恋人を親友に奪われた僕、新たな恋を歩み始める。
Nemu°
恋人を親友に奪われた僕、新たな恋を歩み始める
第一章 失恋の始まり
桜の花びらが舞い散る四月の午後、僕は大学のベンチに一人座っていた。隣にいるはずの恋人・美咲の姿はもうない。彼女は僕の親友だった拓也と手を繋いで、向こうの芝生でピクニックを楽しんでいる。
「どうして...」
心の中でそう呟きながら、僕は二人の幸せそうな様子を見つめていた。三年間付き合っていた美咲が、僕の一番の親友と恋に落ちるなんて。それも、僕が知らないうちに関係が深まっていたなんて。
「田中君、一人?」
突然声をかけられて振り返ると、同じ学部の石田さんが心配そうな顔で僕を見ていた。石田さんは文学部の二年生で、いつも図書館で勉強している真面目な女の子だ。長い黒髪を後ろで結んでいて、眼鏡をかけている。派手ではないけれど、とても清楚で美しい人だった。
「あ、石田さん。えーと、はい。一人です」
「美咲さんは?いつも一緒にいるのに」
その言葉に、僕の胸はキュッと締め付けられた。石田さんはまだ事情を知らないのだろう。美咲が拓也と付き合い始めたことを。
「美咲は...もう僕の恋人じゃないんです」
「え?」
石田さんの表情が驚きに変わった。僕は苦笑いを浮かべながら、向こうにいる美咲と拓也を指差した。
「あそこにいる拓也と付き合うことになったんです。昨日、美咲から別れを告げられました」
石田さんは僕の指差す方向を見て、息を呑んだ。美咲と拓也が楽しそうに笑い合っている姿が見えた。
「そんな...田中君、大丈夫?」
「大丈夫じゃないですけど、仕方ないですよね。美咲が選んだことだから」
僕は立ち上がると、図書館の方向に歩き始めた。石田さんが慌てて後を追ってくる。
「田中君、待って」
「何ですか?」
「もし...もしよかったら、今度一緒にお茶でもしませんか?話を聞くくらいしかできませんけど」
石田さんの優しい申し出に、僕の心は少し温かくなった。
「ありがとうございます。でも、石田さんに迷惑をかけるわけには...」
「迷惑なんかじゃありません。友達でしょう?」
友達。そうだ、僕たちは友達だった。美咲のことばかり考えていて、他の人との関係を疎かにしていたかもしれない。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
「明日の午後、図書館の近くのカフェはどうですか?」
「はい、お願いします」
その夜、僕は一人でアパートにいた。いつもなら美咲からの電話があったり、一緒に過ごしたりしていた時間が、ぽっかりと空いている。テレビをつけても集中できず、本を読んでも頭に入らない。
携帯電話を見ると、拓也からメッセージが来ていた。
「ごめん、直樹。美咲のことで話がある。明日会えないか?」
僕は返事をするかどうか迷った。親友だった拓也への複雑な気持ち。怒りと悲しみと、そして諦めが混じり合っている。でも、逃げていても何も解決しない。
「分かった。明日の夕方、いつもの場所で」
返信を送ってから、僕は深いため息をついた。明日は石田さんとお茶をして、その後拓也と話をする。辛い一日になりそうだった。
第二章 優しさの中で
翌日の午後、僕は約束のカフェで石田さんを待っていた。窓際の席に座って、外を歩く人々を眺めながら、昨日からの出来事を整理していた。
「お待たせしました」
石田さんが現れた時、僕は少し驚いた。いつもは地味な服装の彼女が、今日は明るい色のブラウスを着て、髪も少し巻いている。眼鏡を外した彼女の顔は、思っていたよりもずっと美しかった。
「石田さん、今日は何だか雰囲気が違いますね」
「あ、分かります?実は眼鏡を新しくしたんです。コンタクトも試してみようかと思って」
彼女は少し恥ずかしそうに笑った。僕たちはコーヒーを注文して、しばらく他愛のない話をした。不思議と、石田さんといると心が落ち着いた。
