第17話 エルフは存在がチートな件
オークを襲撃してナイフとナタと蜂蜜と革製のナップザックを手に入れ、村を襲撃して硬貨を手に入れ、ようやく森を出たと思えば草原、そうして川を歩き続けたらようやく人里にたどり着いたが、戸籍を証明しろとか言われて大混乱に陥った間に一旦捕まった、捕まったがなんかすぐ一次許可証を銀貨一枚でくれるというのでニセ金を投げて渡してやった。さて、身分証明書を貰えるっぽいから街の中央、総合ギルドへと向かいテイマーギルド辺りにでも登録しようか。
ようやく、ようやく街の中だ。こちらに来てほぼ一ヶ月はかかったと思う。
街の喧騒というのはひどく懐かしいものだった。従魔達が居たから寂しくはないし楽しかったが、やはり人の声を聞けるというのは悪くないものだ。うるさいけど。
「さ、皆行くよ、いいかい、その辺にあるものには触らない、人間が舐めた真似をしてきたらぶっ殺していいからね」
「「「「キュシャミュプスバアア!!!」」」」
「いややめろよ!絶対に!」
ん?と思い振り返れば先程門の前に居た兵隊と同じ装備の人間が凄い剣幕でこちらへ近づいてきていた。顔は覚えていないが、多分さっき出会った人か?少なくとも隊長さんじゃなさそうだ。
「うーん、舐められたら殺せ、ってよく言われません?」
「ここはそういう場所じゃない!大人しく道の脇を通って歩いてくれ、頼むから」
「だってさ、人は食べるなって」
「「「「キュシャミュプスバアア……」」」」
「うんうん、こちらの意図を汲み取ってくれる良い子達だ」
兵隊はマジかよこいつという顔をしつつも、さすがに冗談だと気がついているようだ。クソデカノウサギとクソデカヤギはさすがに肉食ではないとわかってるだろうからなぁ。
「うーん、シノノメはホクトの上に乗って移動してもらっていいかな、オーマは俺の腕」
仕方無いとキュシャキュシャ言ってくれるホクトにしぶしぶ乗っかるシノノメ、そろそろこのクソウサギも可愛く見えてくる時期である。
じゃあ出発、と進む。道は石を敷いてあるということもなく、踏み固められた土の道だ。飛行船があるような技術力だが、インフラには力を入れてないんだろうか。
街の臭いは思ったよりも臭くない。道端にタバコとか痰とか落ちてそうなものだが、なんなら生ゴミの類やクソっぽい物も落ちていないようだ。
門の付近だから治安が良いのだろうか。それと、何か知らんがさっきの兵隊さんが俺の後ろをついてくる。オーマが肩越しに威嚇し、メラが俺の後ろについた。ホクトは俺の前を歩いているがシノノメは俺のほうを向いている。
「うーん警戒されてるなぁ、兵隊さん、ここそんなに治安悪いんです?」
「この時間帯は冒険者も傭兵も道をそう通らないからそこまででもない、なんなら一番治安を悪化させる存在はお前だ」
「ひどーい」
「何を言われようとも人をぶっ殺していいぞとか従魔に言い出すやつを警戒しない衛兵は居ないからな!?」
「あ、衛兵さんかぁ。総合ギルドの道ってあってます?」
「あってる、あってるから大人しく進んでくれ、頼むから。よくよく考えたらお前の従魔、従魔証ないし……」
お、新しい単語が出てきたな、クッキーのように叩けば叩くほど数が増えるね。
「その従魔証ってのが無いと人を殺したらまずいんで?」
「あってもダメだからな!!??何なんだよお前!従魔証ってのは動物が従魔術によって制御化にありますよっていうしるしだ!テイマーギルドで発行してもらえるから絶対に発行してもらえ!」
「うーん親切!ありがとうございます」
「俺やだよぉ!こいつ見張ってないと何するかわかんない!!捕ま……無理、このデカいの二匹は無理」
失敬な、ちょっと聞いてみただけじゃないか、あえて物騒にしてみると全部教えてくれるのでありがたいな。
▽▽▽
そうして無言で俺の後ろをついてくる衛兵さんはスルーし、みゅーみゅーうるさいオーマを宥めつつ、中央の円形広場と思わしき場所までやってきた。
この円形の広場はかなり広いな、いや、相当広い。学校のグラウンドぐらいはある、きっと1000人ぐらいならなんとか収容出来るんじゃないか?
