第4話 天童の目覚め

 翠峰山(エメラルドマウンテン)に立ち昇る光の柱を見つめながら、エリザの胸には懐かしさと不安が混じり合っていた。

その光は、彼女がかつて自ら閉じ込めた“何か”の目覚めを告げていた。


> 「それが目を覚ましたら、すべてが終わる」

かつてそう言ったのは、王国の予言者——“天童”と呼ばれた少年だった。


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 金沢大学では、前田悠人が新たな史料を読み解いていた。そこには、戦国期に前田利家が“東北”へ極秘裏に送ったという文書があった。


> 「天童に眠る“玉児ぎょくじ”を護れ。彼こそ鍵なり。幻宮が再び開く時、彼の目が真実を映す」

——天正十八年、利家公直筆




「天童…山形県の天童市か? だとすると…前田家と東北がなぜ?」


 悠人の脳裏にひとつの仮説が浮かぶ。

“幻宮”とは異世界に通じる門であり、それを封じる“鍵”が、遠く離れた土地——天童に送られたのではないか。



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 そして翠峰山の奥深く。光柱の根元に現れたのは、浮遊する緑の結晶体。その中で、眠る少年がいた。年齢は十歳ほど、目は閉じられ、両手は胸の前で交差されている。だが、どこか人間離れした神々しさをまとっていた。


「彼が……“天童”……?」と結月がつぶやく。


 エリザはその姿を見て、はっきりと思い出した。

「名は、ラゼル。王国に神託をもたらした、最後の“天の子”」


 彼は“鍵”であり、“鏡”でもある。世界の過去と未来を映す存在。そして同時に、幻宮を守るための“契約者”。


 その瞬間、結晶体の中の少年が目を開けた。


> 「エリザ……なぜ、封印を破ったの?」



 その瞳には、翠ではなく漆黒の光が宿っていた。




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