第2話 前田の影

「まるで…金沢城の幻影だな」


 その日、金沢大学の民俗学教授・**前田悠人まえだゆうと**は、大学院生からの通報でその“宮殿”の写真(だが画面には映っていない)を見せられていた。祖父の代から続く家系図を持ち、本人もまた、かの加賀藩主・前田利家の末裔を名乗る人物だ。


 悠人は霧の中にそびえるその不可思議な建築物に、どこか既視感を覚えていた。

 それは…先祖の記録にある“幻の第二城”の記述と酷似していたからだ。


> 「天正十七年、利家公、異界より現れし“白き楼閣”を記す。金箔と霧に包まれし城、現しては消えるものなり。中に、美しき外人(とつくにびと)の女王あり」

—『前田家秘録抄』




「まさか…こんな伝説が現代に?」



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 一方その頃、森を抜けて山道を歩いていたエリザは、地元の神社跡にたどり着いていた。鳥居は崩れ、石灯籠は苔に覆われているが、そこだけは不思議な静けさに満ちていた。


「ここには…“何か”が眠っている」


 彼女が足元の地面に手をかざした瞬間、空気が一変した。重い“気”が吹き出し、木々がざわめく。すると、彼女の前に“影”が現れる。鎧に身を包んだ男。目元を覆い、無言でこちらを見つめている。


「名を名乗れ」とエリザが声を放つ。


 男は口を開く。


> 「我は…利家。そなたは、再び“あの城”を開いたのか」



 彼女の背筋が凍る。

「前田…利家?それが、あなたの名?」




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