第6話 全容
現状を整理しよう。
兼義さんの異能……名は【
【公転】で流すことはできず、【隕石】で砕くこともできない。ダメージを食らったのは久しぶりだ……あの衝撃は、恐らくだが自前の筋力によるもの。
(フィジカルモンスターが、それを十全に活かせる異能を使っている感じか? 身体能力強化の効果を持っているなら、走る時に使わない理由がない……)
腕限定とかそういう感じかもしれないが、そんなの考え出したらキリがない。強化はない方向で考える。
兼義さんの構えが変わった。横に薙ぐ……バットを持っているような姿勢。流せないし破壊できないなら、真正面から力をぶつけるしかない……【隕石】を。
俺の異能は、全身から発することができる。それを応用したのが【天体撃射】だ。兼義さんの攻撃がぶつかる瞬間に合わせて、放出による相殺を……
「そっ……ちィ!?」
しかし、鎖のような感触が俺に絡みつくと同時、攻撃が来ると予想していた方の反対側から、まるで鉄球か何かに殴られたかのような衝撃に襲われた。
全身から発する準備をしていて良かった。それがなければ……骨の一つや二つ、砕けていただろう。
(さっきの棒じゃなくなった……!? 形状は自由に変えられるのか! 今度は……鉄球か!)
よろめいた俺に追撃をかけるように、今度は居合抜きの構えを取る兼義さん。幸い、構えからある程度の攻撃は予測できる……次は、刀でも使うのだろう。
腰だめに構えた手を踏みつける。【隕石】も放出することで、下方へ。ドズン、という鈍い音と共に、兼義さんの両手は地面に埋まった。
……追撃は、来ない。
「なーるほど、大体分かったぞ。とりあえず、この場で君に勝つための情報は揃った」
1つ。不可視の武器は形状を自由に変えられる。
2つ。攻撃には予備動作を必要とする。
3つ。原理は不明だがあらゆる防御を無効化する。
要するに、予備動作を止めながら、常に【隕石】なり【彗星】なりを全身から発していればいい。防御と相殺は違う……相殺が可能なのは既に確認済みだ。
「くっ……まだまだ、っスよォ!」
地面から両手を引き抜き、兼義さんはまるで翼を広げるかのようにして両手を広げた。プロレスラーの如く突進し、俺の腰へとしがみつく……まさか。
(最後の最後でフィジカル勝負か!)
俺の予想は的中し、異能も何もなく、俺は抱えあげられて地面に叩きつけられた。ゴパァン! という土中の水分が破裂する音に、脳が揺れる。
プレスのような体勢から、兼義さんが起き上がる……のと同時、俺はその両腕を強く掴んだ。
「なっ……!」
「殺すまで油断しちゃいけないよ……」
切り札を見せる。
兼義さんの巨体が、上方へ砲弾のように吹き飛んだ。彼からすれば、腹に突如として【隕石】が衝突したような感覚だろう。この攻撃は、俺から発せられていない。
兼義さんの内部から発生している。
「腕だけになっても、戦闘は継続できる!」
吹き飛んだ兼義さんに、今度は俺の手から発せられた【隕石】で攻撃。口の端から血を零して、腹を押さえながら兼義さんの巨躯は地面に転がった。
数秒間を置いて、警戒態勢を解除。兼義さんの手を引いて立たせ、笑顔で握手を交わした。
「参りましたっス……さすがっスね」
「兼義さんも強かったよ。対処されると分かったらすぐに戦法を切り替えたあたり、戦闘慣れしてるね」
注意点をいくらか述べていく。構えがあまりに分かりやすすぎること、予備動作が長いこと。構えが必須ならば、誰も知らない異国の武器でもいいかもしれない。
「……いや、兼義さんの異能を知らないとなんとも言えないな。一度、教えてくれる?」
「はいっス。結構手間かかる異能なんスけど……大体3つの工程を挟んで、ようやく攻撃ができるっス」
兼義さんは俺から少し離れて、初撃を放った時のように剣を構えるようにして上段に構えた。
