14. 夜の屋上、ログインボーナスは涙
秋の夜。
文化祭準備の追い込みで遅くなった教室は、静寂に包まれていた。
机に積まれた工作道具とポスター、散らばる資料とメモ。その中でユウたちは片付けを終え、誰からともなく「少し休憩しよう」という空気が漂った。
「屋上、行ってみない?」
ユウトの声が低く響き、ユウはふと顔を上げた。
夜風に吹かれる屋上は、昼間とは違う表情を見せていた。
遠くの街灯が星のようにまたたき、夜空には一筋の飛行機雲が淡く伸びている。
冷たく澄んだ空気の中、ユウたちは無言のまま金網越しに街を眺めた。
「……綺麗だね」
ハルカがぽつりとつぶやいた。
レンは金網に肘をかけ、「こういう時、何を話せばいいかわかんねぇな」と笑った。
リナは持ってきた缶コーヒーを開け、小さな声で「乾杯」と呟き、みんながそれに笑顔で応じた。
そんな穏やかな時間の中、ユウトがふと視線を落とした。
「……俺さ、進路のこと、親とケンカした」
その言葉に、空気が少しだけ張り詰めた。
「美大に行きたいって言ったら、父さんに“そんな夢みたいなこと”って怒鳴られて」
ユウトはポケットに手を突っ込み、苦笑した。
「言い返せなかった。怖くて……でも、あれが俺の本音だったんだ」
ユウは胸の奥がきゅっと締めつけられた。
(夢を言葉にするのは、こんなにも勇気がいることなんだ)
「ユウト……」ハルカがそっと声をかけたが、彼は「大丈夫」と笑った。
けれどその笑顔は、どこか脆くて痛々しかった。
ユウは気づかないうちに、HUD-LINKを操作していた。
画面に「ログインボーナス:共感」と表示が浮かび、淡い光が仲間たちの姿を柔らかく照らした。
「……俺も、進路のことで悩んでたんだ」
ユウは自分でも驚くほど素直に言葉を紡いでいた。
「夢って口にするの、怖いよね。でも、それを誰かに伝えたくて……。ユウトの言葉、すごく響いたよ」
「……そうだね」
ユウトの声が震え、そして不意に、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。
冷たい夜風に混じり、微かな嗚咽が聞こえた。
「……泣いてもいいんだよ」
リナの優しい声が響き、レンがそっと肩を叩いた。
ハルカは静かに傍に寄り添い、誰も余計な言葉はかけなかった。
ただ、夜空の下で、仲間の涙を見守ることが、今は何よりも大切なことだった。
【SPECIAL EVENT:ログインボーナス「涙」獲得】
【報酬:友情ポイント+30 共感スキルLvアップ】
ユウは、夜空を見上げた。
星々が瞬き、遠くで街の灯りが滲む。
「……泣ける場所があって、よかった」
心の中でそうつぶやき、そっと肩を並べる仲間たちの存在に感謝した。
夜風が、優しく彼らの髪を撫で、
この一夜が、きっと彼らの未来に強い光を灯すことを、ユウは信じていた。
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