4. スキルツリーの分かれ道

春の午後。校舎の中庭は、まだ若い緑の匂いに満ちていた。

レンが勢いよくベンチに腰掛けると、隣にはユウとハルカ、そして少し離れてユウトも静かに腰を下ろした。


放課後のまどろみを切り裂くように、HUD-LINKが全員の視界に同時にメッセージを表示する。


【QuestMaster:本日限定SPECIAL QUEST】

【内容:グループで“パーティ編成”を行い、それぞれの得意分野の“スキルツリー”を決めてみよう】

【報酬:新スキル獲得、パーティボーナス】


ユウはHUD-LINKの画面を指でなぞりながら、不思議な気持ちになる。

「スキルツリー」――それはゲームでよく聞く言葉だが、現実の自分たちにも“成長の分岐点”がやってきたことを実感する。


画面には、それぞれの得意分野や興味が「STRATEGIST」「CREATOR」「SUPPORTER」「LEADER」といった、まるで職業選択のようなスキルルートとして浮かんでいた。


「こういうの、ちょっと面白いよね」

レンが、明るい笑顔でみんなを見る。「じゃあ、まずは自分の得意なことを言ってみようよ!」


ハルカは一瞬ためらい、でも真剣なまなざしで話し始める。

「私は…やっぱり、計算とか論理パズルが得意。データ分析とかも好き」

彼女のHUD-LINKには“ANALYSIS”のスキルアイコンがきらりと光った。


レンは自信たっぷりに拳を握る。

「俺は…リーダー役とか、みんなで盛り上げるのが好き! チームワークとか、目標に向かってみんなで頑張るのが得意かな」

画面には“LEADER”のエフェクトが弾ける。


ユウトはしばらく黙ったまま、青い空を見上げる。

「……自分は、アイディアを考えるのは好き。でも、人前で発表するのはちょっと苦手」

静かに、“CREATOR”と“SUPPORTER”が二重に光る。


ユウは、自分の中に浮かぶものを正直に口にする。

「僕は…ゲームの世界だと、バランスを取ったり戦術を考えるのが楽しかった。現実でも、それができたらいいな」

HUD-LINKには“STRATEGIST”のエンブレムが出現する。


みんなの選択が、まるでパズルのピースのように重なっていく。


「バラバラだからこそ、うまくいくこともあるよね」

レンの言葉に、ハルカがそっと微笑む。


「これが、“パーティ”ってやつか」

ユウトが小さくつぶやき、みんなで笑い合う。


次の瞬間、HUD-LINKが全員のデバイスをリンクさせ、

“PARTY SKILL UNLOCKED!”の表示とともに、キラキラしたアニメーションが視界に広がる。


【新スキル獲得】

【ユウ:戦術支援】

【レン:ムードメーカー】

【ハルカ:分析&サポート】

【ユウト:アイディア創出】


夕焼けが差し込む中庭で、

四人は「自分にしかない力」と「仲間と補い合う面白さ」を、言葉ではなく体感していた。


その背後では、放課後のざわめきと、春のそよ風が優しく交じり合っている。


「これから、どんなクエストも乗り越えられそうだね」

ユウの小さな声に、みんながうなずいた。


現実の青春に、“スキルツリー”という新しい分岐が生まれた夕暮れだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る