第5話:再編と再起、そして未来の選択

 魔導核の暴走から三日が経った。

 

 王都には、ようやく少しずつ風が戻り始めた。

 とはいえ、日常には程遠い。王城の半分は焼け焦げ、騎士団の半数は戦闘不能。

 

 国は、生きている。だがそれは、かろうじて“呼吸している”程度だった。

 

 「お前も、しぶといな……王国」

 

 俺は城の屋上に腰を下ろし、焼けた瓦礫越しに朝日を眺めていた。

 

 足音に振り返ると、リアナが立っていた。

 肩に包帯、疲れの残る顔。けれど、背筋はしっかりと伸びていた。

 

 「もう、歩けるのか」

 

 「はい。まだ走れはしませんが……椅子に座ってばかりもいられません」

 

 「王様ってのは、体が資本だな」

 

 「まだ私は王ではありません」

 

 そう言って微笑んだ彼女に、ほんのわずかだけ、以前の“少女らしさ”が戻っていた。

 

________________________________________

 

 それから数日、王国は急ピッチで「再建」の動きに入った。

 ……と言っても、兵士も金も魔法資源も限られている。

 

 騎士団は事実上の解散状態。

 腐敗していた幹部層の多くは、魔導帝国に通じていた疑いで失脚。

 

 「俺が手を入れるしかない」

 

 誰かが言ってくれるのを待つ時間は終わった。

 

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 「――“新兵募集”だと?」

 

 騎士団の生き残り、クロード団長が目を丸くする。

 

 「王都内でまだ戦える者たちを集めて、新しい部隊を作る。年齢・性別・出自問わずだ」

 

 「それじゃまるで、傭兵集団じゃないか」

 

 「違う。これは“再生の部隊”だ。魔法でも貴族でもなく、“人”で国を守る連中だよ」

 

 クロードはしばし黙ってから、深くうなずいた。

 

 「……お前にしか言えん言葉だな、アキト」

 

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 王都広場に張り出された募集告知には、奇妙な文言があった。

 

 > “魔法適性不要”

 > “未経験歓迎・筋肉痛保証”

 > “危険手当あり・命の保証はできません”

 

 俺なりのユーモアだったが、結果的にこの貼り紙は“話題”になった。

 

 「マジかよ、魔法なしでも入れるのか?」

 「筋肉痛保証って……なんか逆に信頼できる」

 「命の保証はないのに手当はあるってところが現実的だな」

 

 最初に集まったのは十人程度。

 元衛兵、雑兵あがりの農夫、鍛冶屋の娘。中には、元魔導兵で脱走した少年もいた。

 

 「集まってくれたのは感謝する。だがはっきり言っておく――」

 

 俺は彼らをまっすぐ見た。

 

 「これは“国のため”の部隊じゃない。お前たち自身の未来のための訓練だ」

 

 「強くなりたいと思う奴は残れ。そうでないなら、今すぐ帰っていい」

 

 誰も動かなかった。

 

 その沈黙の中に、覚悟があった。

 

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 訓練初日。

 

 「ランニング開始! 王都城壁まで往復6キロ! 魔法飛行は禁止!」

 

 「えぇっ!? 魔法使えるのに、飛ぶの禁止なんですか!?」

 

 「お前は飛べるのか?」

 

 「……使えたら飛べるはずです……!」

 

 「それじゃあ意味がない、走れ!」

 

 案の定、文句が出たが、走り出せば誰もが無言になる。

 

 2日目には、文句すら出なくなった。

 

 そして1週間後、最初の“連携訓練”に入ると、面白いことが起きた。

 

 ある鍛冶屋の娘が、魔法剣を使えない代わりに“煙幕玉”を自作してきた。

 元農夫は“斧投げ”で標的を仕留める技術を持っていた。

 

 「……なるほど。強さは、魔力だけじゃない」

 

 “力”は、生き方からにじみ出る。

 俺は、彼らからそれを教えられていた。

 

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 一方その頃。

 

 王宮の深層では、リアナが一通の報告書を見つめていた。

 

 「魔導帝国軍、東部国境にて大規模移動あり……」

 

 クロードが続ける。

 

 「恐らく、次の侵攻準備かと。しかも、今回は“魔核兵”を伴っている」

 

 魔核兵。

 それは、生体と魔法核を融合させた“半自律型の魔法兵”――人ではなく、兵器。

 

 「また、禁術を……」

 

 リアナは目を閉じた。

 だが、震えてはいなかった。

 

 「アキトに、知らせなければなりません」

 

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 その夜。

 

 訓練場の隅で、一人の隊員が転んでいた。

 

 「ぐっ……またこの根っこ……!」

 

 「お前もやったか」

 

 「アキト先輩も?」

 

 「三回は引っかかったかも」

 

 そう言って笑うと、隣からふと声がした。

 

 「皆、変わりましたね。あなたが来てから」

 

 リアナだった。傷も癒え、以前よりも落ち着いた顔。

 

 「少しは“兵”になってきたよ」

 

 「ですが、敵は動いています。魔核兵と共に」

 

 「そうか……」

 

 空を見上げると、星が少しだけ濁って見えた。

 

 「半年だ。半年でこの国を守れる力をつくる。それが、俺の責任だ」

 

 「そのために、何を?」

 

 「まずは、“勝てる形”を作る。次に、“信じられる仲間”を育てる。そして、“奪われた技術”を取り戻す」

 

 「“奪われた技術”?」

 

 「この国が“魔法”に頼る前に、持っていた戦術と知識だよ。魔法に依存して失ったもの。それが、今必要なんだ」

 

 

 リアナは静かにうなずいた。

 

 「あなたとなら、きっとできると……私は信じています」

 

 「その言葉があるなら、やれる気がしてきたよ」

 

 俺は立ち上がり、再び朝日を背にして訓練場を見渡した。

 

 ここからが本当の戦いだ。

 敵は“力”そのものを操る国家。

 だが――“人”の力を信じた俺たちにも、勝ち目はある。

 

 「俺たちが創るんだ。この国の、“次”を」

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