社畜を辞めたら最強陰陽師でした ~黒いスーツより白い陰陽服が性に合ってた件~
@knight-one
第1話 社畜辞めたら、陰陽師になってた
ブラック企業を辞めた日、俺は、空がこんなにも青いことを初めて知った。
「……あれ? 太陽ってこんなに、まぶしかったか?」
東京・新宿の雑居ビル群を抜けて、俺は足取りも軽く駅へと向かう。スーツの上着は腕に引っかけ、ワイシャツのボタンは三つ外して、ネクタイはどこかの路地に捨ててきた。もういらない。明日からは寝たいときに寝て、起きたいときに起きるんだ。
そう、俺はついに辞めたのだ。
ブラック企業として名高い某広告代理店──株式会社アズナブルを。
「お疲れ様でしたあ! 二度と戻ってこねえよクソが!」
誰もいないビルに向かって、思いきり中指を立てる。こういう自由な態度も、明日からは許される。最高だ。
とはいえ、これからのことは何も決まっていない。三十九歳、職歴は社畜十八年。特技は徹夜、我慢、マルチタスク──要するに、何の武器もない。
……と思っていたのだが。
「伊庭尚樹さん、ですね?」
突然、声をかけられた。
駅前の喧騒の中、俺の目の前に立っていたのは、まるで現代の陰陽師をそのまま実体化したような白装束の男だった。胸には黒い徽章。まるで国家機関の証のような……いや、実際そうだった。
「国家陰陽術管理機構・勧誘部の者です。あなたにお話が」
「は?」
「あなたには“安倍晴明”の血が流れています。そしてあなたの式神適性、結界力、霊視能力──いずれも最高ランク。……是非、陰陽師として国家に仕えていただきたい」
言ってる意味が、三割くらいしか分からなかった。
……なにこれ、ドッキリ? カメラどこ?
「ちょっと待て。俺はただの社畜だぞ? オカルトとか信じてないし、拝み屋にもなりたくないし、神様も仏様も全部まとめてスルーしてきたタイプなんだが」
「……では、これを」
男が懐から取り出したのは、古びた木札。
その瞬間──俺の目の前に、何もない空間から“白狐の式神”が現れた。
「っ──!」
白銀の毛並みに、赤い印。瞳に映るは生の光。
まさしく、伝承にある“上位式神・コハク”だった。
「うそだろ……!?」
「これはあなたの血に反応して顕現した式です。“覚醒”は始まっています。あなたはただの社畜などではない。“最強陰陽師の血を引く者”なのです」
俺の頭の中で、なにかがガラガラと崩れていった。
十八年間──俺はずっと、間違った場所で戦っていたのか?
「……陰陽師って、残業ある?」
「基本ありません。呪霊退治は交代制で、出動はシフト制。もちろん残業手当は法定通り、福利厚生も充実しております」
「完璧かよ!!」
──こうして、俺の第二の人生は始まった。
スーツを脱ぎ捨て、式神とともに。呪霊が跋扈する現代の日本で、俺は“最強の陰陽師”として覚醒していく。
でもまずは、昼寝からだ。
「さよなら社畜、こんにちは異能」
俺は初めて、心の底から笑った。
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