S級最強格の魔物を倒したらダンジョンの地形が変わった。それをミスって配信したら、世界から注目されてしまった〜最下層で見つけたひとりぼっちの美少女魔王、地上に連れ出して一緒に幸せになります〜
春風細工
第1話 遭遇
お世辞にもいい生活をしているとは言えない。
先代の院長が死んでから、孤児院の経営は絶えず火の車。俺も毎日ダンジョンに潜って稼いではいるが、経営費と子供たちの金を稼ぐには、あまりに足りない。
時折、借金に手を出したくもなる。いや、今の院長を務めている人が、一度だけ手を出したか。
返済にはかなり苦労した。苦い思い出だ。
苦笑しながら、手元の写真を見つめた。映像記録用カメラから漏れ出る光が、子供たちの笑顔を照らす。
「いい笑顔じゃないか……じゃ、もうひと頑張りするとしよう。今日は……奴に会えるといいな」
あいつの素材は高値で売れる。本当は、売却で稼ぐ以外にも、配信? とかしてみたいんだけど。
悲しいことに、ネットを契約する金もない。1ヶ月無料お試し期間とやらに加入したが、よくよく考えるとそれを活かすためのスマホやらPCやらもない。
とんだ無料期間の無駄遣いだ。
「さあ潜るぞ。なんなら近道するのもいいな」
拳を高く掲げ、一気に振り下ろした。
バゴォォオオン! という轟音と共に、ダンジョンの地面に穴が開く。無論、筋力でやった訳じゃない。
異能、というものがある。俺の異能は【汝、星図の輝きを知れ】……簡単に言えば、
パラパラと舞い落ちる地面の欠片。カメラに引っかかった分を拭い取り、穴の中へと足を踏み入れた。
当時の全財産はたいて買ったカメラ。ダンジョン用のは、浮遊して自動追尾してくれるから楽でいい。
「……別にカメラとか持ってこずに、黙ってやってもいい気はするんだけど」
お国の命令なら仕方ない。
何故大金を使ってこんなカメラを買ったのか? それは、ダンジョンに潜った際、映像記録を提出する義務を国が課しているからだ。
それを利用して、ダンジョン内での様子を配信するのがダンジョン配信……最近流行っているそうだが、生憎俺にはそれができる機材がない。
「提出するためだけならお金の無駄だよな……このカメラから直接配信とか……無理、だよなあ」
できないことを考えていても仕方ない。カメラをもう一度念入りに拭いて、俺は下へ向けて出発した。
《画質悪いなこの配信。どうなってんだ》
《アレだろ、ネットをカメラに契約みたいな》
《今どきそんなんするやついんのかよ……》
《視聴者2人しかおらんやんけ。個チャやんけ》
ピコンピコンとカメラから音がした。
(なんだろ……今までこんなことなかったんだけど)
確認したいが、ダンジョン内で警戒は怠れない。
通い慣れているとはいえ、一歩間違えたら命の危険もある場所だ。とりあえずダークドラゴンを倒したら、地上に出て確認してみるとしよう……
「ゴブリン、コボルト、オーク……コカトリス、バジリスクにワーム……値段の低いやつばっかりだな」
潜りながら魔物を殴り倒していく。俺の異能は、魔物の肉体を粉砕する程度容易いが、そのせいで素材の回収が難しい。加減するのは中々にストレスも溜まる。
しかも今日出会う魔物は皆素材の価値が低い。ハズレの日だな……
《おいどうなってんだこいつは》
《瞬殺草。トップランカーだろこいつ》
《しかもこれ配信してるの気付いてないだろ》
《うおおおおお配信馬鹿らしくなってきたあああ》
《謎に心折れてるやつもいるし》
ピコピコピコピコカメラもうるさい。
魔物の波も一旦途切れたし、あまりにうるさいカメラを一旦確認してみる。もし故障なんてしてたら大惨事だし、これ以上ストレスの原因も増やしたくない。
「どうなってん……お、やっと出てきたな」
苛立ち混じりにカメラに触れようとした瞬間、地中から1匹の巨大なトカゲのような魔物が現れた。
黒光りする鱗に凶悪な顔つき。効率よく地中を穿孔するために尖った尻尾は、土埃を散らしている。
「ダンジョンの主、ダークドラゴン! おまえより強いのはいくらかいるけど……高値で売れるからな」