「田中君、昨日の件ですけど...」
やがて石田さんが切り出した。僕は覚悟を決めて話し始めた。
「実は、一週間前から兆候はあったんです。美咲の様子がおかしくて。携帯を見る時間が増えたり、僕との約束をキャンセルしたり」
「気づいていたんですね」
「でも、まさか拓也だとは思わなかった。あいつは僕の一番の親友で、美咲のことも知ってるし...」
声が震えそうになった。石田さんは黙って僕の話を聞いてくれていた。
「美咲から別れを告げられた時、理由を聞いたんです。そしたら『拓也君と本当に愛し合ってるの。ごめんなさい』って。三年間の関係が、一瞬で終わりました」
「辛かったでしょうね」
「はい。でも、美咲が幸せならそれでいいって思う気持ちもあるんです。僕が彼女を縛り付けていたのかもしれないし」
石田さんは首を振った。
「そんなことないです。田中君が美咲さんを大切にしてたのは、みんな知ってます。図書館でも、いつも美咲さんの好きな本を探してあげてたし」
「石田さんは見てたんですね」
「はい。素敵だなって思ってました。そんな風に大切にしてもらえる美咲さんが羨ましくて」
その言葉に、僕は少し驚いた。石田さんが僕たちのことを見ていたなんて。
「石田さんは恋人とかいないんですか?」
「いません。勉強ばっかりしてるから、そういう機会もなくて」
「でも、石田さんはとても素敵な人だと思います。今日みたいに少しお洒落をすると、本当に美しい」
石田さんの顔が赤くなった。
「田中君、慰めてくれてるんですか?」
「いえ、本当のことです。僕は美咲のことばかり見ていて、他の人の魅力に気づかなかっただけかもしれません」
そんな会話をしているうちに、時間は過ぎていた。外が暗くなり始めて、僕は拓也との約束を思い出した。
「石田さん、ありがとうございました。とても楽しかったです。でも、これから友人と約束があるので」
「拓也さんですか?」
僕がうなずくと、石田さんは心配そうな顔をした。
「大丈夫ですか?一人で話をして」
「大丈夫です。逃げてばかりいても仕方ないですから」
「もし辛くなったら、また話を聞きますから」
「ありがとうございます」
僕たちはカフェを出て、別れ際に石田さんが振り返った。
「田中君、今度は私がお茶をご馳走させてください。今日はありがとうございました」
「こちらこそ。また明日、図書館で」
石田さんとの時間は、僕の心を少し軽くしてくれた。でも、これから始まる拓也との会話を思うと、胃が重くなった。
第三章 親友との決別
大学の裏手にある公園で、僕は拓也を待っていた。ここは僕たち三人がよく来た場所だった。美咲を交えて、将来の夢を語り合ったり、悩みを相談したりした思い出の場所。
「直樹、待たせてごめん」
拓也が現れた時、僕は複雑な気持ちだった。高校時代からの親友で、大学でも一緒に過ごしてきた相手。背が高くて、スポーツも得意で、女子からも人気があった。でも、僕の恋人を奪った人でもある。
「拓也」
「座ろうか」
僕たちはベンチに座った。しばらく沈黙が続いた後、拓也が口を開いた。
「美咲のこと、ごめん」
「謝ってどうなる?」
僕の声は冷たかった。拓也は苦しそうな表情を浮かべた。
「直樹の気持ちは分かる。でも、美咲と俺は本当に愛し合ってるんだ」
「いつから?」
「一ヶ月前くらいから...最初は相談に乗ってただけだった。美咲がお前との関係で悩んでるって言うから」
「僕との関係で悩んでいた?」
「ああ。お前が優しすぎて、甘えてばかりいる自分が嫌だって。もっと自立したいけど、お前に頼ってしまうって」
それは初めて聞く話だった。美咲がそんな風に悩んでいたなんて。
「それで、拓也が相談に乗ってくれたと」
「最初はそのつもりだった。でも、話を聞いているうちに、美咲の別の面が見えてきて...気がついたら、俺は美咲に恋をしていた」
