自戒


 ヘレティック。世界中から集められた最強の集団。このメンバーの中には監獄に囚われている犯罪者や各国の諜報員、軍人まで存在していた。


 彼らの最終目標は大監獄から脱獄した囚人達の確保。もしくは殺害。

 まあ確保は基本的に無い。殆どの奴らは殺害してきた。一度脱獄された以上、また脱獄されて酷い目に遭う可能性があるからな。



 そしてヘレティック最大の特徴は傭兵であるということだ。


 国連のような組織に従うものではない。あくまで独立した存在としてヘレティックは作られた。

 国連が恐れたのは自身の内部に裏切り者がいる可能性だった。

 だから何の組織にも属していない、信頼できる存在で作られた集団が必要だった。それがヘレティックの始まり。最強の傭兵団ができた理由だ。



「勇気。今回が初の任務だ。人を殺す事となる。……辛いものだ。だが気をしっかり持て。我々が奴らを殺さなきゃ多くの人々が死ぬこととなるのだから」


「……はい! 隊長!」


 初めての任務は紛争地域に潜む脱獄囚の暗殺だった。

 多くの仲間達と共に紛争地域へと降りる。 

 訓練を受けていたとはいえ悲鳴や血の匂い。多くの不幸を見るのは辛く苦しい。


「拳法家と銃士は援護を。俺と万能者で奴を殺す。医師はここに残れ。よし行くぞ!」


「「「イエッサー!」」」


 基本的にヘレティックのメンバーは名前を呼ばず、コードネームを使う。

 俺は万能者。どんな戦闘方法でも行うことができることから隊長に名付けられた。


 拳法家や銃士、隊長と医師の他にも剣士や芸術家に探偵等。多くの仲間達が紛争地域を走り回る。

 俺はそんな中、とうとう紛争を激化させていた脱獄囚の一人を暗殺した。



「アアァァァァ!!!」


 奴の断末魔は俺の耳を超え、俺の心を蝕んでいた。

 血の匂いや肉を貫いた感触が消えること無く残り続けている。

 暫くの間。俺は傭兵業ができなくなった。




「大丈夫勇気?」


 彼女は…医師はそんな俺に真っ先に声をかけてくれた。

 彼女は俺と同じぐらいの若手だったが特殊な体をしているらしく聞いてみた所、何とサイボーグなのだとか。


「私はある男に誘拐され、体を改造されたの。だから半永久的に動くことができて更に戦闘ができる。元々医師としての才能があったから医師として採用されたけど、本当は戦闘員としても期待されてるんじゃないかな」


「サイボーグ……? じゃあロケットパンチ出せる?」


「……へ? ははははは! 最初に聞くことがそれ?! 貴方やっぱり面白いね!」


 年が近かった事もあり、彼女とはすぐに仲良くなった。多分一番話しかけていた相手のはずだ。

 だからだろう。人を殺す感覚に怯えている俺に隊長や精神医より先に、俺のケアを行なってくれた。





「医師。……最初は喜んだんだ。俺みたいなしょうもない人間を求めてくれる人がいるって。生きている意味があったんだって」

 

 彼女はただ黙って、俺の話を聞いてくれた。声が詰まりそうになると背中を擦って優しげな笑みを浮かべてくれる。


「でも俺は…その期待にすら応えられない。……何で皆人殺しができる? こんなに恐ろしく辛い事なのに。そして俺は…そんな皆の事を怪物だと思ってしまった。その事が堪らなく苦しい。自分自身に反吐が出る。」


「……勇気。…………勇気は……とても優しい人なんだね」


「優しい…? 違う! 俺は最低な男だ。多くの人を救ってきた皆の事を……怪物なんて思ってしまうんだから」


「いいや。……優しいよ」


 彼女はそう言うと俺の手に手を重ねる。不自然なほどに冷たいのは恐らく機械の手だからだろう。

 それなのに何故か心は暖かく感じた。

 彼女は動揺している俺に語りかけてくる。


「あ……あー。その、言葉足らずでごめんね。でもどうしても貴方を慰めたい」


「…………」


「皆そうなの。皆、誰よりも自分が最優先。それが当たり前のことなの。私が医師になった理由は人を救いたいからじゃない。…私はサイボーグになった後、その博士の命令で多くの人を殺した。私が医師になったのは一人でも多く人を助ければ、殺した人達の悪夢を見なくてすむと思ったからなの」


 何も言えなかった。普段はポワポワとしている彼女にそんな過去があったなんて……。

 ヘレティックのメンバーは何かを抱えていると隊長から聞いたことがある。ある程度心持ちはできていたがそれでも辛い。


「私はずっと自分の事ばっか。でも勇気は違う。皆の事を怪物と思った事を恥じ、苦悩している。……私にはそんな事出来ない」


「…………医師」


 情けない話。俺はどう言葉を返せばいいか分からなかった。

 彼女が苦しんでいるのが分かる。だけど、こういう時なんて言えばいいのか分からない。

何かを言おうとして……そして結局黙ってしまう。



「……ふふ。本当に勇気は優しいね」


「あ……いや…その」


 そんな自分を見透かされたのか、彼女は俺の様子を見て笑ってくれた。

 先程の苦しい様子とは違い笑顔になった彼女は、俺の手を強く握ってきた。


「勇気。貴方は絶対に戦場に行かなくてはならない。私には分かる。貴方の強い才能は決して貴方を戦場から逃がしてはくれない。……私がそうだったように。貴方はこれからずっと、その才能で苦しむことになる。隊長はその事に気づいたから、先手を打って貴方を仲間に入れたんだと思うわ」


 彼女の言葉には強い想いが込められているように感じた。

 彼女自身も才能に苦しめられてきたのだろう。そう感じるほど、彼女の言葉には重みがあった。


「酷い事を言っていると自覚してるわ。…けれどどれだけ苦しくても、私は貴方に優しさを失ってほしくない。私が貴方を慰めているのは私の為じゃない。貴方の事が不安に思って、気づけばここに来ていたの。こんな事初めて。それにそうなったのは私だけじゃないわ」


「……私だけじゃ? それってどういう」


「ほら皆! 隠れてないで出てきなさい!」


 彼女の言葉が部屋を反響すると、隠れていたのか至る所から皆が出てきた。

 拳法家に銃士に剣士。武術家に芸術家や探偵。俺に良く絡んでくる軍人の姿もあった。

 他にも数えきれないほどの仲間達が俺を心配し、慰めようとしてくれたらしい


「気付かれちゃったか…。とりあえず飴ちゃん食べる?」


「我が弟子よ。ついて来い。刀で語り合おうぞ」


「イエ……勇気! 何をクヨクヨしている! 訓練に行くぞついて来い!」






「勇気覚えておいて。貴方は優しい人。決して酷い人じゃない。貴方のお陰で私は優しさを知ることができた。恐らく皆も。……一緒に背負っていこう。その為に私達はいる。私達はずっと一緒だよ」


「………………………はい!」


 確かに彼女の言葉はあやふやで変な所がある。でも彼女が何を言いたいのかは俺の心に深く入ってきた。


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