第3話
堀井兼作はごく一般的な家庭に産まれ、
何不自由のない生活の中で、成長していった。
学業の成績や運動神経は中の上ではあるが、突出してる程ではなかった。
しかし、兼作は人の心理を読み取る感だけは群を抜いて優れていた。本人は自覚していなかったが、挙動や視線、声のトーンなどで他人がどのような感情を持っているか予想し、的中させていた。この能力のおかげで、人間関係に全く困ることなく、社会に出てからも営業マンとしてその力を発揮し、活躍していった。
「俺、なんとなく他人が何考えてるか分かんねん」
「ふーん、じゃあ、今何考えてるか当ててみて」
「他人の考えてることなんて分かるわけないやん、って思ってるんちゃうか」
「…そうだね」
やがて兼作はこの能力を意図的に伸ばしていくことに注力し始めた。そして洗脳や群衆心理、脳科学、AIに興味をいだいた。
兼作は会社を辞めて、学問として脳科学を学ぶため、大学へ戻った。
大学ではTMS(経頭蓋磁気刺激)を通じて精神疾患を治療するという分野を研究することにした。兼作はいつかTMSを脱洗脳に応用したいと考えていた。
「カルトとかマルチ商法に騙される仕組みって知れ渡ってるのに、何で騙されるんやろな。途中で気づきそうなもんやけど。カルトの信者に至っては、洗脳を解く方が難しいっていうしな。」
「堀井さんみたいに、なんでもアルゴリズムで合理的な答えを見つけ出す人間ばかりじゃないんですよ。人の気持ちは理解できるのに、共感はしてくれないというか…」
兼作は内心、安堵した。
兼作は人の心理が読めるばかりに、自分の心理もまた読まれてしまうのではないかと心配していたのだ。そのため、自身の生活や思考に法則性を持たせていった。科学的根拠に基づいた食事、運動、睡眠を徹底し、バイアスを排除した合理的思考しかしなくなった。
そう、兼作はもはや、AIの様に合理的選択しか行わない感情の乏しい人間になっていた。兼作は大学でTMS医療の第一人者となった。
人工家族〜Artificial Familiy @ms09109
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