2. クエスト発令!三人目の友だち
教室の空気が少し落ち着きを取り戻す頃、
HUD-LINKがふたたび、ユウの視界の右上に淡い光を放つ。
【QuestMaster:SPECIAL QUEST発令】
【内容:まだ話したことのないクラスメイトと友だちになること(あと1名)】
【報酬:友情ポイント+5 ボーナスアイコン「はじめの輪」】
──ピコン。
わずかな電子音が、現実とゲームの境界線を溶かす。
窓際の席。
ユウは、初日に勇気をふりしぼって声をかけた二人の顔をふと思い出す。
隣のレンは明るくて、気さくなタイプ。
ハルカはクールだけど、ノートを貸してくれてから少しだけ距離が縮まった。
だけど、“三人目”は、まだ。
教室を見渡すと、斜め前の席――本の表紙を机に伏せ、うつむいている生徒がいる。
彼の名前は一ノ瀬ユウト。
朝の自己紹介でも、あまり大きな声を出さなかったし、何か話しかけづらい空気がある。
(……クエストだし、やるしかない)
ユウは、鼓動が早くなるのを感じた。
掌がじんわりと汗ばむ。
「クラスで孤立したくない」と思う気持ちと、「相手の邪魔をしたら悪いかも」という不安が交差する。
けれど、HUD-LINKには“クエスト進行中”のゲージが、淡い青色で光っている。
意を決して立ち上がると、教室のざわめきが少しだけ遠くなった。
「……一ノ瀬くん、だよね」
自分の声が思ったより小さく、ひと呼吸おいて再び呼びかける。
「よかったら、ちょっと話してもいい?」
ユウトはゆっくりと顔を上げる。
黒髪が額にかかっていて、目元にはかすかに影がある。
一瞬、戸惑いがちにユウを見るが、すぐに目を伏せる。
「……うん、なに?」
その声は静かで、でもどこか安心させるものがあった。
「今日から同じクラスだし、いろいろ教えてくれたら嬉しいなって……」
そう言いながら、ユウは心臓がバクバクするのを誤魔化すように笑う。
「……別に、教えられることなんて、そんなに……」
言葉が途切れたあと、ユウトは手元の本をそっと閉じる。
「でも、君……ユウくん、だよね。俺も、友だちとか、得意じゃないんだ」
意外だった。
自分と同じだ。
ちょっとだけ、壁が低くなった気がする。
「俺も、得意じゃない。けど、クエストで“話してみよう”って出たから……」
正直に打ち明けると、ユウトの口元にかすかな笑みが浮かんだ。
「変な時代になったよね。AIが友だちの作り方まで指示してくるなんて」
ユウトの声には、少しだけ温かさが混じっている。
「でも、こうやって話せてよかった」
ユウがそう言うと、
HUD-LINKに“MISSION CLEAR”の文字とともに、二人の間に小さな輪のアイコンが現れた。
【友情ポイント+5】【はじめの輪】
教室の雑踏のなか、ささやかな“つながり”が確かに生まれる瞬間だった。
ユウトは小さな声で「これからよろしく」とつぶやく。
ユウは、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。
窓の外、春の陽が差し込む。
遠くでグラウンドからサッカーボールの音が聞こえ、誰かの笑い声が風に乗って流れてくる。
現実の世界が、ほんの少し、RPGのように輝き始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます