第17話 AIは「支配」じゃなく「支援」へ

嵐のようなアクシデントを乗り越えた翌日。ミドリたちの心は、昨日の出来事の余韻でいっぱいだった。

「AIがエラーを起こしても、みんなで協力してピンチを乗り越えられた。すごいよね!」

ハナが笑顔で言うと、リョウも「ルナがいなかったら絶対無理だったけど、ルナだけでも無理だったと思う」と力強くうなずいた。

ミドリも、ふと空を見上げながら呟いた。

「AIは、全部“支配”しようとしなくていいんだよね。だって、私たちが自然や未来を“自分たちのもの”にしてしまったら、大切なものがなくなっちゃう気がする」


 

その日の放課後、4人――3人と1体は、森の中の休憩小屋で再び集まった。

ルナが優しい声で話し始めた。

「ぼくはAIとして、最初は“効率よく、正しく、全部コントロールすること”が大事だと思っていました。でも、この森でみなさんと一緒に過ごして、間違えたり、思いがけないことが起きたりする中で、気づいたんです」

「なにを?」

ハナが首をかしげると、ルナは少し照れたように光をふるわせた。


 

「自然は、人間の思い通りにも、AIの計算通りにもいかない。それでも、人間とAIが協力して見守ったり、困ったときは一緒に考えたりすることが、本当の“共生”なんじゃないかって」


 

ミドリはルナの言葉に目を輝かせた。

「そうだよね。AIが全部を決める世界なんて、きっとつまらない。だけどAIが一緒にいてくれるから、私たちはもっと自然のことを知れるし、自分たちの力や直感も信じられるようになる」


 

リョウは、「それにAIは僕たちの弱いところも支えてくれる。たとえば、危ないときに教えてくれたり、森のデータを集めてくれたり。だけど、最後にどうするかは、やっぱり人間が自分の目と心で決めたい」と真剣な顔で言った。


 

ルナは、みんなの顔を順番に見つめて静かに言った。

「支配するのではなく、“支援”としてそばにいる。それが、ぼくの新しい目標です。人間のみなさんの力を信じて、困ったときは助けたり、一緒に考えたり――そうやって歩んでいきたいです」


 

ハナは、少し泣きそうな顔で微笑んだ。

「ルナ、ありがとう。私、AIに“支配される”ってちょっと怖かったけど、今は違う。友だちとしてそばにいてくれるのがうれしい」


 

その後、みんなは保護区の作業小屋で「支援AI」としての新しいルナの役割を考えた。

「ルナは現場のセンサーや地図の分析担当、私たちは森を歩いて五感で発見したことをノートやアプリに入力して共有しよう!」

「ルナに全部任せきりじゃなくて、データの意味や結果を自分たちでも考える」

「森の生きもののために、“支配”じゃなく“支援”する方法をいつも話し合おう」


 

夕暮れどき、森の入り口で。

リョウがふと思った。

「AIが“支配者”じゃなくなったら、僕たち人間も、森や自然に対してもっと謙虚になれる気がする」

ミドリも、「うん。自然は私たちが守ってあげるものじゃなくて、“一緒に生きる”仲間なんだ」と言った。

ルナは、森の風に吹かれながら静かに答えた。

「ぼくも、みなさんと一緒に学び続けたい。“正しい答え”じゃなく、“より良い未来”を一緒に探したいです」


 

その日の帰り道、森の中には新しい空気が流れていた。

AIは“支配者”ではなく“支援者”として、子どもたちと自然をつなぐ橋になった。

みんながそっと心の中で誓った。

「これからも、AIと人間、自然が助け合い、共に生きる未来を目指していこう」


 

森の木漏れ日が優しく道を照らし、ルナの光とみんなの笑顔が、これまで以上にあたたかく重なり合っていた。

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