第3話 エメラルドマウンテンの記憶

 前田利家の影が消えたあと、エリザは膝をついて呼吸を整えた。彼の霊気は尋常ではなかった——あれはこの地に残された“記憶”そのもの。

 そして彼の言葉が、ひとつの地名を呼び覚ます。


> 「再び“エメラルドマウンテン”が目を覚ましたのだ」

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 一方、金沢市内の古文書館で、前田悠人は祖父が遺した一冊の未整理文書を読み漁っていた。その中には、誰も見たことのない地図が挟まれていた。


> 《加賀国秘境図》

“山間ニ緑ノ塔ヲ見ル。其処ニ天ノ泉アリ。名ヲ『エメラルドノ嶺』ト云ウ。”


 悠人の背筋が震える。エメラルドの嶺…それはまさに、霧の中に現れた白い宮殿の背後にそびえていた緑深き山の名。地元では「翠峰すいほう山」とも呼ばれているが、今や立ち入り禁止区域となっていた。


「この山の中に…何がある?」



---


 同じ頃、エリザは山のふもとでひとりの少女と出会う。

 ショートカットに登山用の装備、首から下げた缶コーヒーには見覚えのあるラベル——“Emerald Mountain Blend”。


「これ、知ってる?父が“この味は山の記憶だ”って言ってた」


 少女の名は結月ゆづき。翠峰山のふもとに暮らす一族の末裔だった。彼女の一族は代々、この山を“封じる”役割を担ってきたという。


「本当は、エメラルドマウンテンって飲み物じゃなくて…封印の名なんだよ。緑のみねって書くんだけど、その中心に、泉があってね。女王様が…閉じ込められてたって伝わってる」


 エリザの目が見開かれる。

「それは…わたしのこと?」


 結月は首をかしげた。

「だったら、なぜ戻ってきたの?」


 その瞬間、地鳴りが起きる。翠峰山の中腹から、光柱が空に向かって伸びていく。それは“宮殿”と“泉”を結ぶ導線だった。







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