第7話 るろうに剣心ごっこの夜
京都——。
かつて「幻宮の写し」が一時的に現れたという鞍馬の山中に、悠人たちは到着していた。
霧が立ち込め、木々は異様な静けさに包まれている。
その中で、ラゼルはまるで道を知っているかのように前を歩いていた。
だが空気は、重い。
「あそこに……“写し”がある」と彼は指をさす。
一同が辿り着いたのは、かつて修験者が使ったという古びた道場跡。
草木に覆われ、朽ちた木製の看板にはこう書かれていた。
> 「神影剣術・京分派」
その文字を見た瞬間、結月が驚いたように目を見開いた。
「ここって……あたしの祖父が昔通ってた剣術道場だ。子どもの頃、よく“るろうに剣心ごっこ”した場所なの」
「剣心ごっこ?」悠人が笑う。
「うん、“抜刀斎!”って叫びながら、木刀で飛び跳ねたりしてさ。今思えば変な構えもあったけど……なんか楽しかった。
剣心って、殺さない剣士だったでしょ? でも、心の奥では“過去”に許されたいって思ってた。あたし、それがすごく好きだったの」
エリザはその言葉に、不思議な懐かしさを覚えた。
> 「罪を抱え、許されない過去を持ちながら、それでも生きようとする剣士」
——まるで、自分のことのようだ。
彼女は、あの夜の記憶——ザイールの滅亡と、封じられたラゼルの瞳、そして王として背負った“罪”に向き合う覚悟を、少しずつ取り戻し始めていた。
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その夜、結月が懐から取り出したのは、子どもの頃に作ったボロボロの布刀と紙の額当て。
「やってみない? 剣心ごっこ」
思わず笑ってしまう悠人とラゼル。そして、エリザも静かにうなずいた。
道場の床に、子どもたちのような笑い声が響く。
斬るフリ。
よけるフリ。
許すフリ。
でも、それは本気のまなざしだった。
不意に、ラゼルの剣の“形”が変化する。
「これは……
エリザがつぶやく。
ザイールで用いられていた、記憶を剣技に変換する術。ラゼルはそれを無意識に呼び起こしていた。
彼の振るった“ごっこ遊び”の一閃が、空気を裂く。
瞬間、道場の奥の壁が割れ、そこから出現したのは黒い石碑。
そこには、かつてザイールの女王が最後に刻んだ言葉があった。
> 「我、剣を収めし者に託す。痛みを知る者よ、門をくぐれ」
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「……“門”が、今開いた」
そのとき、エリザの胸元に光が集まり、幻宮の記憶の断片が形を持つ。
それは、かつて彼女が封印の前に預けた「鍵」のひとつ——“心の剣”。
それを持つ者が、世界の記憶を解き放つ。
「ありがとう、結月。あなたの“剣心ごっこ”が、わたしの“心”を動かしたの」
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次回予告:第8話「封剣と血の書」
封印された“心の剣”をめぐり、幻宮に最後の兆しが現れる。
前田家の真なる契約者も登場し、ついに「封印の宴」が始まる。
遊びは、記憶の儀式だった。
そしてその遊びが、世界を変える扉を開く。
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