第12話 因縁
声が聞こえる。ガレンは罠で嵌めるつもりだったんでしょうけど、まずは対話する気があるみたいっス。
「俺様とヨシクンはさあ……別に、昔からつながりがあるとか、全然そんなんじゃないよね」
2人のお話♡とか言いながら、ガレンがカメラのマイクをオフにした音が聞こえたっス。ガレンにしては珍しく、暗い感情の乗った……湿っぽい喋り方で。
「俺様さ、人を見る目はあると思ってんの。少なくともヨシクンの配信は見てて面白かったし、俺様は好き」
そう言えばそうだったっス。
無名で、面白味がある訳でもなく、有名配信者の日常配信に凸ってプチ炎上しただけの、アホ。
そんなオレに声をかけてくれたのが、ガレンだったっス。条件はむちゃくちゃだし、オレの配信者としての積み上げたものを捨てなくちゃいけない契約。
だから突っぱねたし、こんな勝負になったけど……あの時、オレを見てくれて嬉しかったはずっス。
なんでこんなことになっちゃったっス?
「ヨシクン言ってたよね。オレが積み上げたもん崩せないっス〜みたいなことを、ずっとさ」
「……当たり前っス。オレのやってきたことを」
「無駄だよ。あんなもん、なくなった方がいい」
瞬間、込み上げる怒り。
たしかに、トップ配信者から見たら、取るに足らない配信だったっス。素人目から見ても、何も面白くないことは……視聴者の少なさも、示してた。
でも、誇りを持ってやってきたっス。何一つとして捨てられるものはないし、捨てるつもりも……!
「ヨシクン、有名なりたいんでしょ? 悪いことじゃないよ全然。寧ろ配信の動機って9割そうだし」
声だけでも、寄り添ってくれてるのが分かる。
おかしい。ガレンは、こんな人じゃなかったはず。なんで今更こんな、こんなことを……!
「だからこそだよ。ヨシクンがあんなことした過去がある限り、視聴者は誰も見てくれないよ」
「そんな……そんなん分からないっス! ある日突然伸びた配信者だって、世の中にはちゃんと」
「配信舐めてる? ヨシクンさ、俺様たちが何も考えずにバカスカカメラに映ってると思ってない?」
……この階層は、上下左右を囲まれている。
小さな穴が連続して開き、ドロドロとした粘性の炎が空間を満たし始めたっス。中央にいるオレに届くまで、かなりの時間はかかりそうっスけど……
もう猶予はない。今すぐ罠の破壊と解明、ガレン本体を見つけて叩かないと……!
「俺様も配信好きだからさ。あんま、埋もれて欲しくないワケよ。犯罪歴ある人雇わないでしょ? イタい過去ある配信者、好んで見るやついねえのよ」
鎌を生成。オレは自分の周囲を円形に抉り取り、溝を作ったっス。これで、流れる炎が迫ってきたとしても、まずこの溝に炎が落ちる。
壁の向こう側に炎がある可能性を排除できない以上、空間そのものを攻撃するのは悪手っスね!
「だから消そうって言ったの。俺様の派閥に入れば、とりあえずどんなヤツでも伸びはするのよ」
ボコン。勢いを増す炎。
空間そのものの熱気が増してきたっス。酸素が消えかけて、呼吸が辛くなる。粘性や速度のせいで勘違いしてたっス……この炎は、酸素を食う……!
「なんで……蹴りやがったかなあ……」
ピコン、とマイクがオンになる音がしたっス。
「さあ! どうするよヨシクン! こんな絶体絶命の状態でもさあ、降参すれば助けてあげるぜェ!?」
テンションが急激に変わるガレン。完全に配信者モード入ったっスね……何度も何度も、画面越しに見てきた輝くガレンの配信姿……
今でも、憧れるっス。今でも、ああなりたいと思うっス。でもそれでも、オレは……オレは!
