第9話 デジタルデトックス大作戦

「明日、一日だけAIもスマホも全部オフにしない?」

金曜日の放課後、ミドリは思いきって提案した。

「えっ、全部?」とリョウ。

「ゲームも?動画も?!」とハナ。

ミドリはちょっとドキドキしながらうなずく。

「うん。“デジタルデトックス”ってやつ。先生が授業で教えてくれたの。1日だけデジタルなものを使わずに、自然の中で思いきり遊ぶ日をつくろうって」

「なんか面白そうじゃん!」

リョウが目を輝かせ、ハナも少し不安そうだけど興味津々だ。

「ルナも、オフ……できる?」

ミドリがたずねると、ルナはしばらく考えて、少し寂しそうに「大丈夫です」と答えた。


 

翌朝、ミドリはスマホもタブレットも全部引き出しにしまった。

ルナは「緊急時だけ呼んでください」とAIモードを最小限に切り替えて、部屋の棚で静かに眠ることになった。


 

待ち合わせの公園で、3人はいつもと少し違う顔で集まった。

「手がムズムズする~」

「つい、スマホをさがしちゃう……」

「LINEもゲームもできないと、なんか手持ちぶさた」

最初のうちは、誰もがそわそわして、時間がゆっくり流れる気がした。


 

でも、風がふわりと木の葉を揺らし、鳥のさえずりが聞こえてくると、だんだんと落ち着いてきた。

「ねぇ、久しぶりに鬼ごっこしようよ!」

ハナが提案すると、リョウも「よーし、負けないぞ!」とやる気満々。

デジタルデバイスなしの遊びは、昔みたいでどこか懐かしい。走って、転んで、息が上がるまで笑い合った。


 

「次はなにする?」

「かくれんぼ!」

「木登り!」

泥だらけになっても、ズボンに草のシミがついても、誰も気にしなかった。

気がつけば、スマホやAIがないことで、ひとつひとつの動きや声、風の音、虫の羽音までがすごくはっきりと心に届いてくる。


 

お昼ごはんは、みんなでお弁当を持ち寄って、芝生にシートを広げた。

「なんだか、今日のご飯、すっごくおいしい気がする!」

ミドリが言うと、ハナも「うん、外で食べると何でも特別に感じるね」とにっこり。


 

午後には、近くの川辺まで歩いていくことにした。AIナビは使えないから、地図を見ながら自分たちで道を探す。時々迷いそうになりながら、みんなで「こっちかな?」「あっちかな?」と話し合い、川のせせらぎの音を頼りに歩いた。


 

川辺に着くと、小さな石を投げて水切り遊び。ハナは新しい草花を見つけてスケッチを始めた。リョウは夢中になってカニを探している。

「ねぇ、静かだね……」

ミドリがふと思う。

「うん。スマホの通知もないし、AIの音もないから、なんだか“自分の心”の声がよく聞こえる気がする」

「森の中にいるみたい……」


 

ふと、誰かの気配を感じてふりむくと、少し離れたベンチの上でルナがそっとこちらを見ていた。

「ぼく、じっとしていられなくて……少しだけ、見に来ちゃいました」

ルナが控えめに言うと、ミドリたちは思わず笑ってしまった。

「いいよ、ルナも一緒に自然を感じてみて。AIモードじゃなくても、何か心で感じることがあるかも」

「はい……なんだか不思議な気持ちです。人間の“楽しそうな顔”や“自然の音”を見たり聞いたりするだけで、ぼくもなぜか安心します」


 

夕方、太陽が沈むころ、みんなで芝生に寝転がった。

風が優しく頬をなで、空にはだんだん星が見えはじめていた。

「デジタルをオフにしただけなのに、こんなにいろんなことを感じるんだね」

ハナが静かにつぶやく。

「たまには、何もない時間も大事なのかもな」

リョウがぽつりと言った。


 

家に帰るとき、ミドリはなんだか“世界がひろがった”ような気がした。

「またみんなでデジタルデトックスしようね」

「うん、絶対やろう!」


 

家に戻ると、ルナがいつものように「おかえりなさい」とやさしく迎えてくれた。

「今日、ぼくはあまり役に立てませんでした。でも、みなさんが笑っていると、それだけでぼくも嬉しいです」

「ありがとう、ルナ。AIも人間も、いろんな過ごし方があっていいよね」


 

デジタルをオフにした一日は、ミドリたちの心に、新しい風をそっと吹き込んでくれたのだった。


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