拓也の言葉に、僕の胸は痛んだ。でも、彼の気持ちも理解できた。美咲は魅力的な女性だった。
「美咲も拓也のことを?」
「最初は混乱していた。お前への気持ちもあるし、俺への気持ちも芽生えてきたし。でも、最終的に俺を選んでくれた」
「そうか」
僕はため息をついた。怒りよりも、深い悲しみが心を支配していた。
「直樹、俺はお前を裏切ったんだ。謝って済むことじゃない。でも、美咲を諦めることはできない」
「分かってる。拓也が美咲を選んだんじゃない。美咲が拓也を選んだんだ」
「直樹...」
「でも、一つだけ言わせてくれ。僕は拓也を親友だと思っていた。もし美咲に恋をしたなら、まず僕に相談してほしかった」
拓也は黙り込んだ。僕は続けた。
「僕だって、美咲の幸せを一番に考えたかった。拓也と美咲が本当に愛し合っているなら、身を引くことも考えたかもしれない。でも、二人で僕を騙すような形になったのが一番辛い」
「ごめん...本当にごめん」
拓也の目に涙が浮かんでいた。僕も泣きそうになったが、必死に堪えた。
「これからどうする?」
「分からない。でも、しばらくは距離を置きたい。拓也も美咲も、僕にとっては大切な人だった。でも、今は二人を見ると辛い」
「分かった。時間が必要だよな」
僕は立ち上がった。拓也も立ち上がって、僕を見つめた。
「直樹、いつかまた友達に戻れるかな?」
「分からない。でも、拓也と美咲が幸せになることは願ってる」
それが僕にできる精一杯の言葉だった。拓也とは握手もハグもせずに別れた。歩きながら、僕は涙が溢れそうになった。
アパートに帰る途中、携帯電話が鳴った。石田さんからだった。
「田中君、お疲れ様でした。お話はどうでしたか?」
「終わりました。辛かったけど、話せてよかったです」
「よかった。田中君の声、少し元気になったみたいです」
「石田さんのおかげです。今日はありがとうございました」
「私こそ、楽しい時間をありがとうございました。また明日、図書館で会いましょう」
電話を切った後、僕は少し救われた気持ちになった。石田さんの存在が、僕の心の支えになっていた。
第四章 新しい日常
それから一週間、僕は石田さんと図書館で過ごすことが多くなった。美咲と拓也の姿を見かけると胸が痛んだが、石田さんといると不思議と心が落ち着いた。
「田中君、この本読んだことありますか?」
石田さんが持ってきたのは、村上春樹の小説だった。
「『ノルウェイの森』ですね。高校生の時に読みました」
「私も最近読み返したんです。失恋の痛みが丁寧に描かれていて、今の田中君の気持ちと重なる部分があるかもしれないと思って」
石田さんの気遣いに、僕は感謝した。彼女は僕の状況を理解して、さりげなくサポートしてくれていた。
「石田さんは文学がお好きなんですね」
「はい。特に恋愛小説が好きです。人の心の動きを読むのが面白くて」
「僕は理系なので、文学はそれほど詳しくないんです。でも、石田さんと話していると、文学の魅力が分かってきます」
石田さんは嬉しそうに微笑んだ。
「今度、おすすめの本をリストアップしてお渡ししますね」
そんな会話を重ねるうちに、僕は石田さんの人柄に惹かれていった。知的で優しく、そして僕のことを本当に理解しようとしてくれる。美咲とは違うタイプの魅力があった。
ある日の午後、僕たちは大学の庭で本を読んでいた。石田さんはベンチに座って文庫本を読み、僕は芝生に寝転んで専門書を読んでいた。
「田中君」
「はい?」
「最近、笑顔が増えましたね」
石田さんの言葉を聞いて、僕は自分でも気づいていなかった変化を実感した。確かに、美咲のことを思い出す時間が減っていた。
「石田さんのおかげです。一人だったら、まだ立ち直れてなかったと思います」
「そんなことないです。田中君は強い人ですから」
「強くなんかないですよ。今でも、美咲と拓也を見ると胸が痛みます」