広場の中央は何も無い、ただの広い土地だ。今は馬車が休憩してたりするみたい。
そしてその外周、学校のグラウンドで例えるならトラックに当たる位置を全ての馬車が反時計回りに歩いていた。え?これラウンドアバウト?よく見れば広場の外周にも衛兵の服を着ているものが何人かいる。足元が土なだけで思ったよりインフラしっかりしてんな。
さて、金槌と鍬を組み合わせた看板……デッカ、あったわ。国道沿いのファストフード店並に目立つデカい看板が立っている。
その看板がある敷地には飾り気のない無骨な三階建てだと思われる建物が広がっていた。敷地も建物もかなり広い。
ただ特徴的なのは敷地に入って真っ直ぐのところ、入口と思われる場所がぽっかりと大きな口を開けているところだろうか。総合ギルドという語感から市役所や警察署のような入口を予想していたがホームセンターの資材館入口を思わせる大きな入口であった。
その総合ギルド入口と思われる場所には馬車がまぁまぁの頻度で入っていく。馬車は幌付きだったり、ギッチギチに荷物をくくりつけてあったりと統一されている気配は無い。
車と歩行者が同じところから出入りするのめんどくさそう。
「ついたみたいだ、じゃあ衛兵さん、ここまでの案内……案内?ありがとうね」
「いや何別れますみたいな空気出してんだよ、ここまで来たらお前がきちんと登録出来るかまで見ていくからな」
「えぇー……」
「ミュッミュー!」
オーマも不満だと言っています。
「まぁいいか、皆行くよーあのデッカイ門、開きっぱなしだと埃いっぱい入ってきて大変そうだなぁ」
あれだけ大きい入口なのは割と助かったというか、ホクトやメラが入れない入口だとどうすりゃいいか困ったしね。
先頭をホクト、次に俺、後ろにメラと衛兵さんの隊列で総合ギルドの方へと足を進める。ちょっとどころじゃなく目立っているようで、すれ違う人間や同じ方向へ進む場所の人間などがこちらをジロジロと見てくる。暴力を仕事にしてなさそうな人間にはきっちり睨んでおこう。
総合ギルドの入口……門?の敷居を跨げば外から見えていた通りの内部が見えてくる。受け付けと思われるカウンター、その周囲で座って待つための椅子、馬車の停留所や店のような物、酒を飲んでいる者の姿も見える。
「雑多だなぁ……分けようと思わなかったのかな」
「商業ギルドと冒険者ギルドの長が殴り合いの殺し合いにまで発展した大喧嘩の結果、わだかまりが全て流され和解してこうなったそうだが俺から見ても雑多も良いところだよな……」
「現地民にすらそう思われてるのか……これ勝手に受け付けに行って良い感じ?」
「正面のところは冒険者と商業だぞ、えーとテイマーは……あっちだな」
そういって衛兵さんが指さしたのは建物の端、くたびれたおっさんが受け付けに座っているようだったが手招きまでしている。うーんあそこだな。
「どうも~」
「ど~も~め~ずらしい~!ケイブスパイダーでしょうそれ~」
「テイマーギルドの登録?に来たんだけど、そもそも登録したら何があるのか知りたいんだが」
「無視か~そ~だね~、テイマーギルドは文字通りテイマー達の互助組織だよ、組合員は仕事の斡旋、戦利品の買取と宿の斡旋や手配を受けられるね、特に宿の斡旋が大事でねぇ……君のところみたいな大物を部屋に宿泊させられるところってそう無いからね」
「ん?部屋?俺としては馬小屋に泊めさせられるかなって思ってたんだが」
