第二部 序章 ――混沌の種子、再び芽吹く

神が去り、世界は再び“人の手”に戻った。


魔法、政治、魂、宗教……すべてが揺れ動く時代。

それは“黎明”であると同時に、“第二の試練”の始まりでもあった。


神の律を失った世界に、未知の存在が、忍び寄る。



【世界歴1007年・王都ベルグラード】


王城内の会議室にて。


「……各地で“魂の暴走”が観測されています。旧神界に近かった地方を中心に、現象は拡大中」


ルシア・エルヴァンスは報告書を手に、眉を寄せた。


「原因は? 霊界からの漏出?」


「いえ、それが……。霊界は現在も安定しています。問題は、“未知の位相”からの干渉と思われます」


「未知……?」


報告官は頷いた。


「“神ですら到達していなかった領域”から、何かが現れたのかもしれません」


「……まさか、神より上位の存在が?」


ルシアは思わず立ち上がる。


人類が自由を得た世界。

だがその世界に、新たな『影』が差しているというのか。


「……カイ。あなたなら、どうする?」


その名を呼ぶたび、彼女の手にある霊石が、微かに光る。



【霊界・最深部/魂の境界リミタス


カイはそこにいた。


今日もまた、魂の記憶を癒し、輪廻へと導いていた。


しかし――


ある日、**“それ”**は現れた。


空間の断層が裂け、“言語化不能の気配”が現れる。


――ギィィ……


音ではない何かが、魂界を揺らした。


カイが立ち上がる。

この世のどの魔物とも違う、構造すら異なる存在。


「……誰だ。お前は」


その“影”は形を持たないまま、カイに問いかける。


《汝、神を滅ぼしし者。世界を自由に導きし、反律の存在よ――》


「名乗れ」


《我は、“神を生んだもの”の端末なり。深淵よりの観測者、“ヴォイド・オリジン”》


「……神の上位存在、だと?」


影は静かに頷いた。


《汝らが神と呼ぶ存在は、我らの“試作品”に過ぎぬ。世界はなお、観測の実験場にすぎない》


「ふざけるな……!」


カイは霊剣を構える。


「俺たちは、神を超えた。自由を掴んだ。今さら“さらに上の檻”なんて、誰が認めるか!!」


《反応記録完了。干渉開始》


その瞬間、空間がねじ曲がる。


“存在そのもの”を侵食する、メタ存在の攻撃。


カイの霊格が軋む。


「……くそ、強すぎる。だけど、負けるわけにはいかない……!」


彼は剣を地に突き立て、再召喚の儀式を起動する。


「――応えろ、ルシア……!」



【王都・王城広場】


その夜、空が割れた。


霊石の共鳴が暴走し、空中に巨大な魔法陣が浮かび上がる。


王国中が騒然とするなか、ただ一人、ルシアだけが――確信していた。


「カイ……!」


光の中から、彼は姿を現した。


かつての冥府王――だがその顔には疲れと怒りが浮かんでいた。


「ルシア……また、“敵”が来る。今度は、神の上位存在だ」


「……!」


言葉を失いながらも、ルシアは彼の手を取る。


「ならば、また一緒に戦いましょう。私たちは、まだ終わっていない!」


カイは頷き、静かに言った。


「世界を救うのは、一度で足りないらしいな」


「でも、あなたが帰ってきてくれた。それだけで……世界は希望を取り戻すわ」


かくして――


第二の神話が、静かに幕を開けた。


神を超えた者たちの、その先の戦いが――

“深淵”からの来訪者を迎え撃つ、最後の叙事詩となる。

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『追放された地味職“墓守”だけど、実は神級スキル持ちでした 〜死者と契約した俺は最強不死軍団で王国をひっくり返す〜』 西村洋平 @gabigon

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