戦の神


「今撃ったのは誰だ!?」


「こっちのメンバーは誰も撃ってません! 生存者かも!」


 なんだと!? 救出すべきか? だがこちらも民間人がいるしかなり深手を負っている。

 銃声から察するにゾンビに襲われているのはほぼ確実。他の者達にこれ以上負荷をかけるわけには…。


 そもそも我々は雇われの身。これ以上無駄に戦闘せずグロリアにいる対象Aを救出すべきでは…?


 だが今さら民間人を見捨てるのは見聞が悪い。それに中には子どももいる。




 どうすれば………。



 「隊長!!! 銃声の場所が特定できました! 警察署です!」


「警察署?」


「はい! それなりに大きな警察署です。ここは大きな塀で囲まれているので、門をすべて閉めて中の敵を全員倒せば籠城できるはずです」


「警察署なら物資もそれなりにあるか…。」


 安定を求め、警察署で態勢を立て直してから再びグロリアに向かう。

 これなら民間人も助けられる。だが現状を考えると警察署の鎮圧には被害が出る可能性が高い。



 …………個人的には彼らを助けたい。


 だが今の私は傭兵部隊の隊長。昔のように軍隊所属の人間ではない。

 犠牲が出るかもしれないのに彼らを助かる義理はない。






「隊長」


「……どうしたタクオ」


 私が今後の状況に悩んでいるとタクオが声をかけている。

 後ろでは隊員のほぼ全員がこちらを見ており、恐らくだが民間人の護衛にいる隊員以外の全員がここにいる。


「私達全員。彼らを助けることに賛成です」


「それは……これ以上の犠牲が出る可能性が」


「私達全員で決めたことです。……子供もいるんですよ。まだ小さい。私達は確かに依頼人が一番大事です。しかしそれでも私達は人間です。心がある。……一人でも助けたい。隊長。お願いします」


「………分かった」


 こいつらの覚悟。無駄にするわけには行かない。



 覚悟がないのは私の方だった。




「全隊員よく聞け! これより我々は警察署へと向かう! 生存者がいたら救出!」


 護衛中の隊員にも聞こえるように大きな声で任務を伝える。

 ゾンビ達が来るかもしれない。なるべく短い言葉で伝えなければ。



「そしてよく聞け。全員!!! 必ず死なずこの任務から帰るぞ!!!」


「「「サーイエッサー!!!」」」



















 我々はゾンビ達が声に駆け寄ってくる前に場所を移動する。

 警察署までの道のりは案外近い。だからこそ我々の元まで銃声が聞こえたのだろう。


 辿り着いた警察署は大都市にあるだけありそれなりに大きく、制圧のしがいがある。気づけば笑みを浮かべていた。


 A.B.Cの三チームに分け、警察署内へ侵入する。Cチームには周辺の門を閉めてもらい、残りの二チームは先へ進む。

 警察署の中はまばらにゾンビが居た。予想より少ない…。生存者に釣られているのか?



バン! バン!


「隊長!」


「ああ聞こえた! Aチームは私と共に音の元へ! Bチームは民間人を護衛しつつ周辺のゾンビの掃討を!」


「「「サーイエッサー!!!」」」



 その後の対応は難なく進めることができた。


 警察の生き残りが籠城している二階エリアに合流し、ゾンビ達を殲滅。その後他エリアも制圧。



 全てが終わったのは二時間後の事だった。


 我々の手により警察署内は完全制圧に成功。生存者は十名程だった。

 立てこもっていた部屋の近くにある大量に転がる死体が、ここで起きた戦闘の悲惨さを表している。


「助けてくれてありがとう。隊員を代表して礼を言わせてくれ」


 立てこもっていた警官のリーダーは優秀な特殊部隊の人間だった。

 我々も聞いたことがある。この都市には各州から若手や問題児をかき集めて作られた特殊部隊が居ると。


 何故作られたのは分からない。一時期は税金の無駄など言われていたが、とあるテロ事件を死傷者ゼロで解決した事で一躍有名になっていた。


 我々は民間人を全員警察に託し、警察署内部に新しい安全エリアを作り出した。

 バリケードを張り、銃やナイフ等の武器。食料や医療道具を置いておく。


「ひとまずはこれで安心だな」


「ええ。ですが全体的に物資が足りない…。どうやら大量に人が倒れた際にたばこ吸っていた奴がいたらしい…。火の手が上がり鎮火した時には物資の大半が…」


「今はポジティブに考えよう。おかげでゾンビが大量に焼けて俺達は生き残った。生き残ったということはまだ可能性がある」


「……そうだな。じゃあ次は」


「隊長大変です!!!! 正門に大量のゾンビが!!!」


「何!?」



 我々はすぐに二階のベランダから正門の様子を確認する。



 そこに居たのは百を超える大量のゾンビ集団。だが隠れているだけで更に居る可能性がある。


「総員! 戦闘配置!」


 頭を狙いやすい二階の位置に数人。下の正面玄関を守る位置に三人置く。

 警官達も手伝ってくれることとなった。皆動きが良く頼もしい。これならこの数も切り抜けられるだろう。




 残弾数が心配だが……。




 全員が配置につき、私の合図を待つ。



 合図を送ろうと立ち上がろうとした……その時だった。









「隊長! 正面道路の先から誰か近づいてきています! アジア系の青年が一人! 武器を持っています!!!」


「なんだと! その男はゾンビが見えないのか!?」



 視線を道路の先へと向ける。目の前には一人のアジア系の少年。

 持っている武器は間違いなく我々の物。かなり強い武器だが単独でゾンビの群れに勝てるわけがない。



 すぐに援護を!




 私はそう思った。しかし行動に移すことができなかった。







 少年は………強すぎた。





 まるで戦の神。多くの戦場で戦ってきたからこそ分かる。

 彼はゾンビの大群程度に負ける存在ではない。



 ふと頭にボスがかつて言った言葉が思い出される。



『昔よ。ヘレティックのメンバーに一人変なやつがいたんだ。……いやまあ全員変だったんだけどよ。そいつ明らかに一般人だったんだ。聞いた話によると偶然巻き込まれたんだと』


『巻き込まれた一般人なのにヘレティックのメンバーになったんですか?』


『ああ。あいつは強すぎた。生まれ持った才能なんだろうな。たった一人でテロリストを全員拘束して人質を全員救出してみせた』


『………それ本当に一般人ですか?』


『ああ。見た感じ才能があるとはとても思えない人物さ。日本人だから背も小さいしね。だがその強さは世界の頂点。あらゆる武器を使いこなし世界を救った。……ヘレティック最後の生存者さ』




「まさか……ありえるのか?」



 目の前のアジア系の青年はゾンビの半数を倒してみせた。

 隊員達が警戒しだす。恐るべき強さに皆怯えているのだ。




 だが私に恐れは無かった。それどころか敬意すら感じている。




 私は目の前の人物の正体を心で理解した。






 かつて世界を救った伝説の存在。











 彼は、ヘレティックのメンバーの一人だ。





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