6. はじめての“失敗”もレベルアップ
午後の日差しが少しずつ柔らかくなり、校庭の芝生は夕暮れの黄金色に染まっていた。
汗ばんだユウの額に、乾いた風が心地よく吹き抜ける。
彼の胸は緊張と期待でいっぱいだった。今日のクエストは――
【初ゴールを決めろ!】
HUD-LINKの画面に表示されたミッション名が、彼の心に重く、でも鮮やかに刻まれている。
「ユウ、チャンスだ!パス回すから思い切って打ってこい!」
レンの声が背中を押す。彼の笑顔は太陽のように眩しく、ユウの視界を明るく照らす。
しかし、ユウの足は重かった。
普段はゲームの中で自在に動かせるキャラクターも、現実のグラウンドでは硬直し、思うように動いてくれない。
ボールが転がってきて、彼は無意識に一歩踏み出す。
「今だ!」
心の中で叫ぶ声と裏腹に、彼の蹴ったボールは空を切り、枠の遥か上へと逸れていった。
一瞬、時間が止まったように感じた。
周囲の声が遠のき、心臓の音だけが耳に響く。
「……ごめん!」
口から出た言葉は震え、恥ずかしさが全身を包んだ。
周りの誰もが静まり返る。
そんな空気を破ったのは、レンの明るい声だった。
「ナイストライだ、ユウ!今のは惜しかった!」
彼はユウの肩を力強く叩き、ほかの部員たちも笑顔で続く。
「最初はみんなこうだ」「次はもっと良くなるさ」
誰もがユウを責めることなく、むしろ励まし合っている。
ユウは胸にこみ上げるものを押し殺しながら、でもその言葉に少しだけ救われていた。
「俺は、本当にサッカーに向いてないのかもしれない」
心の中で弱音を吐いたその時、ふと横を見るとハルカが歩み寄ってきた。
「ユウくん、諦めるのはまだ早いよ」
彼女は静かに言葉を紡ぐ。
「ゲームの世界でもそうだけど、“失敗”は単なるデータの一部で、そこから学ぶことが大事なんだって。科学的にも、失敗経験が多い人ほど成長率が高いって研究されてるの」
彼女の言葉は冷静で、でも温かかった。
ユウは小さく頷く。
「ありがとう、ハルカ。そうか、失敗は経験なんだな」
その時、ユウトがノートに何かを書き込んでいるのに気づく。
試合後の帰り道、ユウトは無言のまま、ユウの手にそっと折りたたんだ紙を握らせた。
そこには、走り書きで「君は頑張っている。焦らず自分のペースで」と書かれていた。
その言葉が、ユウの胸にじんわりと沁み込む。
そして、夜。家に帰ってからHUD-LINKの画面を見つめた。
【クエスト未達成】
だが、そこには追記のように小さく、
【隠し報酬:TRY AGAINバッジ】【友情EXP+5】
の文字がキラリと輝いていた。
(失敗は終わりじゃない。むしろ、それは…)
ユウの胸の内に新しい光がともる。
窓の外に広がる夜空は星が瞬き、
まるで自分の心の奥に灯った小さな灯火のようだった。
翌朝、ユウは再びグラウンドへと向かう足取りが、ほんの少しだけ軽くなっていた。
“失敗”を恐れず挑戦する勇気、
そして、仲間と共に歩む確かな絆。
それこそが、ユウの青春RPGの真髄だった。
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