20. 不器用なエール、窓際のステージ

冬の気配が深まるある日、教室の窓からは淡い光が射し込み、遠くの校庭には舞い上がる枯葉が踊っていた。

放課後、ユウたちは音楽室に集まり、合唱コンクールの練習をしていた。


「……俺、ソロパートなんて無理だよ」

レンが肩を落とし、譜面を見つめていた。普段は誰よりも明るく、ムードメーカーの彼が、今日ばかりは不安を隠せない表情をしていた。


「レンならできるよ」

リナが励ますように声をかけるが、レンは「俺、音痴だし……みんなに迷惑かけるだけだ」と俯いてしまった。


その空気を、ユウトがそっと破った。

「なら、俺が歌詞を書き直すよ」

ユウトは静かにノートを取り出し、レンの心情に寄り添うような詞を書き始めた。

「レンの気持ちを、歌に込めればいい。完璧じゃなくても、伝わるものがあるから」


ハルカはタブレットを操作し、音響のバランスを調整しながら「君の声、悪くないよ。むしろ、そのままでいい」と小さく微笑んだ。


ユウは、窓際に立ち、外の夕空を見つめた。

(僕たちは、歌のうまさで勝負するんじゃない。誰かの背中を押すために、声を合わせるんだ)


「レン、俺たちがバックアップする」

ユウの言葉に、レンは驚いたように顔を上げた。

「ユウトが歌詞を書いて、ハルカが音響を整えて、リナがタイミングを教える。そして……俺は、歌声に勇気を重ねる」

ユウの声は、静かだけれど確かな響きを持っていた。


「でも……」

レンの迷いに、リナがそっと肩を叩いた。

「レン、怖いのはみんな同じ。でもね、誰かが頑張る姿って、それだけで誰かを勇気づけるんだよ」


練習が再開された。

音楽室に響くレンの声は、決して完璧ではなかった。けれど、その声には不器用な真剣さと、仲間の想いが重なっていた。


そして合唱コンクール本番当日。

体育館の舞台に、レンが立った。観客席にはクラスメイトや先生、保護者たちの姿。心臓が跳ねる音が、自分でも聞こえるほど大きかった。


「レン、いけるよ」

舞台袖でリナが小さく頷き、ハルカが「音響セット、完璧」と親指を立て、ユウトが「歌詞、覚えてるな?」と囁いた。


「……ああ」

レンは深呼吸をし、マイクを握った。

イントロが流れ、観客席に静寂が訪れる。

レンの声が響いた。最初は少し震えていたが、ユウたちの視線が後押しするたびに、声に力が宿り始める。


【SPECIAL EVENT:不器用なエール】

【効果:聴衆の共感度アップ/パーティ絆ポイント上昇】


レンの歌声が、体育館全体に広がる。完璧じゃなくても、その声に込められた想いが、聴く人々の心に届いていった。


歌い終わると、観客席から大きな拍手が湧き起こった。

レンは舞台袖に戻り、肩で息をしながらも、少しだけ誇らしげな表情を見せた。

「……やったな」

リナが笑い、ハルカが「ちゃんと、伝わったよ」と声をかける。

ユウトは「お前の声、すごく良かった」と呟き、ユウは「レンの勇気、忘れない」と笑みを浮かべた。


HUD-LINKが静かに光を放ち、

【MISSION COMPLETE!】

【報酬:絆ポイント+40 勇気スキルLvアップ】

【思い出アルバム:合唱コンクール追加】


窓の外では、夕暮れの空が金色から藍色へと移り変わっていた。

舞台の上に響いた歌声は、仲間たちの心に深く刻まれ、

その日、彼らの絆はまた一歩強く結ばれた。


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