそ見をした彼女の隙を怪人は見逃さなかった。
鋭い蹴りが彼女の腹にクリーンヒットしそのまま壁まで吹き飛ばされる。
「お嬢様!?しっかりしてください!お嬢様!!」
セバスが彼女の周りを心配そうに飛び回る。
当の彼女は蹴りと壁にぶつかった衝撃でまともに呼吸ができず苦しんでいた。
「ふぅ~ようやく大人しくなったぜ!さっきの借りを返させてもらうぞ!」
そういうと蜘蛛怪人は捕食者の笑みを浮かべ彼女に近づいていくのだった。
◆
瓦礫の下、少女はなんとか意識を保っていた。
しかし身動きは取れず頭からも流血しているこのままでは長くはもたないだろう。
なんでこんなことになったんだろう。
私がどんくさいからかな…
少女は自らの不幸を呪った。逃げようとしたはずが戦いに巻き込まれこのざまである。
もっと自分に正直に生きればよかったな…
そうすれば今頃はこんなことにならず楽しく過ごせてたのかも…
少女が絶望し、人生を諦めかけた時、瓦礫の中何かが動いた。
「だれ!?お願い助けて!!」
死にたくない…生き延びたい!
その思いが彼を呼んだのか、はたまた偶然かどちらにせよ少女は彼に選ばれた。
「選べ!小娘、我輩と契約して勝利の花道を生き抜くか、敗者として惨たらしく死ぬか!」
「えっ……」
なんだろ、頭打って幻覚見てるのかな?
目の前に居たのは喋るウサギのぬいぐるみだった。
「ん?よく聞こえてなかったか?仕方ないもう一度言うぞ!」
「選べ、小娘…」
「あっ、いや聞こえてます!」
慌ててそう口にする。どうやら幻覚ではないらしい。
「なんだ、聞こえていたのか!ならさっさと答えんか!どうするんだ?」
イライラした様子でウサギが聞いてくる。
頭の痛みと混乱で頭がうまく回らない。
「え~と、あなたはなんなんですか?」
「何だとは失礼な!我輩はバーニン!精霊である!小娘よ我輩と契約して魔法少女になるのかならないのか早く決めろ!」
魔法少女になる?!私が?
「ちなみにならない場合恐らくお前はこのまま死ぬがな!」
ウサギはさも当然の如く言い放つ。
選択肢が一つしかないじゃないか!!
死ぬか魔法少女か悩むまでもない。
「なります!契約します!!」
「よろしい!小娘、お前の名はなんという?」
「日野…こまりです」
ウサギはうんうんと頷きながらどこからか紙を取り出す。
「では、この書類に手形を押せ」
そう言われ自由に動かせる方の手を書類に押し付ける。
何か暖かいものが手を通して全身に巡るのを感じた。
「これにて契約成立だ!」
ウサギがそう言うと私の身体は赤い光に包まれていった。
◆
目の前で動けなくなっている魔法少女をいたぶる為蜘蛛怪人は彼女に近づく。
「お嬢様に手を出すなぁー!」
途中邪魔なチビが飛んできたが叩き落とし蹴り飛ばす。
雑魚に用はない。
「さっきはよくもやってくれたなぁ〜」
そう言い2度3度と彼女を蹴る。
もう息も絶え絶えといったところだろう。
そろそろ終わりにするか、他の魔法少女が来てもまずい。
そう思いトドメの一撃を決めようとしたその時…
背後で爆発音と共に瓦礫が吹き飛んだ。
「なんだぁ?」
そう言い振り返ると視界に何か赤いものがよぎる。
そして次の瞬間には気づけば激しい痛みと共に上空へと吹き飛ばされていた。
「なっ……」
最後の言葉を言い切らず蜘蛛怪人は打ち上げられた火球により爆散するのだった。
◆
一瞬の出来事だった…怪人に追い詰められ死にかけたあたしを救ったのは全身が真っ赤な謎の戦士だった。
彼女は瓦礫が吹き飛ぶと同時に怪人のもとへ猛スピードでダッシュするとその勢いのまま身体を深く沈み込ませ一気にアッパーパンチで怪人を打ち上げた。
そして掲げた拳をそのまま開くと火球を放ち怪人を上空で爆散させたのだ…
あっという間の出来事に放心状態でその様子を見ていると謎の戦士は慌ててこちらに駆け寄ってきた。
「だっ、大丈夫ですか?!え~とアイアン・メイデンさんですよね?私さっき魔法少女になったみたいで何が何やら…」
あたしは無言で頷く。
…こんな奴が魔法少女だというのか。
謎の戦士が差し伸べた手をあたしは乱暴に振り払う。
イライラするこんなのは魔法少女じゃない!
「あたしはあんたを魔法少女だなんて認めない!セバス行くわよ!」
「…!お嬢様!!ご無事で良かったぁ〜」
あたしはフラフラになりながらセバスと共にその場を後にした。
◆
「へぇ~あれが新しい魔法少女かぁ~……欲しくなっちゃうな」
遠く離れたビルの屋上で一部始終を見ていた女性はそう呟きながら舌なめずりをしニヤニヤと笑うのだった。
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