第4話 作業服

 ホテルは朝食つきだったから、バイキングをお腹一杯食べて、まったりと俺はコーヒーを飲んでいる。

 奪った金がまだ9万円近くあるのは、心強い、俺からすれば大金だ、だから余裕をこいているんだ。


 これからどうしようかな、働き口を見つける必要があるな、奪った金でしばらくは暮らせるけど、金はいずれ無くなってしまうものだ。


 「〈まうよ〉は、どうすれば良いと思う? 」


 口だけの〈まうよ〉は、他の人からは見えていないようだ、隣のテーブルのサラリーマンも、わざとらしく俺を視界に入れないようにしている。

 

 俺は、いない人あつかいだ。

 作業服でビジネスホテルに泊まる人は少ないし、俺の作業服はドロドロに汚れているからな。


 【そうですね。 服を買いに行きましょう。 その作業服はかなりダサいですね】


 「そうか、ダサいか」


 自分でもそう思っていたが、〈まうよ〉に言われるとショボンとなってしまう。

 金はあるんだ、まともな服を買おう。


 〈まうよ〉に勧められて、流行を安く提供してくれるファストファッションの店に行くことにした、安いのは良いけど、若者のファッションが俺に似合うか、かなり心配になる。


 大きな通りを歩いて店に向かっていると、前からきた三人組のチンピラが明らかに俺を見ている。

 逃げようかと迷ったのだが、〈まうよ〉の【やっちゃいましょう。私は食事がまだです】と言う言葉で、逃げずにいた。


 そして、三人は俺を取り囲んできた。

 目は血走り顔も脂じみている、なんだか疲れてもいるようだ、〈実践空手〈中級〉〉のスキルを手に入れた俺は、チンピラの三人くらいとも思わない。


 昨日の俺からすれば、考えられない話だな、ただ過信は良くないとも思う。


 「おい、作業服のおっさん、見たヤツがいるんだ。 お前、兄貴をやっただろう。 俺らがかたきをとってやる」


 こいつらは、あの男の舎弟しゃていか何かだろう、一晩中俺を探していたらしいな、ご苦労なことだ。


 「兄貴は膝がつぶれて、精神的にもまいっているんだぞ。 おっさんは、やっちゃいけない事をしたんだ。 そのむくいを受けろよ」


 スキルを奪われて劇的に弱くなったから、精神を病んだのかな、暴力を売り物にしている稼業かぎょうじゃ致命的なんだろう。

 こいつは報いって難しい言葉を使えるから、まあまあの学校を出ているのかも知れない、その分迫力もないな。


 「キッチリと、けじめはつけさせてもらうぜ。 俺達のメンツを潰して、そのままじゃすまないぜ」


 なるほど、兄貴分が素人しろうとにやられたんだ、このままじゃ舎弟達も、ただじゃすまないんだな、可哀そうなことだね。


 路地裏に面した飲み屋に俺は連れてこられた、営業はもう止めている、以前は〈クラブ祝祭〉と言う名の店だったらしい。

 少し前には、厚い化粧と安い香水をつけたブクブクの女が、文句を言うしか能がないダルダルなおじさんに、惰性だせいで割った酒をいでいたんだろう。

 おじさんのように禿げた壁紙と、女の体のように凸凹でこぼこになったソファーが、昔を懐かしがっている。


 「大人しくついて来たな。 ビビッて逃げられないんだろう? 」


 背が高くてせている、この男は一応リーダーなのかな。

 俺に質問をしているのか、他の二人に言っているのか、微妙だな。

 スキルも一応〈交渉〈下〉〉を持っているな、スキルも微妙である。


 行くあてがない少女に、適当な話をいきよい良くびせ、きっと何人もだましたんだろう、風俗に売られた少女は今も泣いている、きっとそうに違いない。


 「はははっ、俺達にビビッているに決まっているぜ。 早くやっちまおうよ」


 小太りで短足だな、頭も悪いらしい、兄貴をやった男が自分達にビビるって、おかしいと思うはないんだ。

 スキルはない、有用なものは何も持っていないってことだ。


 「こんなクソみたいな服を着て、ブ男のおっさんは、死ねばいいんだよ。 その方が幸に決まっている」


 中肉中背で派手な服を着ている、この男が一番暴力的だな、思い切り殴って来そうだ。

 スキルは〈ファッションセンス〈下〉〉か、専門学校にでも行っていたらしいな。

 真面目にやっていたら、普通に就職くらいは出来たのに、性格がダメだったのか。


 少女を騙すために、服のセンスを活用してたんなら、そのセンスって何だろう、ひどく汚いものとしか思えない。


 俺は最後に言葉をいた、中肉中背の若い男の顔面へ、正拳突きをおみまいしてやった、無言のままでいきなりだ。

 鼻血をまき散らしながら倒れていった、元〈クラブ祝祭〉の床に口づけをしてやがっている、キスするのがお好きのようだな。


 「てめぇ、先に手を出したな」


 あははっ、こんな場所に連れこんだヤツの吐くセリフじゃないぞ、頭がおかしいんじゃないの。


 お次は、背が高くて痩せている一応のリーダーだ、左ミドルキックからの、ショートボディブローの連打を鳩尾みぞおちへ叩きこむ、朝食か昨日の夕食かを吐きながら、うずくまってしまった。


 あははっ、汚いリーダーだな、元〈クラブ祝祭〉の床を汚すなよ、もう掃除をする人はいないんだぞ。


 「くっ、笑うな」


 小太りで短足で頭の悪い男は、震えているらしい、足が動かないから逃げ出せないようだ。

 ハイキックを口に入れてあげると、黄ばんだ前歯を散らして、「ウガガァ」とうめきだした、笑っているわけじゃないようだ、涙をボロボロと流しているからな。


 「痛っ」


 あまりにも簡単だったから、俺は油断してたんだろう、とっさに引いたため傷は浅いが、腕をナイフで切られてしまった。

 床に口づけをしてた若い男だ。


 「ふん、素手すでで刃物に勝てやしないよ」


 ナイフを持っている右手を、スピード重視で蹴り上げると、ナイフは空中でクルクルと回っている。


 驚愕している男の顔面に、もう一度正拳突きを放ってやった、もう生意気なことは言えなくなったはずだ、白目をむき後ろへバタンと倒れている。

 俺は蹴って逆向きにしてやった、もう一度床に口づけをしたいに決まっているからな。


 〈ファッションセンス〈下〉〉と〈交渉〈下〉〉のスキルを奪い、三人の財布の中身も奪った。

 三人合わせて、3万円も無かった、しけているとしか言いようがない。

 しょうがないので、一番マシな時計も奪っておくか、時間はちょうど12時だ、牛丼でも食べるか。

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