呆け

白川津 中々

 夜更けである。

 ダラダラとしていたらいつの間にか日も変わり、なんなら朝の方が近い時間となっていた。明日? 今日? ともかく、一眠りしたら仕事があるというのにこの無法、さすがにやんちゃが過ぎたと言わざるを得ない。

 口惜しいのが本当に、特に有意義な消費をするでもなく、ただ単にショート動画をスワイプし続けていたらこんな事態になってしまったという事である。資格勉強でもいいし創作でもいい。転職サイトを見るでも履歴書を書くでも、なんなら酒を飲むでもよかった。そういった事をせず、無感情に、無意味に、脳に負担が掛からない動画をエンドレスで観てしまった。何も得ない虚無に人生の一部をつぎ込んでしまったのだ。なんという後悔だろうか。給料日に歓楽街で豪遊した時と同じような気持ちになる。

 とはいえ、「じゃあ明日からちゃんと時間を使っていこう」とはならない。仕事に疲れ生活に疲れ、後はもう、何もしたくないのだ。本当に、何も、誇張なしで、何もである。飯も食いたくないし家事もしたくない。睡眠だって煩わしい。目的も何もなく、無益にスマートフォンを眺める時間が、自分にとってかけがえのない怠惰になっているのに気付く。もう一生このままいたい。眠らず食べず、動画ばかりを観て、それで死んでいきたい。それこそが願いになっている。


 時間は午前三時。

 今から寝たとて、睡眠は三時間弱。苦しみながらの起床が確定している。

 いっそ、徹夜で出社してやろうか。

 そんな事を考えながら尚も面白くもない映像を延々と眺める。

 端から見れば俺の人生も、スワイプされていく動画と同じように短く、薄いものなのだろう。まったくやるせないが、俺自身も、そう思う。


 動画がどんどん流れていく。

 時計を見るのは、もう止めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

呆け 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説