8節.パーティー

 本当に真っ白なお城だった。

 雪化粧も相まって、汚れ一つなく優美な姿を晒している。

 城の門前で、俺を含め多くの親子が整列していた。

 

 って、父よ、なぜ俺の服を脱がす!?

 

 アンカラは背負った荷物の中から、子供用のスーツを取り出すと、俺に着替えさせ始めた。めっちゃ寒い。せめて城の中で着替えさせてもらえないものか。

 と思ったら、周りの子供達も同じく着替え始めている。

 女の子もいるのに、すっぽんぽんだ。 

 まあ、どこを見ても3歳児ばかりなので、羞恥も何もないのだが。

 俺は小さな子供用の青いスーツに着替えさせられた。

 うわ、半ズボンですよ。

 正直この寒い中勘弁してほしい。

 俺は震えながら、ネクタイをきっちり締めた。


 父が何か不思議なものでも見るような目で俺を見てくる。


 俺が何も教わらずにネクタイを着用出来たのが変だったのだろう。

 前世でサラリーマンだったのかな。

 妙に手早く結ぶことが出来た。


 しばらくすると、城からファンファーレが聞こえてきた。

 重い門扉がぎいっと音をたてて開き始めた。

 中にはフカフカな赤い絨毯、暖房機によって暖められた空気がこちらに漏れてきた。

 金銀財宝でも散りばめたかのようなシャンデリアが、魔力の紫色の光を灯していた。

 衛兵が槍を上下させ、石突で地面を叩き音を響かせる。

 それが入場の合図だったのだろう。

 俺達は一斉にゾロゾロと城の中へ入っていった。

 ところで、理由を聞かなかったが、保護者は着替えなくてもいいのか。アンカラは旅の装いのまま、灰色の少し汚れた外套を着たままだった。


 城の中のホールに通された。

 うちの10倍はありそうな天井の高い広間だった。

 衛兵が部屋の四方に多く配置された中、豪勢な料理がたくさん盛られたテーブルが並べられていた。メイドや執事が美しい姿勢でお辞儀をしてきた。

 

「さて、皆さん。長旅お疲れ様でした。主の準備が整うまでの間、しばしお寛ぎください。お飲み物も各種ご用意させてもらっております。どうぞ、お子さんだけでなく、保護者の皆さまもお楽しみください」


 白髪で細目の一番老いた執事の一声で、まず大人たちの緊張が解けた。

 アンカラもリラックスした様子で、他の騎士仲間と挨拶を交わしている。

 

「さ、せっかくの機会だ。君も同い年の子らは初めてだろう。友達を作ってくるといい」

「え? 今から? ……いえ、わかりました」

 

 しかし、足がどうにもうまく動かない。

 ぎこちない感じで、同い年の子らのもとへと進んでいく。


 きゃいきゃい。


 子供達の燥ぐ声が聞こえてくる。

 もう友達になった奴らがいるのか。驚愕で俺は目を見開いた。

 羨ましい。俺も友達が欲しい。

 しかし、どうにも3歳の児童らが喋っている内容が理解できない。

 いや、意味は分かるんだけど、ノリが合わない。

 

 俺は転生後早くもボッチの気分を味わっていた。

 背後でアンカラが気の毒そうに俺を見てくる。父よ、放っておいてくれ。

 俺はボッチでも大丈夫だから。

 前世からずっと、こちとら経験が違うんだよ。

 

 アンカラは俺の方を心配そうにじっと見ていたが、隣のガタイのいい騎士に絡まれどこか別のテーブルへ行ってしまった。少し酒が入っているのか。もう酔っぱらっている輩もいた。


 俺はなんとも言えない虚しさと悲しみの中、ホールの奥にある庭に目をやった。

 あれ? なんだかあそこだけ空気が違うような感じがする。

 

 金細工で縁取られたガラスの扉の向こう側。

 雪国には珍しいタンポポやコスモスのような花や、虹色の羽が輝く蝶々が飛んでいた。

 雲の割れ目から日光がさんさんと降り注ぎ、そこだけ世界から切り取られたような空間になっていた。

 

 俺は誘われるかのように、一人フラフラと進んでいった。

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