石川幻宮譚 7月までに本文が10万文字以上であること。なお、長編、連作短編等小説の形式は不門。応募受付期間終了時点までに本文が10万文字以上であること。

鷹山トシキ

第1話 石川幻宮譚

 その日、石川県金沢市の郊外にある里山では、早朝から濃い霧が立ち込めていた。地元の人々は「また山の気まぐれだ」と気に留めなかったが、7時を回った頃、霧の中に“それ”は現れた。


 最初に気づいたのは、地元の郵便配達員・佐伯圭介だった。


「……なんだ、あれは?」


 彼の目の前にそびえ立っていたのは、まるで中世ヨーロッパの城を思わせる巨大な宮殿。純白の石造りに金の装飾、尖塔が霧の中から突き出している。だが、そのような建築物がこの場所にあるはずがない。つい昨日まで、そこはただの雑木林だった。


 圭介は急いでスマートフォンを取り出したが、なぜかカメラは真っ黒に写るだけで、撮影はできなかった。



---


 一方、同じ頃——

 宮殿の最上階、窓のない塔の奥で、白いドレスをまとった一人の女性が目を覚ました。冷たい大理石の床、見慣れぬ天井。彼女はしばらく周囲を見回してから、ぽつりと呟いた。


「……また、ここに戻されたのね」


 その女性、名をエリザ・アレシア・ヴァルモンド。かつて遠い異世界で“女王”と呼ばれた人物だ。だが今は、逃げる身。何者かによってこの「幻宮げんきゅう」に囚われていた。



---


 夜が更ける頃、宮殿の裏手にひっそりと開く秘密の扉。エリザは軽やかに外へと身を滑らせる。追っ手の気配を感じつつも、迷いはなかった。


 彼女の目に映るのは、見知らぬ世界。だが、空気は澄み、星の配置が微妙に違う。

「ここは……かつての“地上界”?」


 そして彼女はまだ知らなかった。自らの出現が、石川の地に、数百年の眠りから蘇る“もの”たちを呼び起こすことになるということを——




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