第13話


「……っ!?」


ふっ、と、体の中でとぐろを巻く熱が、手のひらから抜ける感覚がし、耳の奥で甲高い音がした。一瞬何が起こったのかよく分からず、目を瞬かせると、手の上には白色に光り輝く鈴鐘がずっしり重く、そこにあった。それを見た夜斗が、わあっ、と歓声を上げた。


「すごい! 封入出来た!」


夜斗の言葉で、封入が成功したのだと理解する。はっと玄侑を見ると、彼は穏やかでやさしい目をしていた。

……どきりとする。あまりやわらかな表情をする人ではないと思っていたが、それは香月の思い込みだったのかもしれない。


「良く出来たな。生身で力を制御することは人にとって並大抵のことではないと思うが、それをやってのけたのは素晴らしい」


そう言って、香月の頭をぽんと撫でた。手のひらからあたたかい温度が伝わって、顔が、体が、ぶわっと熱くなる。


(!? 急に熱でも出たのかしら!? 心臓の音がうるさいし、体中を血が駆け巡っているみたい……!)


母に愛されていると錯覚した時の高揚感とは違う何かが、香月を満たしていた。それはそう、自分に力があると証明された時のようでもあり、それとは違うようでもある。

混乱している香月に夜斗が抱き付いた。すごいです! とはしゃぎながら、香月の手を取り、ぴょんぴょんと跳ねている。彼女の体の振動に、徐々に喜びが湧いてきた。


「で……、出来たのですよね、わたし……」

「はい、香月さま、素晴らしいです!」


無邪気に喜んでくれる夜斗を見て、やっと香月も玄侑を振り仰いだ。


「玄侑さま、出来たのですね、私……。何も出来ずに過ごすばかりだった私が、ひとつ成せたのですね……」

「ああ、そうだ」


玄侑の肯定に、香月の中で喜びが爆発する。


「嬉しいです! 私にも、出来ることがありました!」


力があると言われても、神世でなにが出来てるのか分からなかった。玄侑が香月に食事の用意を頼んでくれていても、それを食べた玄侑がどういう力を蓄えているのかなんて、目には見えない。そう言う意味で、香月は目の前に輝く鈴鐘を見て、自分の努力の成果を知った。それは搾取されるばかりだった人生の中で、輝く一つの星となった。

香月は夜斗と手を握り合い、ぴょんぴょんと跳ねた。嬉しくて何度も跳ねる。小屋にやって来た鷹宵が玄侑に寄り添った。


「人をひとり、生かしましたね」


穏やかな表情で二人を見る鷹宵に、玄侑は思う。


(人世で奪うばかりだった俺が……)


それは確かに、香月と玄侑の時が動き始めた時だった。


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