「それは当然です。三年間の関係が一瞬で終わったんですから」
石田さんは本を閉じて、僕の方を向いた。
「でも、田中君は前向きに進もうとしてる。それってすごく強いことだと思います」
「石田さんがいるからです」
その言葉を口にした瞬間、僕は自分の気持ちの変化に気づいた。石田さんへの感情が、単なる友情を超えていることに。
「田中君?」
「あ、すみません。ちょっと考え事を」
「何か悩みがあるんですか?」
僕は正直に答えることにした。
「石田さんのことを考えると、心が温かくなるんです。最初は友達として感謝していただけだったんですが、今は...」
「今は?」
「もっと特別な感情を抱いているような気がします」
石田さんの顔が赤くなった。しばらく沈黙が続いた後、彼女が小さな声で言った。
「私も、田中君といると幸せです」
「石田さん...」
「でも、田中君はまだ美咲さんのことを忘れられていないでしょう?私は、その反動で好きになってもらうのは嫌です」
石田さんの言葉は的確だった。僕は美咲を忘れるために石田さんに惹かれているのだろうか?
「分からないです。でも、石田さんといると本当に心が安らぐんです。美咲のことを忘れるためじゃなくて、石田さん自身に惹かれているんだと思います」
「本当ですか?」
「はい。石田さんの優しさ、知性、そして僕を理解してくれる心。全てが魅力的です」
石田さんは俯いて考えていた。やがて顔を上げて言った。
「時間をください。田中君の気持ちが本物かどうか、私自身の気持ちも含めて、もう少し考えてみたいんです」
「もちろんです。急がせるつもりはありません」
「ありがとうございます」
その日から、僕たちの関係は微妙に変化した。以前のような自然な会話に、少し緊張感が混じるようになった。でも、それは決して嫌なものではなかった。
第五章 心の整理
それから数日後、僕は一人で考える時間を持った。石田さんへの気持ちは本物なのか、それとも美咲を失った反動なのか。
美咲との思い出を振り返ってみた。高校時代に出会って、大学で再会して、自然に恋人同士になった。楽しい時間もたくさんあったが、今思えば僕が一方的に尽くしていた部分もあった。美咲は受け身で、僕に頼りがちだった。
一方、石田さんとの時間を思い返すと、対等な関係だった。互いに意見を言い合い、刺激し合っていた。僕が落ち込んでいる時は支えてくれたが、決して一方的ではなかった。
図書館で勉強している時、ふと美咲と拓也の姿が目に入った。二人は楽しそうに話していて、美咲の表情は僕といた時よりも生き生きとしていた。
その瞬間、僕は気づいた。美咲は僕といるよりも、拓也といる方が幸せなのだ。そして、僕自身も美咲といた時よりも、石田さんといる時の方が自然体でいられる。
「田中君」
振り向くと、石田さんが立っていた。
「石田さん、どうしたんですか?」
「ちょっと話があります。外で話しませんか?」
僕たちは図書館を出て、近くのベンチに座った。石田さんは少し緊張している様子だった。
「田中君、この前のことですが...」
「はい」
「私、考えてみたんです。田中君の気持ちについて」
僕は黙って石田さんの言葉を待った。
「田中君は今、とても混乱していると思います。美咲さんを失った悲しみと、私への気持ちが混ざって」
「石田さん...」
「だから、もう少し時間をかけて、自分の気持ちを整理してください。私はその間、田中君を支えていきたいと思います。友達として」
石田さんの提案は理性的だった。でも、僕の心には少し寂しさもあった。
「分かりました。石田さんの言う通りです。でも、一つだけ言わせてください」
「何ですか?」
「石田さんと過ごす時間は、僕にとって本当に大切なものになっています。美咲のことを忘れるためではなく、石田さん自身を大切に思っているんです」
石田さんは微笑んだ。
「ありがとうございます。私も田中君と過ごす時間が大好きです」
