第3話 とりあえず全部持ち出して見る件

 よし、魔術の検証は一旦止め、やるべきことは他にもあるし、とりあえずスクロール使っとこ……とその前にスクロール自体を鑑定してみるか。


 隠密のスクロール、素材はウォーカーの皮と出た。ウォーカー……?歩くもの、アンデッドをこんな呼び方してる作品あったな。スクロールを広げて使用。隠密技能、見つかりにくい動きが出来るようになる、相手の視界を予測出来るとも。


 解体のスクロール、うーんこれもスクロールの素材は同じ。使ってみると動物の解体方法の理論を理解出来た気がする。血抜き、皮剥ぎ、内蔵取り……実践はしないとダメみたいだな。動物の解体ってまず柔らかい肛門から始めて内蔵を取ると肉に汚物がかからなくて痛みにくい、と。へぇ~。


 従魔術のスクロール、使うと新たに魔術を覚えたようだ。合意の上で相手を隷属させられることが出来る魔術ね。隷属させると魔術的繋がりを得る。お互いの位置がぼんやりとわかり、お互いの力を共有する……使ってみないとわからん。


 多分ゲームでよくあるテイムとかそういうやつだろうか。隷属っていう表現が気になるなぁ、翻訳の問題だろうか?それはともかく猫とか犬とか従魔に出来たら良いかもしれない。あとは鳥?


 礼儀作法忘却のスクロールは使う必要が無いだろう、収納リングの肥やしだ。異世界では日本の礼儀・マナーを忘れたほうが良いか?という問題もあるが、これを使って礼儀を忘れるのではなく礼儀作法忘却という技能が取得してしまうほうが怖い。新たに覚えられない可能性がある。野人だ野人。


 自分の出来そうなことの検証は一旦置いておくべきだろう。多分、飲み水は出来たが食べ物が無いしこんなかび臭いところで眠りにつきたくはない。危険性はあるが外に探索しに行き何かしらの食料もしくは友好的な人と遭遇をしたいところだ。


「石材君収納、ヨシッ!思ったより遠いところのが取れるな?3メートルぐらいが射程か」


 ついでに出るのもやはり3メートルぐらいだ。勢いつけて射出!みたいな機能は無くそのまま空中に現れゴトっと落ちる石材君。そっと置くことも出来るが石材の利用は近くに来た人の頭に落とすだけだな。


 さて、まずは収納リングが入っていたこの石の箱を収納。入る入る。次はこの部屋の端で積もってるゴミを全部収納してみる。うむ、チリは一つではなく一塊という認識で収納されるし、窓PC風にカスタマイズされたフォルダ画面にも一塊の木材の塵(腐)とか表示される。


 そうやって部屋のゴミをなんとなく収納していくと変なものが入ってきた。


 <状態保管付与つき瓶に入った上級ポーション>


 鑑定鑑定っと……瓶の大きさは五十ミリリットル瓶ぐらいだろう。かゆみ止めの塗り薬と同じぐらい小さな瓶で片手で3つぐらいは同時に持てる。


 鑑定内容は……状態保管は中身が腐らないように出来ている、と。上級ポーションのほうは後天的な身体欠損の怪我程度なら治る、内蔵も可能。基本は内服薬、患部にぶちまけてもよし。魔法的なアレソレで一気に生えるし健康になる。


 地球の医療技術を否定している代物がいっぱい置いてあったようだ。ゴミ山の中に割れた瓶がかなり見える。さっき木材の成れの果てを蹴り飛ばしたし、ここは薬瓶を置いておくところだったんだろう。


 王家の隠し通路の中でも最後の手段って感じだったが、それでも薬を保管しておきたかったのかな?とりあえずこれも有り難く収納リング行き、ついでにお気に入りフォルダとか作って別枠で保管……出来たわ。これ便利だなぁ。


 緊急医療薬が十本以上あるので実質怪我し放題だな、絶対しないが。したくないが?痛いの嫌だよ。ワクチン接種の時毎回きちんと「注射痛いの嫌ですよろしくお願いします!」って申告してた程度には嫌だ。全部きっちり痛かった。


 そういえば、さっきの罵倒紙片に歴代の王様が隠し通路への貯蔵の際、思ったよりも余った上級治療ポーションをここに置いていったと書いてあった。使わないことを願うとも。なんで勇者召喚用の部屋が埋もれてるのやら。


 一瞬、一本ぐらい飲んどくか?理由のわからない状態でもあるしというのが頭の片隅によぎったが、鑑定さんいわく健康と表示されていたのを思い出し、留まる。ラストエリクサー症候群では無いのだが、何も起きてない状態から使う必要も無いか。