《おー実物初めて見た》
《中々ここまで潜るやついないからな》
《高値で売れる以前に生きて帰れるのか?》
《ここまでの見てたら余裕そう》
鋭い爪は命まで届く。高熱の吐息は渦を巻いて、炎のように肉体を焼き尽くす。堅牢な鱗は、城壁のようにしてあらゆる攻撃を防ぐ。
二足歩行のこいつの弱点は、下腹部。鱗のないそこの部分を、高火力の攻撃で叩くと倒せる……
が。まあ、そんなこと。
「俺が意識する必要もない……」
【彗星】を。
巨躯から繰り出される爪撃を、俺は真正面からの【彗星】で受け止めた。一瞬の停滞の後、ダークドラゴンの肉体は腕から段々と崩れていく。
鱗。強靭な筋繊維。極太の骨。どれもが脅威だが、俺の異能なら真正面から砕ける……それは検証済みだ。
「ラァララララララ……ガアアアアア!!!」
崩壊する現実を否定するように、ダークドラゴンは口内に炎を溜めながら突進してきた。
「なんだ、骨のある個体じゃないか」
自分に【自転】を発動し、下顎を掴み受け止める。
現在ダークドラゴンは、右腕を中心に壊れている。高く売れる内臓類は残さなくてはいけない……故に、受け止めた下顎を横に撫でるようにして。
「【公転】」
メキョ、という音がした。ダークドラゴンの首から先が、惑星の公転のようにしてちぎれた音だった。
溜めた炎を霧散させながら、ダークドラゴンの首が壁に衝突する。残酷な殺し方だが、俺にも守らないといけない……孤児院の家族がいるんだ。
「さ、内臓回収。結構デカい個体だったからな〜かなり大きい稼ぎになるぞこれは」
《グロすぎて草。規約違反だろこれ》
《ピンキリなんですねえ配信者ってのも》
《これもうわかんねえな》
《とりあえず最強ランキングの新星誕生きか》
あまりにも呆気ないダークドラゴンの死。だが、これから手に入る大量の金と、戦闘の高揚で、俺はまた鳴り始めたカメラの確認よりも……
ダークドラゴンの出現した穴にしか目がいかなかった。
(ここまでに稼げる魔物いなかったし……今日は、今まで行かなかったとこまで行くか)
穴に飛び込み、【彗星】を下方に向け発動した。
バゴンバゴンバゴンと音を立てながら、ダンジョンの深く、深く、深くまで。カメラが壊れないかだけ心配だが、ついてきているので問題ないだろう。
《えーらいこっちゃどういうこっちゃ》
《ダークドラゴン瞬殺してからノータイムでダンジョン壊しにかかるってどういうこと!?》
《フゥーッ……コラ、なんでしょう……?》
《残念生配信だ。生配信なんだよこれ》
《コラと言えコラ》
《いいねえ視聴者増えてきたねえ!》
そして、すぐに硬い地殻まで辿り着く。ここが最下層か……なんだ、思ったより浅いんだな。
「うげっほっけほ……やりすぎたかな」
宙を舞う土煙を払いながら、俺は最下層を少しづつ進んだ。何もない、広大なだけの暗い空間……いや?
「……十字架? 宗教色あって嫌だな……って、なんだあれ……女の子? こんな場所に?」
最下層の端には、巨大な十字架があった。
そして、その中心には1人の女の子が磔にされている。ほぼ素っ裸の状態で、歳の頃は……16程度か。
鎖で手足を縛られ、俯いている。
「っ……」
「意識があるのか!? なんてことを……」
その時、俺は女の子に意識を取られすぎて気付けなかった。
最下層に反響する、誰かの足音と。
「裸の女の子って触っていいのかな……?」
ドス黒い、殺意に。
〜某SNS〜
【謎の新人配信者、ダンジョンを開発wwww】
《マジでヤバいぞ、久々に超大型新人だ》
《大袈裟な。名前も聞いたことないぞ》
《まずダンジョン開発ってなんだよ》
《未知の最下層に到達したんだよ!》
《マジで〜??? ちょっと見に行こうかな》
《行け行け! 見逃したらマジ後悔するぞ!》
《ていうかS級瞬殺ってエグすぎるな》
《海外勢もコメントしてるらしいぞ》
《世界進出早スギィ!》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます