その後、彼女から色々と聞いた。八百万の神と言われるように、色々なタイプの神様が居るらしい。その中でミミは若手の神様で、人間の世界で言う研究職みたいなことを中心に行っていたとのことだ。

「神様って未来のことを予知するとか、予知した結果をもとに未来の出来事を変えるのは得意なんだけど、過去に起こった出来事を変えることは現状出来ないのよ。でも、上の方から今後のために出来るようにして欲しいという命令があって、私が過去に遡る方法を研究していたの」

随分と人間社会に近いことをやってるんだな。まさか、神様の世界にも研究職が居るなんて。

「それで、それが俺のタイムスリップと何の関係があるんだ?」

「先日……先日といっても人間の世界だと数年前ぐらいね、ようやく過去に遡ることが出来る目途がついたの」

「すげえ」

どのようにして出来るのか全く想像が付かない。過去に遡るなんて、どんなに技術が発展しても人間には到底不可能なことだろう。

「でも、まだ出来ると断言できなかったから小規模なテストを行うことにした……勿論、誰にも迷惑がかからないように細心の注意を払った……払ったのだけれども」

彼女は後悔するように唇をかんで、少しためらった後に口を開いた。

「何かしらのエラーが発生してしまって、帰宅途中の田中さんが過去に飛ばされてしまった」

「私のラボにしか影響を及ぼさないように設定していたのだけれども、ほんの少しだけ影響が外に漏れていたみたいで、それがちょうど田中さんが歩いていたところと重なって……本当に申し訳ないわ」

そして暫くの沈黙。

正直、起きていることがあまりにも非日常的過ぎて全く受け止めきれない。そもそも、タイムスリップが出来るなんて思ったことが人生で一度も無いのに、自分がタイムスリップしていると言われても。

ただ、回らない頭の中で一つだけどうしても確認したいことが思い浮かんだ。

「……俺は元の世界に戻れるのか？　戻れるとしたら、どうしたら戻れるんだ？」

俺には戻るべき場所がある。何としても戻らなければいけない場所がある。

だから、何よりも気になるのは元の世界に戻れるかどうかということだ。

「仮説だけど戻れる方法は1つあるわ」

「仮説……か絶対に戻れるという訳ではないんだな？」

「ごめんなさい……まだ私にも分かっていないことが多くて」

再びの沈黙。

確実に帰れる訳ではない、だが俺はそれに賭けるしかない。

「分かった、ミミ教えてくれ……仮説でもいいから元の世界に戻る方法を」

「田中さんが元に戻る方法……それは」

「……それは？」

「それは……高校時代の陽華さんと恋をすることよ！」

力強くそう言うミミ。

それを聞いた俺が頭で処理をする前に出てきた言葉は。

「……ふざけてるのか?」