12. 雨上がりの友情ポイント+1

翌朝。

夜のボス戦を乗り越えた翌日、ユウは少し重い瞼をこすりながら校門をくぐった。

空は夜の名残を留めた灰色で、地面には昨晩の雨がまだところどころ水たまりを作っていた。

制服の裾が少し湿り、靴も泥を跳ね上げる。それでも、昨日の出来事を思い出すと、胸の奥にほんの少しの誇らしさが灯る。


「おはよう、ユウ!」

明るい声が響き、リナが傘を畳みながら駆け寄ってきた。

その後ろからハルカが、普段よりわずかに乱れた髪を直しつつ歩いてくる。ユウトは無言で後ろから続き、レンは大きな声で「おーい!」と手を振った。


「昨日は……お疲れ様」

ハルカが静かに言葉を落とすと、ユウは小さく笑った。

「うん、でも……あの時、一緒にいてくれて助かった」

ふとHUD-LINKを見やると、画面の片隅に淡い光が灯り、未読メッセージの表示があった。

タップすると、昨晩ユウトから送られていた一言が浮かぶ。


【お前がいてくれてよかった】


その短い言葉に、心臓がふわりと温かくなった。

「ありがとう……」ユウは心の中でつぶやく。

画面には「友情EXP+1」とささやかなポイント演出が現れ、昨日の夜の出来事が少しだけ報われた気がした。


一日中、空は不安定な曇り空で、放課後になる頃には大粒の雨が突然降り出した。

校舎の窓を打つ音がリズムを刻み、教室では「雨やばいね」「傘持ってきてない!」とざわめきが起きる。


ユウも、自分のバッグに折りたたみ傘を入れ忘れてきたことに気づき、苦笑した。

「……あー、やっちゃったな」

窓の外を見つめていると、隣でハルカがそっと傘を差し出してきた。


「これ、一緒に使おう。私、家近いから、途中まででいいし」

「え……でも、」

「いいの」ハルカは柔らかく微笑み、傘をユウの肩にそっと寄せた。


傘の下で、雨粒が弾ける音と、教室のざわめきが遠ざかる。

ユウの心に、昨日の夜のボス戦よりも深い何かが染み込むような感覚があった。


「昨日、ユウくんが勇気を出してくれたから、私も、こういうの少し頑張ろうと思った」

ハルカの小さな声が、傘の下の静寂に溶けた。

「私、昔から人に頼るのも、頼られるのも苦手だったけど……でも、昨日のユウくん、すごく頼もしかった」


「僕も、ハルカがいてくれたから勇気を出せたんだよ」

ユウは照れくさそうに笑い、傘の柄を少しだけ握った。


HUD-LINKが優しく光り、

【MISSION:傘を差し出せ】

【結果:友情ポイント+1 信頼度上昇】

の文字と共に、小さな達成音が響いた。


雨は次第に弱まり、雲間から夕陽が覗き始める。

濡れた校庭がきらりと輝き、放課後の空気に柔らかな光が溶けていった。


「ほら、雨が上がったよ」

リナが窓の向こうから手を振り、レンが「次は晴れクエストだな!」と笑う声が聞こえた。


ユウはハルカと一緒に教室を出た。

雨上がりの校庭に差し込む光と、傘の下で芽生えた小さな勇気が、

胸の奥にそっと刻まれた瞬間だった。


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