第6話 加勢

 時間が出来たので孤児院に行き、アンジュの練習の結果を確認することにした。


 「石は作れるようになったわ。次は何をするの」


 「何個作れた」


 「何個って?」


 「魔力を何粒使って、石一個を作れるようになったんだ」


 「四粒を一つにしたものよ」


 「それじゃ、三粒半で作る練習だな。それと石に変わってこれと同じものを何時でも作れるように変えるぞ」


 細い木の枝を削ったものをアンジュの掌に乗せる。

 直系5、6㎜、長さ20㎝程で、前後が尖った編針状のものを珍しそうに見ている。


 「これは何なの?」


 「一応針だな。ストーンニードルって名だ。立派な武器で、これを習得出来たらアンジュが攻撃してもバレないと思うし、これ以上の武器も簡単に扱える様になる。だからこれと同じ物を、ニードルって考えれば作れる様に頑張れ。言っておくが真っ直ぐな奴だぞ」


 「そんなの当たり前じゃない。針って聞いて、こんなに曲った針は初めて見たと思っていたので安心したわ」


 この野郎、言ってくれるじゃねぇか。


 「次ぎに来た時には、ニードルと思ったら即座に作れる様にしておけよ。それが出きていたら的射ちの練習だから頑張れ」


 「これも詠唱無しなの」


 「教えた詠唱からニードル用に何か考えろよ。魔法ってのは、使い方を自分で考えるもんだぞ。じゃあ頑張れよ」


 アンジュに背を向けて歩き出したが、彼奴って教えた事を素直に練習するものだから、習得が早いな。

 その点バルツァーさんは苦労しているようだ。

 簡単に習得する方法があるのだが、俺だってそれに気付くまでに苦労したのだからおいそれとは教えられない。

 風船なんて此の世界には無さそうだし、魔力を膨らませて身体の内側に張り付かせる方法は、放出を覚える前なら簡単に出来るんだけどな。


 アンジュと別れて市場に向かいながら、気配察知もそれなりに使えるようになったので、次のスキルについて考える。

 君子危うきに近寄らずなら、危険を察知する索敵だが冒険者になる訳じゃないので後回しだ。

 安心安全な生活を望むなら危険回避能力は必要で、身を隠して逃げ出すのなら隠形だろう。


 シールドの練習もトイレ以外の場所でしたいが、街の外に出なきゃ無理なのでお休みの日を待とう。

 代わりに転移魔法の練習を始めたが、初心者には壁抜けだろうと部屋に戻るときやトイレを使うときに、誰にも見られていない事を確認してから、転移!

 まぁ、直ぐに使える訳でもないので、これもひたすら練習だと毎日繰り返した。


 * * * * * * *


 オルソン商会で働き始めて半年、十分仕事に慣れただろうと隣街までお使いに行くことになった。

 バルツァーさんのお供でだが、初めてフェルカナ以外の街を見ることが出来る。

 大きい荷物はバルツァーさんで小振りな荷物は俺が預かり・・・お供じゃない、俺も確り仕事じゃないか。


 抜け目のないオルソンさんが、タダで放り出す訳はないか。

 大きな家で荷物を受け取り隣街のフルトン迄だが、王都迄続くジルベルト街道を行く事になる。


 ジルベルト街道は比較的安全なので、東門から出て街道を走り始めたが、流石に半日以上掛かるのでバルツァーさんも疲れ気味だ。

 小休止の間に魔力操作の成果を尋ねると、魔力溜りは判ったし魔力を捏ねる事も出来るが、体内に張り巡らせる事が出来ないとぼやかれた。


 よくよく聞けば、体内に広げるのに切り取った魔力じゃ足りなくて、足りない場所には魔力を追加して広げているそうだ。

 独り立ちしてからは、リフレッシュ以外で余り話をする機会がなかったので、もう少し教えて置く事にした。

 取り敢えずリフレッシュで身体の疲れを取り、リラックスさせてから説明だ。


 「魔力は薄くって言いましたよね。魔力を増やせば体内に広げることが出来ますが、斑が出来て制御が難しいとも」


 「確かに聞いたが、どうしても足りなくなるんだ」


 「何時もはどれ位の魔力を使っているんですか?」


 「大体1/10くらいだな」


 「魔力が32って言ってましたよね、それじゃ多すぎます。その一つを半分か三つに分けた一つを薄く広く張り巡らせるのです」


 「それをやると魔力が破れるんだ」


 「魔力を捏ねたり千切ったりを心の中でしているでしょう。だから魔力は破れない伸び縮みはするんですよ。広げるときに紙や布きれじゃなく、どんなに引っ張っても破れないと思ってやって見て下さい」


 俺の言葉に頷き、目を閉じて深呼吸すると静かになる。


 「駄目だ、指先まで届かない」


 「そこで諦めずに、袋を膨らませるように魔力に息を吹き込む感じで広げて下さい」


 おいおいバルツァーさん、ほっぺが膨らんでいるよ。


 「出来た! あっ・・・破れた」


 「一度でも出来れば、後はそれを維持する練習です。もう一度魔力を広げて、それを広げたまま走りましょう。破れたら何度でも張り直せば良いんです、そうすれば馴れて一日中でも魔力を纏っていられるようになりますから」


