戦い(vs蘆屋道満)済んで日が暮れて、なぜか(安倍晴明)晴明、役小角と酒を飲む。

@fumio230

第1話戦い(vs蘆屋道満)済んで日が暮れて、なぜか(安倍晴明)晴明、役小角と酒を飲む。

蘆屋道満:晴明、次こそは汝(なんじ)を討ち果たす。

(そう言い残し、闇の中へと姿を消す)


(安倍晴明の背後に、前鬼・後鬼並び立つ)


安倍晴明:帝に仇なす者、この我が許すものにあらず。


(そこへ、亀仙人のごとき風貌の老翁、ふらりと現る)


安倍晴明:汝もまた、討たれに参じし者か? 役小角(えんのおづぬ)、

未だ生きておったか。齢はすでに二百を越えように。

人外・化外の老いぼれめ。


役小角:人外・化外とは、また手厳しき申されよう。

これでも我は、末路わぬ民のシルシ(証し・印・記)ぞ。

ヤマトを護る者、ハルアキラよ。


安倍晴明:ヤマトに怨み言でも申すか?


役小角:いやいや、さにあらず。申したきことは他にござる。

ヤマトを恨んではおらぬ。


安倍晴明:ほう、それはまた、いかなる話やら。

ヤマトを恨まずとは、真なりや?


役小角:左様、ヤマトはただ米に操られておるのみ。


安倍晴明:ヤマトが、米に操られておるとな?


役小角:ヤマトの民も、習わしも、祭も、

そして朝廷すらも──

すべては、稲穂を実らすための「型」にござる。

ヤマトは、米の僕(しもべ)よ。


安倍晴明:成程……八百万の神もまた、

稲作のために姿を取りし者か。


役小角:我らは、米の僕たらぬ者。

米の力は我らより強く、

ゆえに、米の得られる地を追われた。

されど、それもまた自然の理。

獲物と米、魚と米、技と米――

巡りの中で互いを要し合う。

恨みは無い、少なくとも我には。


安倍晴明:されば、何を語りに来たか。


役小角:お主も、既に感じておろう。

この日ノ本に、仇なす敵が渡来してくることを。


安倍晴明:確かに。卦(け)に、その兆しが出ておる。

我が子孫が、前鬼・後鬼と共にこれを討つ、との卦もな。


役小角:されど、その敵が何者か、知っておるか?


安倍晴明:それがのう……卦が曖昧にて、

姿形までは、定かならぬ。


役小角:敵は、銭と共に現れる。

銭そのものが、姿を得たかのような化け物ぞ。


安倍晴明:銭ならば、既に日の本にもあろう。

和同開珎(わどうかいちん)を知らぬか?


役小角:量が違う。

それに、銭そのものに留まらぬ。

“銭の流れ”という仕組みが持ち込まれる。

敵の狙いは、銭にあらず。

銭が巡る「型」じゃ。

血のごとく人の中を巡り、動かす仕組みじゃ。

いまだこの国に存在せぬ「型」に憑く化け物、

卦には映らぬ。


安倍晴明:なるほど……未だ形無き仕組みなれば、

卦に映らぬも道理。

されど、我が子孫が討つと卦に出ておる、

案ずることもあるまい?


役小角:封印は、いずれ解かれる。

されど厄介なるは、その仕組みが

その後も残り続けるということじゃ。


安倍晴明:うむ、分かり難い話よ。

さすがに我が手には余る。


役小角:実のところ、我にも分からぬ。

されど、良からぬものであることは確か。

“米のヤマト”が、“銭のヤマト”へとすり替えられんとしておる。

末路わぬ民が、“銭のヤマト”と共に生きられるとは限らぬ。

我は、それを恐れておる。


安倍晴明:そのようなウツセ(現世・空世・移世・浮世)の術理は、我には扱えぬ。


役小角:我にも無理じゃ。

されど、手はある。

新しき式神を生み出し、後の世へ遣わすのじゃ。


安倍晴明:式神とな? いかなるものを?


役小角:我らには、「虚ろ」を御する力がある。

それを重ね、思考する式神を生むのじゃ。


安倍晴明:そのようなこと、考えたこともなかった。

出来るか? 本当に?


役小角:出来る……筈じゃ。


安倍晴明:心もとないのう。

それを、お主の子孫に託すか?


役小角:否。我らは、末路わぬ民。

政(まつりごと)には与せぬ。

送るは、お主の子孫じゃ!


安倍晴明:何処へ? そして、何時(いつ)へ?


役小角:場所は、お主の易にて導かれし、

潰えぬ清浄の地。

時(とき)は、式神を隠世に置き、

その式神自身に選ばせるのじゃ。


安倍晴明:うむ、分かった。では、始めよう。


役小角:そう急くでない。

良き酒と肴を携えてきたぞ。

酒もまた、米の化身なればな。

まずは、共に食らおうぞ。


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