彼と出逢わなかった二人


「ああ……良く寝た。……ファア〜」


 大きなあくびが出てしまう。どうやらかなり熟睡していたようだ。

 だがお陰で昨日の疲れはだいぶ取り除くことができた。これでより一層働くことができる。


 横にスコッチさんの姿は無い。下から聞こえる大量の声から察するに、どうやら俺以外の全員が起きているようだ。

 あと少し寝たい気持ちはあったが、その気持ちを押し殺し下の階へと足を進ませる。


 下の階で真っ先に目立つのはマジシャンとミュージシャンの喧嘩…ではなく唐突に始まった筋肉見せ大会。

 傭兵達がその筋肉を全員に見せびらかしている。

 地味に建築業界のおっさん達がかなりの筋力をしていた。仕事柄鍛えられているのがよくわかる。


 この大会の恐るべき所はあの娘…。前まで泣いていたあの娘が笑っているのだ。

 ぎこちない…だが確かに彼女が楽しんでいるのがわかる笑顔。こちらも笑顔になっていき、笑顔の無限ループが完成していた。


「イエスマッスル!!」


「肩にちっちゃい重機乗せてんのかい!!」


「うおおおお!!! 俺も混ぜろよ!!!」


 ボブさんが混ざり始めた。リラさんはそんなボブさんを見て呆れたようなため息をついている。だが止める気はないようだ。


「ふぅ…。バカどもが。重大な任務の前でこんな遊びをするとは…」


「隊長!!!」


 傭兵団の隊長ハルスが現れた。彼はやれやれと肩をすくめるとニヤリと笑い出す。


「私も混ぜろ!!! 見よこの肉体美!! 我らのボスでも勝てぬ肉体よ!!!」


「「「うおおおおおお!!!!」」」


 凄い肉体だ…。大量についた怪我の跡が彼の肉体に凄みを付けている。

 もはやゴリラと言っても過言ではない。



「ふはははははは!!!!!!」


「「「!?」」」


「な、なんだ!?」


「ほう……貴様も混ざるか!」


 俺と同じ二階。ちょうど反対側から声が聞こえる。

 そちらを見てみると、そこにはジャージ姿のジャックさんがいた。


「「「先生!?」」」


「まだまだ甘いな…。見してやろう!!! 真の肉体美と言うものを!!!」


 彼は二階から跳び上がるのと同時に服を投げ捨てる。

 そして華麗にポージング着地を見せてきた。あまりもにきれいな着地。皆の息が一瞬止まる。


「ふん!!!!!」


 そして更に新たなポージング!!!その力強さに全員が拍手を送っていた。

 取り敢えず邪魔にならないように隠れておくか…。


 こっそりと一階に降り立ち、そのままシェフの元へ逃げようと…。


「おいユウキ!!! お前も混ざれよ!!」



 ……武雄の野郎。後でシメる。



「そうだそうだ!」


「ヒューヒュー!!」



 ホームレスの人達も便乗し始めた。皆が隠れた俺を探し始める。


 ……しょうがないな。行くか!!!



「僕の肉体のほうが美しい!!!」


「私の肉体のほうが美しい!!!」


「ごめん静かにして」



 喧嘩してるマジシャンとミュージシャンを押しのけて皆が集まる中央へと立つ。

 何人かが怪訝な表情を取る。まあ今の俺は誰もが弱いと思う人間に擬態している状態。


 普通の大学生としての姿なのだから当然の事だ。

 むしろ見抜ける人がいたら相当なんてもんじゃないほど強い…。怪物の類だ。



 魅せてやろう。この俺の肉体を!!!



「スー……。フンッ!!!!!!!」


 バリバリバリバリ!!!!


 備品のジャージが内部から勢いよく吹き飛び、全てを魅了する強靭な肉体が現れる。

 普段は隠していた筋肉達が久しぶりの解放に歓喜し、自分を見てくれ!と言わんばかりに輝き始める。


「「「ウオオオオオオ!!!!!」」」


「すげぇ………。負けた…」


「流石だユウキくん」


「……ふっ。これが伝説……か」


 だがこれでは終わらない!!! 俺は全力でポーズを取り始める。

 気分はまるでフェス会場。男達の熱気が警察署を包んでいる。体感温度は40を超えた。



「さあ!!! まだまだ行くぞ!!!」


「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」









「飯が冷める!!!!! そろそろ食べろ!!!!」



「「「!?…………ごめんなさい」」」



 だがすぐにシェフに怒られ筋肉見せ大会は終わりを迎えた…。

 その時見たシェフの顔はまるで鬼のようで、俺を含めた歴戦の傭兵達が誰も逆らうことが出来なかった。




 …………これからはシェフを怒らせないように気おつけないと。





















「とうとうここまで来れた。ロゼ。あと少し…歩けるか?」


「うん。………ねえお父さん。……お母さんは何処にいるの?」


「ッ……。お母さんは少し用ができて遠い都市へ行ったんだ。だから心配しなくて大丈夫だよ」


「……分かった!」


「良い子だ。それじゃあここで誰にも見つからないように隠れてるんだぞ。お父さんは今から壁の上にいる人と話してくるから」


「うん!!!」









「すいません助けてください!! 私はゾンビではありません!! 人間なんです!!!」


「!? 待ってください!!! 話しを」



 ダダダダン!!!


「………ロ………ゼ」









「?」





「お父さん?」




「お父さん!?」



「なんで寝てるの? ……起きて。こんな所で寝ちゃ駄目だよ。……おと」



 ダダダダン!!!


「……………え?」









「こちらブロックC。エリア外を目指す民間人二名を射殺しました。」





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