TS少女は異世界でミニ日本を作る。~神様に「俺の考えた最強キャラ」を伝えたらその通りになってしまった件~
朱里子
第1章 やり過ぎにはご注意を
ダラダラと会社と自宅マンションを行き来するだけの二十代後半。
人付き合いが苦手、といった典型的なオタクと言うほどでもなく、健全でエッチな趣味と少しインドアなだけの普通男である。
それなのに家族は「早く彼女連れてこい」だの、「孫の顔がみたいだの」好き勝手言ってる。そりゃあ俺だって彼女の一人ぐらい作ってみたいよ? ただ、そんな時間がないだけだ。
缶ビールからプシュッと小気味いい音がした。コレをやりながら、PCゲームをプレイするのが会社帰りの俺の日課だった。
この年で未だにそんなことやってんの? とバカにしてくる同僚もいるが、これだけはやめられない。現実逃避先がないとしんどいだろ。
世間で言われるオタク趣味だろうが趣味は趣味なんだからほっとけと思う。
「今日もやってんね」
クランの拠点に入ると忙しなく動くキャラ達。クラン戦に向けての準備で大忙しだ。もちろん流れる様に手伝う。見てるだけは絶対にダメだ。それでいくつもの大型クランが解散に追い込まれるのを見てきたし経験もしてきた。
ヘッドセットをつけるとボイスチャットを開いた。それからいつものメンバーが集合している部屋に入った。
「おつかれっす~」
「あ、タナカさんこんです」
「こんちゃ」
「なんかやることあります? 一応アイテム類はあらかた作り終わってるっす」
「いつもサンキューです。じゃあ素材集めお願いして良いですか? 自分たちじゃ遅いんで」
「おっけーすよ」
早速キャラを操作して森に向かった。斧に持ち替えると、木を根こそぎ伐採する勢いでなぎ倒していく。
クラン対抗戦で関所を作る為に各種素材が必要だ。木材以外にも鉄や石なんかもかなりいる。けど、俺はクラン内で唯一のガチ生産職。
とは言ってもPVPが弱いだけなんだが、こういったちまちました作業も好きだ。裏方でみんなを支えるのも悪くない。
「タナカさんがPVPも強かったら最強なんですけどね」
ギルマスが不意にそんなことを言った。
「年齢には勝てないっすね。スキル発生を見てからの対処ができないんすよね~」
「でも、タナカは金持ってる。私より装備が良い。私に貢げ」
ブスッとした声が聞こえる。
「いやいや、だいぶ貢いでるっしょ。この前もレジェンド装備無料で作ったじゃないっすか」
「全ての装備を希望する。貢げ、早く」
「いやっすよ! 1つだけでもめちゃくちゃ言われたんすからね!」
彼女はPVP最強の一角である、ウィザード使い。それと同時にクランの姫でもある。こういった女性の取り扱いを間違えるとクランがクラッシュする可能性があった。オンラインゲームの怖い所はプレイとは関係ない場面が結構多かったりする。
それに変に絡まれても嫌だしな。粘着質なヤツが多いし。
「そうですよ。あまりタナカさんに頼ったらダメですよ」
「そういうマスターもタナカに頼り切り。卑怯」
「私は良いんですよ。なんせマスターですから」
「むっ」
開けた缶ビ―ルを煽る。こういった緩い雰囲気が心地いい。
疲れた心のオアシスとでも言ったら良いのか、とにかく傷ついたサラリーマン戦士には休息が必要なのだ。
ギルマスとウィザードの話をBGM代わりにしながら黙々と素材を集めまくる。
聞き耳を立ている二人の会話は最強だと思う装備セットの話に移行していった。
「やっぱ戦士だったら白銀装備にスターライトソードが一番かな」
「白ピカ装備が一番火力ある。でもダサい。だからドラゴン族一択」
「いやいや、ここはヒューマン一択ですよ。人外だとチート感ありますし、ドラゴンだと見目は良いけど足が遅すぎます」
「何事にもロマンが必要。当たれば2.5倍の火力が魅力」
「それは分かりますけど……。タナカさんは最強は何だと思いますか?」
急に話題を振られたので手を止めて考える。
「そうっすねー。吸血鬼でウィザード系に寄せて弓を持たせるとかっすか?」
「あぁ、誰もが考えるセットですね」
「ロマンしかない。だけどネタ枠。装甲が紙過ぎて一撃死」
「それっすけど、回避盛って空飛んだら対策出来そうなんすけどね」
「回避装備全部集めるのムリじゃないですか? 全身だけで千億ゴールド必要ですよ? アクセも含めると廃人でも難しいです~」
そうだよな、千億ゴールドなんて正気の沙汰じゃない。が、実はそれ以上持ってたりもする。ただ、たかられるのが目に見えてるから誰にも言ってないが。
まぁ、それでも全身用意するには全然足りない。それこそガンガン金策しまくっても、無理ゲーだろう。集まった頃にはサ終してるなんて最悪じゃないか。
和気あいあいと数時間プレイした後にPCを落として布団に入った。
今日も癒やされた。明日からまた過酷な労働が始まるがなんとか耐えれそうだ。
※
と、俺はなんとなく数年前の記憶を思い出していた。
真っ暗な城の中で玉座に座りながら……。
丁寧に作り上げた俺の城には生き物の気配1つしなかった。ただ一人、俺の呼吸音だけが聞こえるだけだ。
思えば夢の中で適当に答えたのが失敗だった。
「俺の考えた最強キャラ」なんて響きは良いが最悪だ。
不老不死で何でも作れて世界最強なんて、実際なってみればつまらない存在だった。そこに至る過程が楽しいのであって、ぽんと与えられただけではカタルシスもクソもなかった。
なぜこんな事を考えているのかって?
俺はその最強の存在となって異世界にいるからだ。
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