第28話 追憶
流行の移り変わりというのは本当に早いもので、俺や咆哮院に関することは、もうめっきりニュースに載ることもなくなったようだ。
二番煎じは有名にならないと言うし、これならまたそろそろ配信を再開してもいいんじゃないか。ということを道國くんと話す、この昼下がり。
「あー……まあ、位置の特定ぐらい、配信関係なくできるからなあ、あいつら。多少ネットで騒ぎになるぐらいだろうし、いいんじゃねえか別に」
やはり、敵の状態を知っている道國くんはとても頼りになる。というか、駄作衆……配信してなくてもこっちの位置を特定できるのか……
バックがデカすぎるというのもあるんだろうけど、些か無法が過ぎるんじゃないだろうか。
「つーかテメエ、配信でいくら稼いでんだ」
「さあ? 見てないからな……とりあえず銀行に入った分は、すぐに下ろすようにしてるから」
「そりゃまたなんで」
「銀行、国営のとこだし。駄作衆が何かしら関与してゼロにしてきたら、流石にキツいからね」
そうかよ、と言って道國くんは黙った。地味に気まずそうな顔をしている……心当たりがあるのだろうか。それか、やろうとしていたとか。
まあ、された時はされた時だ。ダンジョンの素材を売るだけでも今までやってこれたんだ、配信を封じられたとて、前の生活に戻るだけ。
これからもちょくちょく配信はしていこう。
「次のダンジョンはどこだったか……一番近いとこで静岡あたりか。あそこか……頑張れよ」
ここ東京から一番近いダンジョンは確かに静岡だ。というかこの2つが異常に近い。他の3つは沖縄、北海道に岡山と……位置があまりにバラバラすぎる。
「何か問題があるのかい?」
「魔王と駄作衆両方にな。【透き歌の魔王】はトップオブトップの問題児だぜ」
咆哮院も名前を挙げていた。
あの後軽く説明を受けたところによると、歌に関する異能を持っているんだとか。盲目だが音の反響で周囲を把握する、異能じみた技能も持っている。
また魔王たちの中でもかなり破天荒な娘で、助けに来たと言って応じるかどうかも怪しい。ダンジョンの奥を気に入ってる可能性もあるとかなんとか。
正直、咆哮院がそこまで言う人がどんな人なのか、かなり気になるところだ。基本的に彼女は人のいい面にしか触れないが、この【透き歌の魔王】については性格の悪い部分しか話していなかった。
あと、美人だとかなんだとか……咆哮院は結構可愛い寄りだから、特に気にしていたらしい。
そういうのに興味あるんだなあ……まったく興味ないと思ってたんだけど、とほっこりした記憶がある。
「どんな魔王なのかは楽しみにしておくよ。1人の少女であることに違いはない……で、駄作衆は?」
「……【
……高校生の制服着た金髪?
「それって、あの騎士を召喚する?」
「なんだ戦ったことあんのか。そうだ。手数が多い上に一つ一つが強ェ……あれは強敵だぜ」
確かに、獣化した咆哮院の爪を受け止めて破損すらしない騎士が、あの場で確認できただけで7騎。恐らく防御力だけでなく、攻撃力も高いだろう。
特にダンジョンの奥なんて閉鎖的な空間で一斉に攻撃されたら、かなり不利になる。実際、俺と道國くんと咆哮院でかかったとき、バジャルはかなりやりにくそうだった……あのバジャルでさえそうなんだ。
今度はやられる側、か。咆哮院にもついてきてもらう予定だったけど、危険が過ぎるな……孤児院にいてもらう方向性でも、少し考えておこう。
「だがあいつの恐ろしいとこはそこじゃねえ。あいつはな、心の底から女子高生やってやがんだ」
「……と言うと?」
「クソ不真面目ってことだ。あいつもおれと近いとこがあるからな、根本的な部分で諦めてるのは変わらねえんだが、人間であろうと演技を続けている」
女子高生って不真面目なんだろうか。
「マジに戦りにくい相手だぜ。何せあいつは任務だから殺しに来るだけで、敵意がない。友情を抱きながらその心臓を貫ける、人格破綻者だ」
ないに等しい人格が破綻している。それが敵対した時どれほど恐ろしいのか……少なくとも道國くんは、身に染みて分かっているようだ。
彼は駄作衆と戦ったことも何度かあるらしい。バジャルも渦巻も、やめておけと言いながら相手だけはいつもしてくれていたというし……
なんだかんだ甘い組織なのかもしれない。普通、いくら望まれているからといって、仲間同士で戦うことを容認なんてしないだろう。
「大丈夫だよ。【透き歌の魔王】が救われることを望まないなら、まず戦うこともないんだし」
「だといいんだがな……正直おれには、テメエらが鐘音に勝てるビジョンが見えねえ。警戒だけは怠らず、戦ることになったら……絶対に油断するなよ」
それだけ言うと、あくびをして道國くんは中庭を後にした。本当はもっと色んなことを教えて欲しいところだけど……流石に、元仲間の情報を渡せ、と言い続けるのも、あまりいいことではないだろう。
道國くんは仲間を大切にする人だ。駄作衆という監獄から抜け出した今でも、どこか彼らのことを仲間だと思っている節がある。
その情と優しさが、いつか大きな傷にならないといいんだけど……
「いや。そうならないよう俺が頑張ればいいだけの話じゃないか。何も難しいことじゃない」
その程度の覚悟もなく、その程度の力もなく、無責任に道國くんを家族と呼んでる訳じゃない。
伸びをして、俺も立ち上がった。一応咆哮院にも【透き歌の魔王】について聞いて、それから静岡のダンジョンまでついてくるかどうかも話し合おう。
静岡のダンジョンはとにかく暑いと聞く。咆哮院のダンジョン……東京のダンジョンは、ひたすら暗いだけだったけど……暑いのは、苦手だな。
魔王を助けたら、浅階層を回るようにしよう。配信に視聴者が集まりだしたら、多少深い部分に潜るのもいいかもしれないが……基本的には、浅階層で。
でもなんで暑いんだろう。富士山が近いからかな。それとも、魔王そのものに熱に関する何かがある?
咆哮院は夜を作る異能を持っている。あの暗さはそれが影響しているのだとしたら、【透き歌の魔王】は歌と熱に関する異能を持っているのか?
「歌と熱か……どういう組み合わせなんだろう。なんだか楽しみになってきたな……!」
夜と獣はまだ分かるけど、歌と熱。
ガレンの【
困ったな、別に戦闘狂でも異能フェチでもないのに、魔王の異能ってだけで考えるのが楽しい。
「……咆哮院には、ネタバレしないようにお願いしないとな。多分知ってるだろうから」
儚香と咆哮院が謎に睨み合っているリビングに戻って、全員分の食事を作り始める。
日が沈んでいく、夜が生まれる。
今日が、終わっていく。
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