「それじゃあ、今まで通り友達として付き合ってください」
「はい」
でも、僕の心の中では、石田さんへの想いがますます強くなっていることを感じていた。
その夜、僕は一人でアパートにいて、これまでの出来事を整理していた。美咲との別れ、拓也との決別、そして石田さんとの出会い。
携帯電話を見ると、美咲からメッセージが来ていた。
「直樹君、元気ですか?たまには連絡を取りたいと思って。私たちのことは気にしないで、幸せになってね」
美咲らしい優しいメッセージだった。でも、僕の心はもう美咲に向いていなかった。
「ありがとう。美咲も拓也も幸せになってください」
短い返信を送った後、僕は石田さんのことを考えていた。彼女の笑顔、優しい声、知的な会話。全てが僕の心を癒してくれた。
翌日、僕は石田さんに会うのが楽しみだった。図書館で彼女を見つけると、自然に笑顔になった。
「おはようございます、石田さん」
「おはようございます、田中君。今日も一緒に勉強しませんか?」
「もちろんです」
僕たちは隣同士に座って、それぞれの勉強を始めた。時々、分からない部分を教え合ったり、雑談をしたり。そんな普通の時間が、僕にとってはとても貴重だった。
昼休みになると、僕たちは学食で一緒に食事をした。
「田中君、何か変わりましたね」
「変わりましたか?」
「はい。表情が明るくなって、前向きになった感じがします」
「石田さんのおかげです」
「私は何もしてませんよ」
「いえ、石田さんがいてくれるだけで、僕は救われています」
石田さんは嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見ていると、僕の気持ちがますます固まっていくのを感じた。
第六章 新たな気持ち
季節は初夏に向かっていた。大学のキャンパスは緑に包まれ、学生たちも軽やかな服装になっていた。僕と石田さんの関係も、この一ヶ月で自然なものになっていた。
「田中君、今度の土曜日、時間ありますか?」
石田さんが突然そう言った時、僕は少し驚いた。
「はい、空いてますけど」
「実は、市内で文学展が開かれるんです。よかったら一緒に見に行きませんか?」
「文学展ですか?」
「はい。近代文学の原稿や、作家の手紙なんかが展示されるんです。田中君も文学に興味を持ってくれたので」
石田さんの提案に、僕は嬉しくなった。彼女と二人で出かけるのは初めてだった。
「ぜひ、お願いします」
土曜日の午後、僕たちは待ち合わせ場所で会った。石田さんは淡いピンクのワンピースを着て、髪を緩く巻いていた。いつもの図書館での姿とは違って、とても女性らしく見えた。
「石田さん、とても素敵ですね」
「ありがとうございます。田中君もスーツが似合ってます」
僕たちは電車で市内の美術館に向かった。車内では文学の話をしたり、将来の夢について語ったりした。石田さんは将来、図書館司書になりたいと言っていた。
「本が好きで、人の役に立ちたいんです。田中君の夢は何ですか?」
「研究職に就きたいと思っています。でも、最近は教師という選択肢も考えているんです」
「教師、素敵ですね。田中君なら優しい先生になりそうです」
石田さんのそんな言葉に、僕は心が温かくなった。
美術館では、様々な文学作品の展示を見て回った。石田さんは一つ一つの展示を丁寧に見て、僕に解説してくれた。彼女の知識の深さと、文学への愛情に、僕は感動した。
「石田さんは本当に文学が好きなんですね」
「はい。文学は人の心を描いているから、読んでいると自分の気持ちも整理できるんです」
「僕も石田さんと出会ってから、文学の魅力が分かってきました」
展示を一通り見終わった後、僕たちは美術館の併設カフェで休憩した。窓際の席に座って、外の景色を眺めながら話をした。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「私こそ、田中君が一緒だったから楽しめました」
