15. 君と作った世界のセーブデータ

季節は、秋から冬へと静かに移ろおうとしていた。

校舎の窓ガラスがわずかに白く曇り、吐く息がかすかに白い。

放課後の教室に残されたユウたちの周りには、文化祭の名残――壁に貼られた写真、装飾の切れ端、そして未提出のプリントがまだ散らばっていた。


「ねえ、見て」

リナが突然声をあげ、HUD-LINKを操作した。画面に映し出されたのは、これまでみんなで撮った写真の自動アルバムだった。

「これ、AIが勝手にまとめてくれたんだって。思い出のハイライトみたいなやつ」

画面には、春の入学式、最初の自己紹介、初めてのクエスト、放課後のポスター作り、商店街での宝探し、文化祭の屋台……それぞれの思い出が鮮やかに並んでいた。


「わ……懐かしい」

ユウは驚きとともに胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

ハルカは無言で画面を見つめ、レンは「これ、マジで宝物だな」と笑った。

ユウトは一瞬、ためらったように目を伏せたが、そっと画面を覗き込み「悪くないな」と呟いた。


HUD-LINKが、新たな通知を表示した。

【SPECIAL MISSION:セーブデータ作成】

【内容:思い出の写真にコメントを添え、君たちの“世界”を保存しよう】

【報酬:絆ポイント+30 共感スキルLvアップ】


「コメント……」

ユウは写真を見つめた。

入学初日の写真には、自分の緊張した笑顔が映っていた。

「“ここから始まった冒険”」と指先で文字を打ち込むと、写真の下に小さくテキストが表示された。


リナは商店街の宝探しの写真に、「一緒に笑った日」と書き込み、

ハルカは文化祭の屋台の写真に、「努力の結晶」と静かに打ち込んだ。

レンはサッカー部の写真に「俺たちのフィールド」、ユウトは夜の屋上で涙をこらえた自分の写真に「本音を言えた夜」と添えた。


写真が一枚一枚、言葉を得て、彼らの「世界のセーブデータ」がゆっくりと完成していく。


「こうやって見ると、俺たち、けっこう色んなことを乗り越えてきたな」

レンの言葉に、みんなが頷いた。

「……この記録は、消えないんだよね?」ユウトが小さな声で尋ねる。

「消えないよ。ちゃんと保存される。思い出も、気持ちも、全部」

ハルカが穏やかに答えた。


その瞬間、HUD-LINKが淡い光を放ち、画面全体に「MISSION COMPLETE!」の文字が表示された。

【絆ポイント+30】【共感スキルLvアップ】【セーブデータ保存完了】


「これが、僕たちの冒険の記録だね」

ユウがそうつぶやいた時、教室の窓の向こうで夕陽が沈み始め、淡いオレンジ色の光が床を染めた。

誰も言葉を発さなかった。ただ、それぞれが自分の胸に温かい何かを抱きしめるように、静かな時間が流れた。


「また、ここから新しいページを作ろう」

リナの笑顔とともに、仲間たちの視線が自然と交わった。


ユウのHUD-LINKには、最後に一行だけ新たなメッセージが浮かんだ。


【次のクエスト:進むべき未来を描け】

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