誰かを殺す手が、誰かの拍動を願い震えている

 この作品は、一見相反する「破壊」と「創造」を同居させています。
 主人公が歩むのは、血と消毒液の匂いが混ざり合う、命の境界のような世界。
 そこでは命を奪う技術と命を救う技術が、同じ手によって行われるという美しい矛盾が描かれています。

 胸骨圧迫という蘇生処置ひとつにも、この物語が持つ詩的な残酷さが内包されています。

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 文体は、静謐な内面描写と激動の戦闘・医療シーンが織り交ぜられており、これらが渾然一体となって、まるで、静寂と爆音の交響曲のように、心に深い余韻を残します。

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 登場人物は皆、何かしらの「傷」を抱えています。
 しかし、その傷を単純な悲劇として描くのではなく、互いを理解し、救い合うための「接点」として昇華させています。

 特に医療行為を通じて描かれる「命への執着」は、時として狂気的でありながら、同時に神聖な儀式のような美しさを持っています。

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 主人公と共に「命とは何か」「救うとは何か」という根源的な問いと向き合うことになるでしょう。
 軍事・医療ジャンルの枠を超えた、魂を揺さぶる傑作として強く推薦します。

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