道化の果

要想健琉夫

    

 俺は道化師だ。俺は道化師だったからこそ、ここ数年間道化の限りを尽くした。心が踊るような出来事が有ったとしても支配人に言われたなら如何にも感傷に打ちのめされた道化師を演じた、支配人に言われたなら感傷にうなされていても如何にも楽しそうに道化を演じた。

 そうして道化に尽くしていた、俺はここ数年を人々が云う道化に捧げた。俺に後悔などは一切なかった、人々を笑わせる愉しませるのならそれで良い、俺は自分の本音を売っぱらって人々にとっての滑稽な道化人形に成る為に魂も売っ払った。後悔は甚だ無い、強いて挙げるのなら――心残りなのは道化に殺された道化師仲間たちのことぐらいだ。


 道化師には二人の道化師がいる、一人目は道化に人生を捧げる、自分を殺すことが得意な道化師だ、二人目は道化を演じる上で道化に殺される道化師か、化けの皮を剝がされちまう道化師だ。道化師の中では殆どが後者の類だ、人生を棒に振って道化に身を捧げるが朽ち果ててしまう。道化師は殆どが後者の類だ、だからこそ生粋の道化師ってのは滅多に出ない、後ろを歩く道化師たちは後ろから刺殺されるのがオチなんだ。

 そんな逆行を乗り越えた俺は今前者の道化師として相も変わらず道化を尽くしているんだが時々思う、道半ばで死ねた奴は如何に楽だったかを道半ばで屍となった仲間のことを嘗て切磋琢磨をし合った仲間のことを想うんだ。


 俺には道化師の仲間の内での面を被った道化師と白亜紀を生きたの面を被っていた道化師がいた、二人の道化師とは名前すらわからないが道化師として生きる中での良き盟友だった。一人目の道化師のことを白狐、二人目の道化師のことをT.Rexそうよく呼んでいた。白狐もT.Rexも道化の道中で刺殺され屍となった道化師だった、二人は俺と一緒に道化を演じている時には心踊って独壇場の舞踏会を主催していた、しかし催しが終わってみると二人は裏で感傷に甘んじて項垂うなだれた。俺はそんな彼らを裏から眺めていた時、同情の念も抱いていたであろうが何よりも膨大な不安として彼奴あいつらが道化の中で異物として排除されるんじゃないかと狼狽して眺めたりもしていた。

 白狐は声色からして女だったんだと思う、(白狐の面で顔は生涯見たことは無かったが立ち振る舞いでだ)白狐は繊細な奴でいてを道化をことを嫌っていた。彼奴は人生の中で時折強い高揚感に包まれたり激情の感情に打ちのめされたりしていた、そうしてその繊細な一面というのは圧倒的に後者の一面が色濃く反映されていた。彼奴は既に道化に疲れていた奴の一人だった。

 俺も含め道化師という生業を目指した者は何百も何千も居るがそれは何れも楽そうだったからという理由で道化師の職を目指した者ばかりだろう、それから道化師は以前挙げた二種に分類されてそれ相応の処理をうけたまる。道化を器用に物にしようとして不器用に道化に支配され刺殺され(ここで云う刺殺は道化から逃げることだ)屍となる人間と道化を物にした器用貧乏の道化師この二つに分類される。そう、彼奴は前者の方だった――だからこそ殺されたんだ。


 のT.Rexは道化から逃げ切った奴の一人だった、白狐は道化に刺殺されたのに対してT.Rexは殺されることから逃げ延びた奴の一人だった。T.Rexは道化に対して器用だった。それでいて俺の様な器用貧乏でもあった。彼奴は道化で自分を殺すことが得意だった、道化と同化することが出来た数少ない道化師だった。

 T.Rexはそんな以前挙げた物の前者の道化師のタイプであった。だがそんな奴も道化から逃げ延びた。彼奴は自分が道化に殺されて自分自身が解らなくなってしまうのに度々恐れていた、そうしてそれを行動に移したのが三年前のあの日だった。

 俺は彼奴らが道化に殺される前に逃げ延びていったことに不信感と嫌悪感を示した、あろうことか羨望もしていたと思う。

 俺はもう自分を殺してしまっていた。道化に魂を捧げてしまっていた、何もかも道化な俺に俺はどう接したら良いのだろうか、俺D・CLOWNはこれからも道化を続けるつもりだ、自分を見失っていないことを信じるんだ。



 



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