無為の帝国
めろいす(Meroisu)
序文:風の碑文
歴史は勝者によって記されるのではない。歴史とは、風が砂丘に描く、束の間の紋様にすぎない。ある風は砂を巻き上げ、山を築き、帝国を名乗る。またある風は、ただ静かに吹き渡り、あらゆる形を均(なら)し、沈黙のうちに風景を変える。
我々が語るのは、後者の物語。
銃火も軍靴の響きもなく、ただ一つの思想と、深淵なる知性が、世界という名の砂丘を撫でていった時代の記録である。それは英雄の叙事詩ではなく、帝国の興亡史でもない。
これは、力がその意味を失い、静寂が玉座に就いた時代の、風の碑文である。
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