「臆病な馬も居るから絶対ダメだねぇ~、ちなみにうちからだと、ミルクビッグゴートの統率の仕事、畑を荒らす害獣たるノウサギの討伐、シルクや毛なんかの買取を斡旋出来るからメリットいっぱいだよ~」
シルク類の買取はありがたいな……ただこのおっさん、喋り口がのんびりしてるだけで眼光がちょっとキツい気がする。
「なんでもいいからこいつを登録して身分証明書を作ってもらっていいか、こいつ、戸籍が無いんだと」
「ほ~、ズン君がなんでこんなところまで来てるのかと思えば。あぁ、僕はヴァナックだよ、君の名前は?」
「シンだ。こっちはホクト、オーマ、シノノメ、メラだ」
「よろしくね~」
「「「「キュシャミュプスバアアア!」」」」
俺の紹介の後、従魔達を名乗らせるとヴァナックの眼光は鋭いまま、ちょっと表情が柔らかくなった気がする。っと、いつのまにか受付の台の上ににゃんこが来ている。真っ黒にゃんこはかわいいにゃんこ~。
「うんうん、それじゃあなんで戸籍が無いか教えてもらえる?」
にゃんこは逃げる様子を見せないので手を伸ばして頭を撫でてやると大人しく受け入れた。ゴロゴロと鳴き始めるいいにゃんこである。うわにゃんこ可愛い、俺って別にそんな猫好きじゃないはずだが?にゃんこ可愛い。
「 な ん で 戸 籍 が 無 い か 教 え て も ら え る ?」
「あっはい」
「ミュゥ……」
「キュシュァ……」
「プスゥ……」
「バァァ……」
気がついたときには森に倒れていて、記憶が無く、蜘蛛に襲われるも従魔にする、そんなカバーストーリーをつらつら語っていく。
最初の部分だけは大嘘だが、オークの追跡とかは本当なのでまぁびっくりするほどスラスラと口が回る。そうしてようやく街にたどり着いたら戸籍なるものが必要だと言われたのでここでその戸籍を貰おうと思っている。そう伝えた。うさぎなでなで。
なんか知らんがシノノメが怒りながら俺の手に頭をこすりつけてきたのでなでなでしている。みゅっみゅーって声も聞こえる。
「ふーん……近くにオークの村が出来てたのかぁ、冒険者ギルドはこれ知ってるのかな……」
「森に入って三日は村の位置がちょっと近すぎるな……」
「そういうもの?」
「そういうものだね~」
受付のおっさんはそう言うとわら半紙じみた茶色い質の悪そうな紙をこちらの前に出してきた。
「これ、登録書類なんだけど、文字書けそう?」
「無理だな」
「だよね、代筆するよ、あぁ、この紙は君の名前と従魔となる動物の種類、名前を書いて保存するものだよ。それと代筆する人は商業ギルドや冒険者ギルドの掲示板で仕事を探してるから、何か書く必要が出たらそっちを頼ってね、掲示板の位置は君の後ろ、入口側の壁にいっぱい張られてるからね」
なお、俺は言語理解があるため彼がきちんと代筆しているのか、どんな項目があるのか、というのがわかるんだよね。それを踏まえて彼が書いているものを見ているが、俺達の名前と種族だけ書かれている。俺やっぱドロエルフらしいよ。
「よし、次は魔力登録だね……これは魔力を計測し、登録する魔道具だよ。これでギルド共通の銀行口座を開設し、総合ギルドのある街なら──」
「へぇハイテク」
「──……どこでもお金を下ろせるからねぇ」
ヴァナックさんはそう言うと半円球かつ半透明の物が乗った木の板をカウンターの上に出してきた。多分これ手を触れるやつ?