「まず型を作るっス。こう、武器をイメージして」
「何も見えないんだけど、もうできてるのかな?」
「はいっス。で、空気をそこに嵌める」
空気を嵌める、というのは異能でするのだろう。
兼義さんはその状態から地面に手を振った。すると、地面は剣で抉られたようにして変形する……なるほど、空気の武器を作り出す異能か。
「それ、知ってる武器だったらなんでもイけるの?」
「はいっス。ただ、その武器だと相手に伝わるような構えが必要っス。更に、さっき晴継さんにやられたみたいに、構えを潰されると、もう何もできないっス」
なるほどねえ、と返して口元に手を運ぶ。
中々便利だがやりにくい異能だ。だが、不可視というのがいい。剣の達人は銃弾を見切り、断つことができるが、その銃弾が見えなければ難易度は跳ね上がる。
恐らく、異能込みの動体視力でも、できる者は限られてくるだろう。彼はそれを、自在に作れる。しかも、多様な武器を作れるということは、多様な対応を相手に強制するということ。これは大きな強みだ。
「あ、身体能力強化とかはあるの?」
「ないっスけど……どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。あって欲しかった気持ちは正直あるけどね。そうか、あの筋力は自前か」
よっぽど鍛えたのだろう。尊敬に値する。
兼義さんはその筋力を活かして、一撃一撃に必殺の威力を持たせていたが……俺的には、それを速度に転用した方がいいように思う。
「はあ……速度っスか」
「そう。戦闘において、敵の動きを妨害できる、というのは大きなアドバンテージだ。せっかく色んな武器を使えるなら、速度で圧倒しよう」
兼義さんは自分がどの武器を使うのか、当然分かっている。だが、相手は予備動作を見てから予測、という段階を踏み、更に行動する必要がある。
それを繰り返していけば、どんな戦闘の達人でも脳の疲労によるミスが必ず生まれる。
魔物だってそうだ。次から次へと違うタイプのダメージに襲われれば、困惑もするし動きも鈍るだろう。対人でも対魔物でも、速度を重視した方がいい。
「なるほど……ありがとうございます! その発想はなかったっス、早速やってみるっス!」
「ああそれと、もう1つだけいい? 俺の異能を応用すると、敵を動かすことによる攻撃の強制回避が可能なんだけど、何故か通じなかった。なんでか分かる?」
兼義さんは少し固まって、俺の言葉を咀嚼した。
そしてようやく理解したらしく、数秒経ってから手のひらをポンと叩いた。少し伝え方が悪かったか。
「この空気の武器……空気そのものは、いつでも交換が可能っス。だから、多分晴継さんが空気を移動させてから、次の空気が補充されて無効化されたんスね」
「そんなことが……味方で良かったな」
敵に回っていたらかなり厄介だっただろう。
速度を活かす、そのための特訓を始めた兼義さんを見つめながら、ふと儚香から連絡がないか確認する。
何もない。まあ、咆哮院と仲良くやれているなら全然いいのだが……儚香は、何もなくても俺に連絡してくるような人だ。何もないのは違和感がある。
(ちょっと不安だな……少し、見に行ってみるか)
兼義さんに事情を伝えて、2人の向かったショッピングモールに向かう。兼義さんなら、実力的にも子供たちのお守りを任せられる。
連絡用の道具の使い方は教えたし、何かあったら呼ぶだろう。別に、長居するつもりも、ない、し……
「はれくん……!」
「おー、騎士様の登場かァ? そんな速ェんだなァ……元気してたかよ、クソガキが」
ショッピングモールの地下駐車場。プスプスと煙をあげる監視カメラに囲まれながら……
儚香と咆哮院は無数の塔に囲まれていた。
「千崎……道國くん……!」
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