 またほっぺが膨らんだので、バルツァーさんが魔力を纏うときの癖になりそうだ。

 立あがったバルツァーさんに続いて走り出したが、直ぐに立ち止まりほっぺを膨らませては走り始める。

 何度も何度も繰り返すうちに、立ち止まる迄に走る距離が段々長くなっている。


 「待って、止まって!」


 「どうしたんだ?」


 「静かに! 何か聞こえませんか?」


 不思議そうな顔で耳を澄ませていたが「これは・・・剣の音だよな」ぼそりと呟くと同時に、回りをキョロキョロと見回す。


 「説明は後でしますので、魔力を途切れさせないでついて来て下さい。いざとなったら逃げますので」


 「盗賊か?」


 「多分」


 緩やかに曲がり少し高低差のある街道なので、見通しが悪いのを利用して音の方へと近づいていくと、背中に矢が三本突き立った男が倒れていた。

 首筋に指を当てると、何とか脈は感じられるが長くはないと思われる。


 近くに転がっていた短槍を手に取ると「ライアン止めろ! 逃げるぞ」と止められたが、盗賊相手なら負ければ皆殺しだろう。

 情勢次第では助けられるかもしれないので、確かめるだけはしたい。


 「バルツァーさん、内緒ですよ」


 物陰に隠れながら接近していたので丁度良い。バルツァーさんを結界のドームで包んだ。


 「これは?」


 「説明は後でします。取り敢えず多少のことでは破れませんし、24時間程度で消滅します。様子だけ見て、助けるのが無理なら引き返して来ますので、待ってて下さい」


 助けられなくても、ここで襲われていると街の警備兵には知らせたい。

 拾った手槍を持ち慎重に近づいて行くが、余り恐怖心が湧かない。

 転生して輪廻転生を信じたからか、八百万の神を少しは信じているからなのかな。

 音は近いと思われるので高い場所から状況を見るため、木の生い茂る小高い場所に向かった。


 矢が突き立って男がいたのだ、近くに弓を持っている奴がいるはずなので慎重に近づくと、弓を手にした男が岩陰に身を潜めていた。

 男の視線の先では馬車が襲われていて、複数の男が倒れているのが見える。

 敵味方が近くて弓が射てないようで、呑気に見物しているようだ。


 こんな近くで気配察知に引っ掛からないとは、俺も興奮しているようなので深呼吸を三つばかりする。

 魔力は確り纏っているし、周囲に弓を持った男以外は見当たらないし人の気配もない。

 練習を始めた隠形に魔力を一粒乗せて慎重に近づいていく。

 ムネがドキドキ心臓が破裂しそうで、息が苦しくて口を開けて深呼吸をする。


 後少し・・・〈バキ〉って足下から音がしてぞくりとなる。

 それは弓を手にした男も同じで、素速く振り向いたが視線が俺よりもズレている。


 見えてないのか? 今しかない! いっけー。


 自分を叱咤して、小脇に抱えた槍ごと男に体当たりをすると、ヌメリとした感触と男の驚愕した顔が目の前にあった。

 俺も男も動けなくて睨み合っていたが、男の身体から力が抜けていき口から血を吹き出して崩れ落ちた。

 槍を突き立てたままの俺も一緒に倒れて、男に抱きついてしまった。


 ぞわりと総毛立ち、慌てて男を突き飛ばして立あがると、腹から熱いものがこみ上げてきてゲロ三昧。

 何も吐くものが無くなり、ウォーターを頭から被り必死に何とか正気を保つ。


 近くに仲間はいなかったはずだと慎重に周囲を探り、安全を確かめてから男の弓矢を取り上げて・・・弓を射ったことがなかったが、走って行っても俺では戦力にならない。

 倒れている男の腰からナイフと剣を外して自分の腰に差し、槍を背負って弓に矢をつがえて慎重に近づいて行く。

 他にも弓持ちがいるかも知れないので、心臓が早鐘の如くといわれる表現を実感する。


 確かに早鐘の如くて表現はぴったりだが、ドッキンドッキンは鐘の音じゃないぞ、と変な突っ込みを自分でしてしまう。

 25m程の所まで何とか近づいたが、これ以上は恐くて近寄れないので弓を構える。


 初の弓道体験の的が人間とは、俺もついてないなんて考えながら襲っている方で少し離れている男を狙う。

 南無三、アニメで見た運を天に任せるときの台詞を口にして、当たれと念じて矢を放った。


 〈ウオォー〉って悲鳴を上げて男が仰け反り・・・よろめいたが倒れてない。

 腰に矢が突き立ったまま男が周囲を見回していたが、仲間が男の声に驚き攻撃の手が緩んだ。

 引きが甘かったようで、もう一本の矢をつがえて十分に引き別な男を狙って射つ。

 今度は背中に当たり、声も立てずにそのまま倒れた。


 〈糞ッ、誰かが加勢していやがる〉

 〈油断するな、目の前の奴等を片づけろ!〉

 〈駄目だ、ホイツも殺られたぞ!〉


 〈今だ、押し返せ!〉


 その声に馬車の護衛達が賊に踏み込み、賊達は背後から弓で狙われていると知り腰が引けてしまい、直ぐに逃げ出した。

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