diary+ 〜魔術師キッキグラッドリィ・ウィットロックとその妻リカミルティアーシュ〜
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第1話
初めてキイ君と出会ったのは、久遠の森の中を流れる小さな小川のほとりだった。
僕たちは今その小川のほとりに立ち、手を繋いで、水面に映ったお互いの姿を見ていた。
二人ともいつもの普段着だし、花束もないし、なんの飾りもつけていない。けれど、キイ君が「みんなに報告する前に、二人だけで結婚式しよう」と言ったので、それならここしかないと思い、キイ君の手を引いて連れてきたのだった。
「あの時のキラキラした瞳を覚えてる。可愛いなって思ったんだよ。そのピンクの髪も、お花みたいだなって」
僕の言葉に、キイ君は照れたように微笑んで、前髪をくしゃっと撫でた。
「俺だってリカちゃんを初めて見た時、こんなに可愛い子がいるんだってびっくりしたんだよ」
「大げさ」
「本当だって。世界で一番綺麗で可愛い、俺のお嫁さんだよ」
温かな風が吹き抜けて、草花や木々を揺らした。枝の上には、リスや小鳥たち。森のみんなが祝福してくれるような気がして、僕たちは微笑みあった。
「これから何があっても、ずっと一緒にいるよ。リカちゃん……、リカミルティアーシュ。大好きだ」
キイ君は僕の前に片膝をついて、僕の手の甲にキスをした。
全身をくすぐったいような甘い痺れが駆け抜けた。幸せだな、と思った。僕も膝をついてキイ君と目線を合わせる。
「僕も同じ気持ちだよ。キイ君……、キッキグラッドリィ、キミのこと、世界で一番幸せな魔法使いにしてあげる。僕に全部任せて」
キイ君は目を大きく見開いた。その顔がみるみる赤くなっていく。
「もう既に幸せなんだけど」
「もっと。もっともっとだよ。人生は長いんだから」
「ありがとう……」
僕たちは、どちらからともなく唇を重ねた。
おじいちゃんや森のご近所さんを招待して、礼拝堂で小さな結婚式を挙げて、僕たちは、夫婦になった。
とはいえ、生活についてはこれまでと殆ど変わらない。キイ君は小屋に寝泊まりし、毎日昼ごろ僕の家に現れて、夜まで一緒に過ごす。夜中にキイ君は小屋に帰る。おじいちゃんが「私が邪魔なのではないかい? 空いてる部屋を使ったっていいのに」と心配していたけれど、キイ君は首を振った。
「俺の仕事のこともあるから、生活スペースは分けといた方が気楽なんです」
「そういうものかね……」
僕は色々と研究した。栄養バランスの良い食事、魔力を高めて消費しにくくする食事、魔法防御力を高める布と糸で作る衣服のことなど。僕はアネモネさんやイッサ君のように、キイ君と一緒には戦えないけれど、サポートすることはできる。
僕の作ったフード付きの上着を着て玄関に立つキイ君を見ていると、なんだか誇らしく、ちょっとくすぐったい気持ちになった。
「行ってくるよ。何日かかるかわからないけど、なるべく早く帰ってくる。待ってて」
キイ君はそう言って、僕の肩を優しく抱きしめてくれた。
「うん、待ってる。気をつけて行っておいで」
キイ君の肩をぽんぽんと軽く叩いて、僕はそう答える。キイ君が優しくキスをしてくれた。
仕事に行く直前に声をかけてくれるようになったことは、結婚後の嬉しい変化のひとつだった。
「じゃあ、またね」
言い終わると、キイ君の姿はもうそこから消えていた。魔法で飛んで行ったのだろう、おそらくもう仕事をする場所に着いている。
無事に、早く帰って来ることを祈りながら、僕は朝の仕事に取りかかった。
【つづく?】
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