油断していた
- ★★★ Excellent!!!
かなり油断していた。
同じカクヨム発の『近畿地方〜』が大々ヒットを叩き出したせいか、その後は二番三番どころか二十番煎じくらいのモキュメンタリーホラーが粗製乱造されており、正直なところ辟易としていた。
作者さんには大変申し訳ないが、「またこの手のか...」と冷めた目で読み始めた。
しかしどうだろうか、一つ一つ読んでいくうちに嫌な汗がジワリと流れ、ある話に至っては厭すぎて途中でブラウザバックするくらいのクオリティだった。
モキュメンタリーホラーが題材なので当たり前と言えばそうなのだが、現実との境目が曖昧故に「もしかして自分の身にも起こり得るのではないだろうか」と錯覚してしまう恐怖と作者さんの技量と設定の高さが相まって本当に素晴らしかった。
全て面白かったのだが、ひとつ選べと言われたら
10番の作品だろうか。
十中八九イ〇ンのことをモデルにしているだろうが、この話の肝はなんといっても救いようの無さだろう。イ〇ンは今現在、47都道府県すべてに店舗を構えており、日本人の生活の一部になっている商業施設と言っても過言ではない。そんな地域と密接している場所があのような魔境と化していたら絶望でしかない。幽霊や神よりもたちの悪い何かが蠢く場所でも働き続けなければならない、利用しなければ生活できないのが厭さにより一層磨きをかけている。
この短編集には完結しておらず、まだ続くそうなのでこれからも楽しみでたまらない。
作者さんのXを拝見すると、どうやら角川のほうで書籍化?の話があるようなのでそれも期待している。