 もっとも、そんなファンタジーちっくな物があっていいのだろうかという思考もある。困ったら使う前に一回ぐらいは実験しといたほうがいいよなぁ。




 なにか硬い物が擦れる音がした。




 今更だがこの部屋には通路が二本ある。片方が俺が来た道、もう片方は隠し通路の推定出口へと通じる道だ。擦れる音は出口のほうから聞こえる。




 逃げるべきだ。




 収納リングに石材は入っているが戦闘とか論外。今の俺はホラーゲームの無力な主人公よりも非力──いや魔術あったな?──である。しかし何かは俺の想定よりも遥かに近かったようで、すでに部屋の中に居た。


 まず目に付くのは四つ横に並んだ赤い丸、次にその後ろに大きく盛り上がった胴体と思える部位。でかい、でかすぎる蜘蛛がそこに居た。目も多すぎるだろ。カチカチ、と口に該当する部分が音を立てる。鑑定、鑑定だ。


─────────────────────────────


 種族:ラージケイブシルクスパイダー

 状態:六肢欠損(残存二本)

    空腹(自然治癒のために食事が必要)


 ・洞窟や谷底などに住み着く巨大な毒が無い蜘蛛。

  成体のサイズは全長二メートル

  体重は最大で八十キログラム以上に達する。

 ・食性は雑食。

  主にキノコや草を食べるが果実や種子も好んで食べる。

  虫もおやつ感覚で食べる。

 ・特徴的な黒い糸は営巣や移動時に使うことが多い。

 

  大型生物を狙う時は腹が減っているときだけだ。


 備考:焼いたら食える

 

─────────────────────────────


 ラージケイブシルクスパイダー……確かに足が足りないようだ。鑑定の情報が俺にやったときと違う。今は二本足の蜘蛛、まだ歩けるようだが今は止まっている。蜘蛛の口、目の下の部分だけがわちゃっと動いていて……液体が垂れた。よだれかな?


 こっちに飛びかかってくる!


「『放水だ!』」


 イメージしたのは暴徒を鎮圧するときに使われる放水銃。しかし出たのは蛇口をひねって出てくるような水が蜘蛛にびしゃびしゃとかかるのみ。あっれぇ?魔術ってイメージ通りの現象が起きるんじゃ無いんですか!?鑑定さんがそんな感じの説明してたよ!?


 蜘蛛の取った行動はそのまま体当たり。想像よりは遅いから避けようと思ったがそもそも蜘蛛がデカすぎて避けきれない。石の箱しまわなきゃよかっtた。


「ぼびゃごっ!?」


 気がついたときには床に叩きつけられていた。クソが、すでに俺の上に蜘蛛が居る。だからヤツの頭の部分からちょいと上に先程の石の箱を出し、蜘蛛さん横っ飛びしましたねぇ!?


「うおおお!?」


 急いで横に転がったおかげで、石の箱は無事俺の耳をかすめただけで済んだ。やつの上に落とすつもりが自爆で死んでしまう!すぐ跳ね上がり蜘蛛の方を見やると、近くなったおかげか青い薄ぼんやりの視界でも蜘蛛の怪我の具合が見て取れる。


 残されている足はかなり太い、俺の太ももぐらいあるんじゃねえかな。それが力任せにぶった切られたのだろう、付け根は切られたらしい断面が見えるが体液が漏れ出ている様子はない、断面は黒く染まっている。


「勘弁してくれ、俺はまだ死にたくないんだ。」


 どうするべきか、石材を手元に出して棍棒代わりとする。蜘蛛はキュシャ、と一声上げると顔の部分を上下に揺らした。何だ?蜘蛛って鳴き声あるの?いやとりあえず土魔術で盛り土をして壁を……突っ込んできたァ!!


「オギャッ!?」


 思いっきりまた体当たりしてきやがったが、今回は俺の勝ち、口の部分に石材を思いっきり突き出してやったがうまくいったようでぶつかった。俺はまたふっ飛ばされ石材もどっか行ったが、ヤツもまた顔を振っている。


 そういえば身体強化魔術!「『力よ!湧け!』」さらにリングから石材を取り出すと発泡スチロールの塊でも持っているのかってぐらい軽い。これならなんとかなると跳ね起きようとしたら全身に衝撃があった、なんだ何もして……腕が動かん?


 俺は今仰向けの状態で立ち上がろうとしているところ、だった。足をばたつかせると何かの衝撃とともに足が動かなくなる、いやちょっとだけ動くが強力に引っ張られる力がある


 半袖シャツから伸びた素肌の右腕から粘ついた感触がする、腕には黒い物がへばりついていた。身体強化魔術は腕に通っているが床から腕が上がらない。ヘドロ?粘着液……。


「糸かよ!!」

「キュシャー」


 そのとおりだ、と言わんばかりに蜘蛛が返事をしてこちらに向かってくる。ダメだ、生きたまま食われるだけはダメだ。それだけは嫌だ。何か、何か……!おい、こいつ、会話出来てないか!?


「蜘蛛!薬がある!お前の足を生やせる!治せる!取引しよう!俺を見逃せ!そしたら俺はお前に薬を使う!」


───

初日なので3話同時投稿です

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