男を救った悲しみ
名なし葉っぱ
男を救った悲しみ
今朝トイレに行ったら紙がなかった、そういえば昨日の夜に酔って帰って来て、大便をしながら 「トイレットペーパーがなくなっちゃうー」とか言いながら笑っていたのを思い出した。
俺の名前は 正(タダシ)、歳は27才の 普通の会社員だ。
3日前に彼女と別れてから仕事帰りについ居酒屋に入ってしまう。
昨日も一人でやきとり屋のカウンターで呑んでいた。かなり酔ってしまうまで呑んでいた。 結構呑んで、そろそろ帰ろうか……と思った時、
俺の隣りに男が座っているのに気づいた。
隣りの男も一人で酒を呑んでいた。
俺ときたら、彼女との思い出や、今までの自分の人生をふり返ったりし、それを酒で流しこんでいた。 さて、隣りで一人で酒を呑むこの男は何を思い、酒を呑んでいるのだろうか、、
そんな事を思っていた。
今の時代、 独り○○ という言葉もあるくらいだから、独りで呑んでいようが別におかしな事ではない。ただ カウンターにはまだ空いてる席があった。なんなら、ほとんど空いていた。
なのに何故?この男は俺の隣りにいるのか?
一体いつからいるのか?
4杯目にビールから焼酎に変えてからか?
..もう思い出せない、、ただ分かるのは、 その男は日本酒を呑んでいるようだ。小さなおちょこを、 大きな手で小さな口に運んでいた。小皿には塩辛があった……なんとも渋い………俺は思った…. 。
俺の目の前には、焼鳥の串や、唐揚げの油がついた皿が無造作に散らばっている。....なんだか少し恥ずかしかった。
隣りの男みたいに渋く呑みたかった…… とは思いつつも、もうかなり酔っていたので、次第にどうでもよくなっていた。
どうせ隣りの男も、なんか寂しい事があったんだろうなと勝手に思っていた。
空いているカウンターは他にもあるのに、わざわざ俺の隣りで呑んでるし、
せっかく隣りにいるので、話かけてみる事にした、
「お独りですか?」
俺は勇気をふりしぼって声をかけてみた。.. 男に話しをかけるのに何故勇気がいるのか?とは思ったが、とにかく言ってみた。
その男は、チラッと俺の目を見て、またTVの野球中継に目を戻す。
.....あれ……?無視された俺..あれ?なんで?...
いくら独りで呑みたいからといって「ええ」とか「はい」とかあるでしょ?え?なんか努ってんの?....
声をかけた事を後悔し、残っている焼酎に目線をおとしていると、隣りの男がこっちを見ているのに気がついた... でも俺は、顔をあげれなかった………見ているのは分かるんだが、なぜか顔をあげる事ができなかった………霊的ななにかではないが、なぜか見ない方が良いと思った。
すると男は、
「まぁ、元気だせよ!」と言いながらの日本酒の入ったおちょこを俺の前に置いた。
急になんだコイツは?!とは思ったが、俺は、自分でも分かるくらいに落ち込んでいたので
「元気だします俺!」と言い、隣りの男の目を見て日本酒をクイッと呑んだ。男は、自分も一口酒を呑み、こう言った、
「なぁ兄ちゃん、何があったか知らないが、俺よりはマシさ!」
... 俺は、
「そうですか?」と言ったら、男は話し続けて、
「だってな兄いちゃん、俺なんか、自分の会社が倒産し、女房と子供は家を出ていった…………残ったのはこんな身体と、膨大な借金だけだぜ?..な?俺よりはマシだろ??」
俺は「そうですね…………あの、大丈夫ですか?」俺はそう言った、 本当にそう思った。
男は、
「んぁ?俺か?………俺は丈夫夫だ!まぁよ、この歳になると何があってもびっくりもしねぇもんよ。」
俺は、
「....そうなんですか?」
男は、
「あぁ、そうさ、大概の事はな。」
俺は、
「じゃあ最後にびっくりした事を教えて下さいよ!」
と言ったら、その男は、
「そうだなぁ~.....俺の兄貴が捕まった時もびっくりしなかったし、妹がケニア人の嫁になるって聞いた時もびっくりしなかったな……。!あ.....あった、あった!最後にびっくりした事!あったよ兄ちゃん!それはな…… こんな風にな、酒呑んで酔っ払うだろ?んで、家に帰ってな、ウンコするんだよ!笑いながらな!んで、ちょうどよくトイレットペーパーが....
.....なくなるんだよ、これが………ギリギリ拭けたからな、なくなっちまった~!とか言ってトイレットペーパーの芯をぶん投げて、そのまま気持ちよくなって寝るんだよ!!
そんで、腹が痛くて起きるだろ?んで、トイレ行くんだよ!もちろん腹は下ってるよ!かなりの下りようで用をすませて一息ついて、ケツを拭こうと思った時.....びっくりしたよ……
あっ.....トイレットペーパーがねぇ~.....って気づいてな………もうなかば泣きたかったよ…………
どうすればいいかわかんなくなってな!少しパニックになったよ!まぁ、なんやかんやで、どうにかなったが、それが最後にびっくりした事かなぁ!!」
俺は、笑いながら、
「それは、びっくりもしますし、困りますね!」
男は、
「あぁ~もう恐怖だったよ! 目の前にナイフを持った奴が現れるより恐怖だったな!」
「ははははっ」俺は笑わせてもらっていた。
男は、そんな俺を見て少し寂しそうな目をして言った 、
「なぁなぁ兄ちゃん、何があったか知らないが大丈夫だ。人生本当にいろんな事があるんだ!なぁ、そうだろ?」
男は話し続ける、
「もし、兄ちゃんが俺とおなじく ウンコした後に紙がない時がきたらよ、それ以上にびっくりする事もないし、 怖いものなんて何もない!そうなんだよ!だから大丈夫だ兄ちゃん!
何があっても自分のウンコを拭けないのは嫌だぜ!!それに比べたら、もう大抵の事は、なんて事ない!まぁ..その状況がきたらの話だがな!!」
その話を聞いて俺は、本当にそうだと思った。
俺は、
「そうですね!もし僕がその状況になったらもう大抵の事にはびっくりしませんね!」
男は、
「うん!そうだ!兄ちゃんそのいきだ!じゃあ人生は長いんだから頑張れよ!!」
と、俺の肩をポンッと軽く叩き、男は店を出て行った。
そんな事があった次の日、俺はトイレでビックリして大笑いしていた。 こういう事か!おっちゃん…!そうだな!....本当にびっくりしていた。冷や汗がとまらなかった 。一寸先が不安な気持ちになる、今の状況が怖かった………
ケツについた ウンコ をどうしようか....と
でもおっちゃんに話を聞いていたから、ビックリはしたものの、これで俺の人生もうビックリする事なんて起こらないぞー!!と思っている。
なんやかんやでトイレの危機を乗り越え、部屋に戻り、 タバコを吸いながらTVのニュースを見ていた。
すると、昨日のおっちゃんが映っていた。
なにやら、人生が嫌になり通り魔事件をしたのだ。
楽しそうにしている人、幸せそうな人を狙ったみたいだった......。
俺はTVを無心で見つめていたが、びっくりはしなかった。ただ……少し前に彼女と別れて、 初めて、別れて良かったのかもしれない.....と思えた。
男を救った悲しみ 名なし葉っぱ @happananasi
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