「オレがあんたに勝てば……一気に有名なれるっス」
有名配信者の手を借りずに有名になる方法は。
「どんな状況からでも。あんたに……勝つっスよ」
その有名配信者を倒すこと!
晴継さんに、一度口だけで言われたこと……オレの異能が、動作の再現をトリガーに武器を作れるなら。
例え核兵器のボタンだって作れるはずだって!
「ガレン……オレたちの因縁に、ケリ付けるっスよ!」
「変わらねえ、か……まあ、分かってたけどさ」
銃のトリガーを引くようにして、両手を突き上げる。そこにイメージするのは、米国のバズーカ砲。
「M1A1バズーカ!」
弾が暴発する可能性が高い、高威力バズーカ。でも、オレの異能ならそこはフル無視できる!
ごちゃごちゃ考えるのはやめっス。壁の向こう側に炎があるなら、このバズーカで全部ブッ飛ばす。ガレンがいる場所も、暴く必要なんてない!
出てこざるを得ないほど攻撃する!
「ほら、ほら、ほらほらほらほらほら! どこにいるんスかガレン……早く出てくるっスよォ!」
配信見てたから、全部知ってる。
【
そしてそれを発動してる間、ガレン自身は動けない。
「出てこないと……死んじま」
「調子のりすぎ。ダメだよ、そんなの」
ガシリと、足首を掴む手。
「アメーバ×クマムシ。バレずに死なない状態で流されれば、俺様の異能のデメリットは無視できる!」
炎の中に、潜り込んで接近していたのか……!
バズーカを解除し、短刀を作ろうとした時、ガレンの炎がオレの手を封じる。
(なんで……オレの異能の封じ方、知って……!)
「俺様もさ、ヨシクンの配信みてたから」
全身に炎を纏わせたガレンが、オレを抱きしめる。熱い。動作を封じられて異能を使えない。その間にも、ガレンの炎は足元からせり上ってくる……
「言ったでしょ。俺様も好きだったって」
どさり、と自分の倒れ伏す音が、どこか遠くに聞こえたっス。極度の熱に晒されると、人間……動けなくなるんスね。身体がもう、全然……動かないっス。
見てくれてたんだ。オレの配信、視聴者はいつも3人いたらいい方で。コメントもなくて、スパチャなんてある訳なくて。でも、1人。ずっといた。
毎回高評価を押してくれてた人が。毎回配信開始時間に見に来てくれた人が。そうなんだ。ガレン……あんたがずっと、見に来てくれてたんだ……
「ふう……配信って難しいよね」
またマイクがオフになる音が聞こえる。
「視聴者はスリルを求めてる。だから強くならなきゃいけないし、それを怠ると視聴者は離れる。トップ配信者が皆強いのは、つまりそういうことなんだよ」
そうなんスね。知らなかったっス、そんなの。
配信したら見に来てくれるんだって。オレは運悪く埋もれてるだけって、ずっと、思って……
「分かるよ。俺様も、ヨシクンの配信見てから配信始めたから。色々苦労したし……辛かったよ」
……ガレンの初配信は4年前。
オレは、5年前……そっか。オレ、後輩が分かってることも分からず、突っ走ってただけで……
「追い抜くのが辛かった。追いついて欲しかった。憧れのヨシクンと……肩を、並べてみたかったよ」
ドクン、と。心臓が跳ねるような音がした。
トップ配信者、ガレン。知的な戦闘法に反した過激且つチャラい性格で、気付けば昇り詰めていた若手のエース。そして……オレの配信が好きな、後輩。
追いついて欲しかったと。肩を並べたかったと。そう言われたのに……応えないなんて、そんな。
そんなこと……!
「へ、へへ……先輩、なら……期待に応え、ないと」
剣を作って立ち上がる。
晴継さんも言ってただろ。異常な筋力が強みだって。筋力のあるやつは、体力も……タフさもあるだろ!
「かかってこいっス……戦れるっスよ……!」
「……へへ。嬉しいねえ、ヨシクン」
マイクがオンになる。
「「第2ラウンド始めようかァ!!」」
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