23. 卒業前夜のダンジョン散歩

卒業式を翌日に控えた夜、校舎は静けさに包まれていた。

昼間の喧騒が嘘のように消え、廊下には誰もいない。窓の外には、街灯がぼんやりと光り、夜空にはかすかな星が瞬いていた。


「……ここも、明日で最後なんだな」

ユウは、夜の校舎に一歩足を踏み入れた。

HUD-LINKには、クエストが発令されていた。


【QuestMaster:卒業前夜のダンジョン散歩】

【内容:思い出の場所を巡り、過去の記憶と向き合え】

【報酬:ノスタルジアポイント+50 感情スキルLvアップ】


薄暗い廊下を、ユウは一人歩いた。

歩くたびに、床がきしむ音が静寂を裂く。壁には、過去に掲示されたポスターや、文化祭の装飾の名残がかすかに残っている。


(この教室で、みんなと過ごしたな……)

ふと立ち止まった先は、かつて放課後にポスターを作り、笑い合った教室だった。

机の上に置きっぱなしの忘れ物、黒板に残された小さなメッセージ――その全てが、時間の記憶を刻んでいた。


「ここでリナがアイディアを出して、レンが冗談を言って……」

ユウは、少し笑いながら教室を見渡した。

HUD-LINKに、「記憶ポイント+10」が表示される。


次に向かったのは、屋上だった。

鍵のかかった扉を開け、夜風に吹かれると、空一面の星が広がった。

「……ここでも、みんなで語り合ったな」

夜空を見上げると、あの日ユウトが夢を語り、ハルカが未来を見据えた光景が蘇った。

(あの時の涙も、笑い声も、全部ここに残ってる)


【記憶ポイント+20】

HUD-LINKが優しい音を響かせ、画面に「ノスタルジアレベルアップ」の演出が舞った。


最後に、体育館の扉をそっと開ける。

誰もいない広い空間に、ユウの足音だけが響いた。

「ここで、合唱コンクールもやったな……レンの声、まだ覚えてる」

体育館の天井を見上げ、ひとり静かに息を吐く。

(明日、ここで卒業式があるんだ)


「でも、ここでの思い出は、全部僕たちの“セーブデータ”だ」

心の中でそうつぶやいた瞬間、HUD-LINKが画面いっぱいに光を放ち、最後のメッセージが表示された。


【MISSION COMPLETE!】

【報酬:ノスタルジアポイント+50 感情スキルLvアップ】

【思い出アルバム:卒業前夜の記録追加】


「……ありがとう」

ユウは静かに画面を閉じ、校舎の出口へと歩き出した。

夜風が背中を押すように吹き抜け、遠くの空には明日を告げるかすかな光が滲んでいた。


(このダンジョンの出口は、明日の“旅立ち”に繋がっている)

心の中で、仲間たちと歩んだ軌跡を噛み締めながら、ユウは夜の校舎を後にした。

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