13. リセットしない選択肢たち
秋の午後。高く澄んだ空を背景に、風が校舎の屋上を吹き抜け、落ち葉が静かに舞い上がっていた。
教室の窓から見える景色もどこか穏やかで、けれど、その穏やかさとは裏腹に、ユウの心はざわめいていた。
道徳の授業中、先生の声が響いた。
「人生は、ゲームのようにセーブ&ロードはできません。選択には責任が伴います」
教室のホワイトボードには、「選択」「責任」「結果」と太字の文字が並び、
HUD-LINKは、授業用の特別クエストを発令していた。
【QuestMaster:特別ディベートクエスト】
【内容:現実世界の“やり直し不可”な選択について議論せよ】
【報酬:思考力ポイント+15 共感EXP+10】
ユウはディスカッションの輪に入りながら、心の奥で小さな違和感を抱えていた。
(選択なんて、ただ選ぶだけだろうか?)
でも、口にするには勇気が要った。
リナが口火を切る。
「もし間違った選択をしたら、どうしたらいいのかな……?現実には、ロードしてやり直せないし」
彼女の声には、素直な不安が滲んでいた。
「だから、慎重に選ぶしかないでしょ」
ハルカは淡々とした口調で答えた。タブレットを操作し、HUD-LINKの画面に「選択肢分岐ツリー」を浮かび上がらせる。選んだルートと未選択のルートが、まるで木の枝のように複雑に広がり、分岐の多さに圧倒される。
「でもさ……」
窓際で黙っていたユウトが、窓の外の青空を見つめながら、低い声を出した。
「選んだ結果が間違いだったとしても、その経験が無駄になるわけじゃないんじゃないかな。失敗したって、それが自分を強くすることもある」
ユウは、その言葉に胸を打たれた。心の奥のもやが、少しだけ晴れていくのを感じた。
「……そうだよね。間違ったって、それが自分の選んだ道なら、それでいい。失敗も、ちゃんと経験値になるから」
ユウの声は、少し震えていたけれど、しっかりと前を向いていた。
ディスカッションの輪が静まり返り、やがて、皆が小さくうなずいた。
HUD-LINKの画面がやわらかい音を立て、達成通知を表示した。
【討論成功:選択の重みを理解】
【報酬:思考力ポイント+15 共感EXP+10】
【BONUS:選択肢の勇気スキル解放】
放課後、校舎の外に出ると、秋の冷たい風が吹き抜け、落ち葉が足元を舞った。
空は少し赤みを帯び、沈む夕陽が西の空を染めている。
ユウはふと、HUD-LINKに表示される“選択肢”の項目を見つめた。
そこには、授業で議論した「進路選択」「夢」「友情」の分岐ルートが並んでいた。どのルートにも、未確定のエンディングが用意されている。
でも、ユウはそっと画面を閉じた。
「選択肢は、誰かに決めてもらうものじゃない。自分で選んで、進むしかないんだ」
心の中で、そうつぶやく。昨日の夜、コンビニ前で立ち向かった時の感覚が、今も胸に残っている。あの時、自分たちは“怖いから逃げる”選択肢を捨てた。あの経験が、自分を少し強くした。
その時、後ろからリナの声がした。
「ユウ、今日は帰り道一緒に帰ろ!」
「うん、行こう」
振り返ると、レンも、ハルカも、ユウトも、それぞれのHUD-LINKを閉じて微笑んでいた。
「人生はリセットできないけど、仲間がいればやり直せることもあるでしょ」
リナの言葉に、ユウの胸にあたたかな火が灯る。
「……そうだね」
夕焼けの道を、彼らは並んで歩き出した。
頭上には、秋の空が広がり、地面には長い影が伸びていた。
ユウのHUD-LINKが、再びそっと光を放った。
【未来クエスト進行中】
【ステータス:勇気、更新中】
どこまでも続く道に、彼らの歩みは重なり、確かに前へと進んでいった。
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