全ては神様の策略(とーふ作)
「はじめまして。神です」
「……はぁ。そうですか」
「かなり落ち着いていらっしゃいますね」
「まぁ、なんですかね。私の理解を遥かに超えた出来事に、夢や幻の可能性を疑い始めているからかもしれません」
「ナルホド」
私は突如として投げ込まれた真っ白な空間で、見下ろしてくる自称神様を見上げた。
這いつくばった姿勢であるため、両手両足は床に触れているが、不思議と痛みも温度も感じない。
ただ、そこに床の様な何かがあるというだけである。
「あなたに権利を与えます」
「え? なんの? でしょうか」
「これから貴女が向かう世界を作りだす権利をです」
「はぁ」
流石は夢だ。
まるで意味が分からない。
夢とは記憶の整理であるから、そこに整合性はなく、ただの情報の羅列が……。
「先に言っておきますが、これは夢ではありませんし。ここで貴女が無駄に時間を浪費しても良い事はありませんよ」
「どういう……事ですか?」
「貴女がこれから向かう世界を構築する為の時間は、これしかないという事です」
「三時間……いや、残り、二時間と五十九分。ちなみになんですが、神様。もし何も書けない場合はどうなるんでしょうか?」
「何も無い空間で死も生も無いまま永遠を過ごす事になるでしょう」
やばい!!!!!
これが幻か? とか夢か? とかひとまずどうでも良い!!
もし、これが現実だった場合、本当にヤバい事になる。
夢だったなら後で笑えば良いだけだ!
今は書け! どこからともなく現れたノートパソコンに! 腕が取れても良い! 打ち込んでいけー!! 最高に幸せでハッピーな世界を!
「まずは世界情報だ! 人が住める環境にならなきゃならん! 基盤情報はまず地球と同じとして、太陽系やら銀河系やらも地球と同じになる様に調整! そして、社会! 国という単位で集まり、社会を構築している事とする! 社会は安定しており、戦争等は遥かな昔に起こっただけで、現在生きる人類は戦争の愚かさを学び! 争いを起こさない様に日々努力している!」
「各国の食料自給率は100%を超えており、食べる物に困る事はなく、環境の変換による収穫の変化が起きても、問題ないように備蓄管理が徹底して行われているものとする! また身分等に関しては、完成された完璧な王政が行われており、国民も勤勉で他者を思いやり、よき隣人として他者と関わろうとしている社会!」
「インフラ! 環境に配慮した安全で最適なインフラが既に完成しており、それらの整備は定期的に行われていて、交通事故等の問題は問題では無くなっている! また、インフラは全人類の共通資産という意識があり、インフラへの干渉及び、妨害、不正等は重犯罪となり、誰もが触れてはいけない絶対の領域である!」
「他!!」
私はひたすらに理想の世界を描くべくキーボードを叩き続けた。
それこそキーボードが壊れてしまうのではないかと思う程に。
その甲斐あってか、中々理想的な世界が出来た事で、私は大きく息を吐きながら笑みを浮かべた。
時間も、余裕があるとは言わないが、残り十分程度残っているし、余裕だったな。
「ふぅ」
「どうやら終わった様ですね。これで良いのですか?」
「えぇ。問題ないですよ」
「そうですか……しかし、ふむ」
「……何か?」
「いえ。貴女に関する事が書かれていませんが、良いのですか?」
私に関する事?
要らんだろ。別に。
完璧な理想の世界を作ったんだよ? その世界なら何が起きても問題は無いだろうさ。
「まぁ、貴女が良いのならそれで良いですが、何が起きるか分からないのが世界ですからね。どれだけ世界が、社会が完璧でも人は完璧ではありませんよ」
「……」
神様の言葉に私は一筋の汗を流しながら、チラリと時計を見た。
まだ三分ある。
私は隣に置いてあったキーボードに手を乗せ、軽く一言だけ書いておく。
トラブルはごめんだ。私は静かに生きていければ良い。
『世界は私、神谷玲子の行動には好意的な感情を覚える』
これで問題無いだろう。
「ちなみに、レイコさんが向こうの世界へ行く時は子供の姿ですので、何も出来ぬまま殺されない様に注意して下さいね」
「……」
『世界は、生まれ変わった神谷玲子に好意を覚え、傷つけようとする者を許さない』
これで、多分大丈夫だろう。
いや、待て……このままだと、何かの事故とかで、とかもあるな。
『世界は、生まれ変わった神谷玲子の命を奪う事は出来ない』
「では時間ですね。神谷玲子さん。貴女の作り出した世界を愉しいで下さい」
「っ!?」
そして、世界に光が溢れ……私は異世界へと転生したのだった。
☆彡
後悔という言葉は後で悔やむと書いて、後悔となるのだが……。
私は今まさに、その後悔という奴をしていた。
生まれ変わってすぐは、別に何も無かったのだ。
妙に溺愛してくる両親をめんどくさいなと思いながらも精一杯赤ちゃんをやり。
育ってからも理想の子供をちゃんとやってきた。
おかしくなったのは十歳になった頃だっただろうか。
偶然私が住んでいた村に立ち寄ったという騎士団の団長さんという人が私を引き取りたいと言ってきたのだ。
意味が分からない。
当然両親はそれを拒絶したのだが、ここで騎士団長さんは何故か私を攫って逃亡!
そのまま貴族であったらしい騎士団長さんの娘として溺愛される事になったのだが……!
騎士団長さんと一緒に出たお茶会で、この国の王子様やら宰相の息子さんやら、隣国の王太子さんやらに求婚されてしまう。
しかし、まだ十歳である私が結婚など出来る訳もなく断ろうとした、まさにその時、空から天使の軍団が現れ……。
更にお茶会をしていた庭園にひび割れが起き、中から魔族の集団が現れた。
そして、彼らは皆、私を見て叫んだ。
「かの御方こそ! この世界全てに平和と安らぎをもたらした神! 神谷玲子様の生まれ変わりである! 天界へと導く!」
「ふざけるな! 彼女こそ! 我ら闇に生きる魔族に光を与えた御方である。我らの魔界へとお連れする!」
「彼女は人間だ! 人間の世界で生きるべきである! 我ら人類の住まう人間界こそ彼女には相応しい!」
この瞬間、人類は遥かな太古に置き去りにした争いを思い出し、神谷玲子を守るべく争いを決意するのだった。
これは!
世界全てが私を溺愛しているとかいうバグった世界で!
平穏な日常を目指し、駆け抜ける!
かつて神谷玲子だった私の物語である――!
そして……。
「ここが、玲ちゃんの作った世界なんだ……! とっても綺麗な世界」
そして、神谷玲子をよく知る少女が降り立った事で世界は更なる混沌へと動き始める!
「待っててね! 玲ちゃん! 私が玲ちゃんを必ず助けるから! 私が追記したもふもふの獣人さん達と一緒に!」
20025年 夏!
連載開始!!
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