「で、これに手を置いてもらっていいかい?軽く光って、魔力の数字も出るから」
そっと半球体のものに手を触れると深く濃い青の光が現れ、消えた。いやーあの青すっごい見たことあるなぁ、棒っぽい色だった。
ヴァナックさんは顔をしかめているが……すぐ元の温和そうな表情に戻る。
「魔力値八千か……」
「それ、多いんだよな?」
「普通のウォーカーからすると滅茶苦茶多いな」
そう衛兵のズンさんが茶々を入れてくる。
「エルフという種族からすると恐ろしく少ない気がするね……普通は桁がもう一つ二つ多いんだが、まるで子供の魔力量だ」
「ふーむ?」
エルフという存在"は"チートらしいっすね……、これでも俺の魔力、毎晩気絶するまで訓練してたった一ヶ月でこれだけ伸びたんですがね、徐々に伸びは悪くなってるけど。
「ところでその魔力っていうやつ、数値化されてるみたいだけど一体何が基準なんだ?魔術使っても減った気がしないんだけど」
「ん?あぁ、属性魔術は使えるのかい?無属性魔術って呼ばれるものがあってね、これは誰でも使えるからお金に余裕が出来たら掲示板の魔術教えます系の掲示を引っ剥がして魔術を教わるといい、それでその無属性魔術の"魔法の矢"という魔法が一発で魔力一を消費する魔術とされていて、それを基準に数値化しているんだ」
「つまり俺は魔法の矢を八千発撃てると、ズンさんは何発?」
「五百発だ」
才能と生まれの差ってエグいね……。
「さ、君の身分証明書が出来たよ、無くしたら再発行には銀貨五枚かかるから……ちなみに登録料は銀貨一枚だけどあるかい?それともズン君が建て替えを?」
「いや、自分で払いますよ」
「俺はこいつがきちんとここまで来れるかどうかの見張りです」
「ふぅん、どうやら問題児のようだね」
ちゃんと本物の銀貨を一枚カウンターの上へ提出すると、代わりに名刺サイズの木板と直径一センチ程度の孔雀石っぽい石がハマったものを渡された。
木板には俺の名前、種族、特徴、そして従魔達の種族と名前が書かれている。こいつを首に吊るしているらしいんだが、専用のケースが必要じゃない?
「あ、入場証ここで返せばいいんだっけ」
「そうだね~、ついでにそれ、冒険者ギルドの受付にもっていってくれるかい?そうすれば冒険者としても登録されるから」
「うーん、ここ総合ギルドなんだからまとめてやってくれないのか?」
「あくまでギルドの受付がまとまってる場所って意味だからね、テイマーギルドクーオ支部本館は別のところだし……」
「そっかぁ、じゃあ冒険者ギルドのほうにも行ってくるわ……あぁ、衛兵さん、案内ありがとうな」
「悪さをするなよ、人を食わせるな、真面目に働け」
「真面目だよ、真面目……」
今日は冒険者ギルドの登録をしたらテイマーギルドに宿を斡旋してもらって……街歩きはどうしようかな、やっときたいな
「あぁ!ちゃんと戻ってきてよ!従魔達の証も用意しとくからね!」
「了解です!」
▽▽▽
「で、これどういうこと~?」
「なんて言いますかね……変な感じがして……」
「まぁおかしいよね~変だよね~でもさ~」
「猫ちゃん一切反応してないの不思議ですね……」
「悪いやつじゃないってさ~」
「その猫ちゃん好きなヒトに悪いやつはいない理論どうにかなりません?」
「そうはいっても魅了魔術かけて思考精査して、悪意とかそういうの感知する性悪マジックキャットだからね~この理論は証明済みだよ~」
「あとは人間の言葉が使えれば完璧なんですけどねぇその猫ちゃん……」
「猫ちゃんだからね~」
───
間違えて午前11時に予約投稿をしたみたいです
なので今日の夜9時にこちらは何も投稿がされません
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます