第4話 氷雪ヒーロー・雪狐②

 そうは思ったが、まさかその日のうちに会えるとは思っていなかった。

 フラグ回収速すぎだろ。


 ボロボロかつ血まみれの服を着替え、街を歩いていれば、俺はヒーローとヴィランの戦闘に巻き込まれた。

 こないだは連日だったが、今回は同じ日に2回である。

 どんどん頻度があがっている。俺の不運も心配だが、この街の治安はもっと心配である。


 最後に見たのは、俺の目の前に男の背中だ。

 文字通りの意味である。道を凍らせ、滑るように移動して、ヒーロースーツを着た男は俺の前に立った。

 ヴィランが俺の近くにいたから、割って入ってくれたのだろう。


 そこまでしか記憶がないのは、そのあと俺が氷漬けにされたからだ。

 これはヴィランの能力ではない。

 ちらっとしか見えなかったが、丸い耳と長いしっぽを生やしたネズミ人間のようなヴィランだった。

 やたらに足が速く、耳の良い、情報屋のようなやつだったはずだ。何回か見たことがある。


「どうしよう……ヒーロー人生終わった……いや、それ以前に人殺し……」


 気づけば俺は流水解凍されていた。

 知らねえ浴室の湯船の中で、頭からシャワーをかけられている。

 まだところどころ凍っているが、意識は取り戻した。


「よかったな。殺人未遂だ」


 絶望の表情で頭を抱えながらぶつぶつ言っている男に声をかけると、男はひっくり返って叫んだ。


「ぎゃ、ぎゃあーっ! 死体が喋ったぁーっ!!」

「失礼だなてめェ。生きとるわ」

「生きてるのも怖いーっ!!」

「ほんとに失礼だぞ。凍らせたのお前だろが」


 ふてぶてしく文句を言ってやったが、俺の再生はまだ追いついておらず、死にかけのままだった。

 寒さで震え、歯がガチガチ鳴る。

 目の前の男は俺と同じくらい真っ青な顔で、俺よりもっと震えていた。なんなんだ。


「寒ィからもっとお湯かけろ」

「はいっ! ただ今っ!」


 指示すれば従った。

 熱すぎたので調整させ、最終的にちょうどいい温度の湯船に浸かることになった。

 浴槽の中で服を着たままというのは問題だが、知らねえ男の家の風呂で入浴していることのほうがもっと問題だ。


「で、お前はなんで俺を氷像にしたわけ? そういう趣味の猟奇ヴィラン?」

「違います、すいません」


 話を聞くと、俺を凍らせた理由は、なんととのことだった。

 俺じゃなければ普通に凍死していたから、うっかり殺人だ。過失致死である。

 スーパーパワーを持っていればそういう事故を引き起こしてしまうこともあるだろう。

 ヴィランになったやつらも、そういう事故から始まったのではないかと推測する。


「最近スーパーパワーに目覚めて力をコントロールできなかったのか?」

「いえ、生まれた時からこの力持ってます……」

「おい……」


 呆れのあまり言葉を失っていると、男は慌てて言い訳を始めた。


「ライデンさんに感化されてヒーロー始めて! こんな大々的に力使ったことほとんどなかったんで慣れてなくて! 本当にすみませんでした!!」

「謝った程度で殺人を許すと思ってんのか? いいよ」

「ですよね、っていいんかい!」


 俺は満足げに頷いた。理想的なノリツッコミだったからだ。

 ノリのいいやつは好きだ。俺が適当だから、適当に付き合ってくれるくらいがちょうどよい。


「ツッコミのうまさに免じて大目に見てやる。もうやんなよ」

「はい……! ありがとうございます……!」


 普通人間は二度死なないので、もう殺すなよというやり取りは発生しないはずだが、超人が存在する世の中だとそんなもんだ。

 まだまだカミングアウトをする超人は少ないが、ライデンの影響もあってかぼちぼち増えてきた。

 相変わらずヒーローやヴィランにまつわる法整備は追いついていないものの、少しは社会が変わってきたようだ。


 ライデンの影響でヒーローというのがYoutuberくらい現実的な将来の夢になるくらいだ。

 Youtuberが現実的な夢かというのは別問題だが。

 今んとこヒーローは無給なので、職業とはまだ言えない。


「しっかし、せっかくいい能力なんだからもっと頑張れよ。氷とかかっけえじゃん。あれだろ、最近出てきた期待の新人ニュービーも氷雪系の能力じゃなかったか?」

「……その新人が自分です」

「あ!?」


 新進気鋭の新ヒーロー・雪狐セッコ

 出てきたばかりだが、既にライデンの次に人気とされているヒーローだ。


 氷を操り、ヴィランを凍らせる。

 戦闘を終えれば即座に場を去る仕事人。


 戦闘中にぺらぺらお喋りをし、テレビの取材にも割と答え、コメディっぽい雰囲気のあるライデンとは違うタイプだ。

 ミステリアスな雰囲気も相まって、アイドル的人気を博している――というのが俺が聞いていた話である。


 その雪狐と首から下のコスチュームが完全に一致し、マスク部分も浴室の床に落ちている今の状況でも、目の前の男がそうだとは思えないくらいの乖離だ。


「クール系のイケメンヒーローって聞いてたが!?」

「マスクしてんだからイケメンかどうかはわかんないじゃないですか!!」

「そりゃまあ確かにそうだが、いやお前結構顔整ってる方だと思うよ?」


 顔だけ見れば美形だ。

 黙っていれば落ち着きのある男に見えるだろう。なんか仕事もできそうな雰囲気がある。

 ヨーロッパ系の血が入っているのか、目は青く鼻筋も通っており、体格も細マッチョって感じ。

 見た目だけで充分モテるポテンシャルのある男だと思われる。ちょっとイラつくな。


 てか俺がっつりヒーローの素顔見ちゃってるな今。

 アメコミとかだったら素顔バレってもっと後半の方にある展開じゃないか? 初対面でやっていいやつ?

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