第二部 序章 ――混沌の種子、再び芽吹く
神が去り、世界は再び“人の手”に戻った。
魔法、政治、魂、宗教……すべてが揺れ動く時代。
それは“黎明”であると同時に、“第二の試練”の始まりでもあった。
神の律を失った世界に、未知の存在が、忍び寄る。
⸻
【世界歴1007年・王都ベルグラード】
王城内の会議室にて。
「……各地で“魂の暴走”が観測されています。旧神界に近かった地方を中心に、現象は拡大中」
ルシア・エルヴァンスは報告書を手に、眉を寄せた。
「原因は? 霊界からの漏出?」
「いえ、それが……。霊界は現在も安定しています。問題は、“未知の位相”からの干渉と思われます」
「未知……?」
報告官は頷いた。
「“神ですら到達していなかった領域”から、何かが現れたのかもしれません」
「……まさか、神より上位の存在が?」
ルシアは思わず立ち上がる。
人類が自由を得た世界。
だがその世界に、新たな『影』が差しているというのか。
「……カイ。あなたなら、どうする?」
その名を呼ぶたび、彼女の手にある霊石が、微かに光る。
◆
【霊界・最深部/魂の
カイはそこにいた。
今日もまた、魂の記憶を癒し、輪廻へと導いていた。
しかし――
ある日、**“それ”**は現れた。
空間の断層が裂け、“言語化不能の気配”が現れる。
――ギィィ……
音ではない何かが、魂界を揺らした。
カイが立ち上がる。
この世のどの魔物とも違う、構造すら異なる存在。
「……誰だ。お前は」
その“影”は形を持たないまま、カイに問いかける。
《汝、神を滅ぼしし者。世界を自由に導きし、反律の存在よ――》
「名乗れ」
《我は、“神を生んだもの”の端末なり。深淵よりの観測者、“ヴォイド・オリジン”》
「……神の上位存在、だと?」
影は静かに頷いた。
《汝らが神と呼ぶ存在は、我らの“試作品”に過ぎぬ。世界はなお、観測の実験場にすぎない》
「ふざけるな……!」
カイは霊剣を構える。
「俺たちは、神を超えた。自由を掴んだ。今さら“さらに上の檻”なんて、誰が認めるか!!」
《反応記録完了。干渉開始》
その瞬間、空間がねじ曲がる。
“存在そのもの”を侵食する、メタ存在の攻撃。
カイの霊格が軋む。
「……くそ、強すぎる。だけど、負けるわけにはいかない……!」
彼は剣を地に突き立て、再召喚の儀式を起動する。
「――応えろ、ルシア……!」
◆
【王都・王城広場】
その夜、空が割れた。
霊石の共鳴が暴走し、空中に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
王国中が騒然とするなか、ただ一人、ルシアだけが――確信していた。
「カイ……!」
光の中から、彼は姿を現した。
かつての冥府王――だがその顔には疲れと怒りが浮かんでいた。
「ルシア……また、“敵”が来る。今度は、神の上位存在だ」
「……!」
言葉を失いながらも、ルシアは彼の手を取る。
「ならば、また一緒に戦いましょう。私たちは、まだ終わっていない!」
カイは頷き、静かに言った。
「世界を救うのは、一度で足りないらしいな」
「でも、あなたが帰ってきてくれた。それだけで……世界は希望を取り戻すわ」
かくして――
第二の神話が、静かに幕を開けた。
神を超えた者たちの、その先の戦いが――
“深淵”からの来訪者を迎え撃つ、最後の叙事詩となる。
『追放された地味職“墓守”だけど、実は神級スキル持ちでした 〜死者と契約した俺は最強不死軍団で王国をひっくり返す〜』 西村洋平 @gabigon
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