22. パラメータ“勇気”、書き換え中
冬の朝はどこか透明感があり、校舎の窓ガラスが白く曇るたびに、ユウの胸にも小さな緊張感が広がった。
進路希望調査を提出したあの日から、周囲の空気は少しずつ変わっていた。
クラスメイトたちはそれぞれの道に向けて動き出し、掲示板にはオープンキャンパスや推薦試験の日程が貼り出されていた。
その日、ユウは進路面談の日を迎えていた。
「……大丈夫かな」
教室でひとり、HUD-LINKの画面を開くと、そこには見慣れたステータス画面が浮かび上がった。
名前、スキル、そして最後の「パラメータ:勇気」の数値が、淡い光を帯びて点滅していた。
「今まで、みんなと一緒だったから頑張れた。でも、今日は……自分一人で、夢を語る番だ」
小さな声でそう呟くと、画面に【進路面談クエスト開始】の文字が浮かんだ。
【内容:自分の夢を言葉にし、先生に伝えよ】
【報酬:自己効力感EXP+50 勇気スキルLvアップ】
職員室前の廊下に立ち、扉の向こうから聞こえる声に耳を傾ける。
緊張で喉が渇き、足先がじっとりと汗ばんだ。
(逃げ出したい……でも、ここで逃げたら、あの時みんなと約束した“自分を信じる”って気持ちを裏切ることになる)
心の中で深呼吸を繰り返し、指先でHUD-LINKの画面をそっとタップした。
画面に「勇気バフ:発動」の文字が表示され、ステータスの勇気パラメータが少し上昇した。
「入ります」
扉を開けると、先生が優しく微笑み、「さあ、話してごらん」と促した。
ユウは、震える声で、でも精一杯の言葉で語り始めた。
「僕は……物語を作る仕事がしたいです。誰かの心を動かす、そんな物語を届けたいんです」
言葉にすることで、自分の夢が少しずつ形を成し、先生の頷きに、胸の奥の緊張がほどけていく。
「それは立派な夢だね。進路のこと、これから一緒に考えていこう」
先生の声に、ユウのHUD-LINKが淡い光を放った。
【クエスト達成】
【報酬:自己効力感EXP+50 勇気スキルLvアップ】
【ボーナス:自信ステータス上昇】
職員室を出ると、外の空気が冷たいのに、胸の奥には不思議な温かさが残っていた。
「言えた……僕、自分の夢をちゃんと伝えられた」
つぶやく声に、HUD-LINKの画面がそっと応えた。
【パラメータ“勇気”、更新完了】
校庭では、リナが手を振って「ユウ、お疲れ!」と笑顔を見せた。
レンやハルカ、ユウトも、それぞれ進路面談を終えた表情で校舎から出てきた。
「俺も言ってきたぜ!」「私も進路、決めた!」
皆の声が冬の空に響き、校舎の窓ガラスにその笑顔が反射した。
「これからも不安はあるけど、でも……俺たち、きっと大丈夫だ」
ユウは、少し強くなった自分の声を感じながら、仲間たちと笑い合い、寒空の下を歩き出した。
どこまでも続く道の先に、それぞれの物語の続きを描くために。
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