石田さんの言葉に、僕の心は高鳴った。
「石田さん、実は...」
「はい?」
「最近、石田さんのことを考えない日がないんです」
石田さんの顔が少し赤くなった。
「田中君...」
「まだ美咲のことを完全に忘れたわけではありません。でも、石田さんへの気持ちは本物です。美咲を失った反動ではなくて、石田さん自身を愛しているんです」
石田さんは俯いて、コーヒーカップを両手で包んでいた。
「私も、田中君のことを...」
「石田さん?」
「私も、田中君のことを好きになってしまいました」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心は軽やかになった。
「本当ですか?」
「はい。最初は同情だったかもしれません。でも、一緒に過ごすうちに、田中君の優しさや真面目さに惹かれていきました」
「石田さん...」
「でも、私たちは急ぎすぎているかもしれません。田中君が美咲さんと別れてから、まだ二ヶ月しか経っていないんです」
石田さんの慎重さに、僕は彼女の人柄の良さを再確認した。
「そうですね。でも、僕の気持ちは確かです。時間をかけて、石田さんとの関係を築いていきたいんです」
「私もです。でも、約束してください」
「何を?」
「もし美咲さんへの気持ちが戻ってきたら、正直に話してください。私は田中君の本当の気持ちを知りたいんです」
「約束します。僕も石田さんには正直でいたいです」
僕たちは手を重ねた。石田さんの手は小さくて温かかった。
その夜、僕はアパートで一人、今日の出来事を振り返っていた。石田さんとの関係が新しい段階に入ったことを実感していた。
携帯電話が鳴った。石田さんからだった。
「田中君、今日はありがとうございました」
「こちらこそ。とても楽しかったです」
「田中君、一つお願いがあります」
「何ですか?」
「私たちの関係のことですが、しばらくは内緒にしておきませんか?まだ確実なものじゃないし、周りの人に知られるのは恥ずかしくて」
「もちろんです。石田さんのペースに合わせます」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
電話を切った後、僕は幸せな気持ちで眠りについた。
第七章 微妙な変化
それから一週間、僕と石田さんの関係は表面上は変わらなかった。図書館で一緒に勉強し、昼食を共にし、時々カフェで話をする。でも、二人の間には特別な感情が流れていた。
「田中君、今度の日曜日、映画を見に行きませんか?」
石田さんがそう提案した時、僕は嬉しくなった。
「いいですね。何の映画ですか?」
「恋愛映画なんですが...大丈夫ですか?」
「もちろんです」
日曜日、僕たちは街の映画館で待ち合わせた。石田さんは水色のブラウスに白いスカートという組み合わせで、とても清楚で美しかった。
映画は切ない恋愛物語だった。主人公の男性が恋人を失い、新しい恋を見つけるまでの物語。まるで僕の状況と重なるような内容だった。
映画が終わった後、僕たちは映画館の近くの公園を歩いた。
「どうでしたか?」
「とても良い映画でした。主人公の気持ちがよく分かりました」
「田中君の状況と似ていましたね」
「はい。でも、僕は幸運でした。石田さんと出会えたから」
石田さんは嬉しそうに微笑んだ。
「映画の中で印象的だったセリフがありました」
「どのセリフですか?」
「『新しい恋は、過去を消すためのものじゃない。未来を作るためのものだ』という部分です」
その言葉に、僕は深く共感した。
「その通りですね。僕も美咲のことを忘れるために石田さんを好きになったわけじゃない。石田さんとの未来を作りたいから好きになったんです」
「田中君...」
僕たちは公園のベンチに座った。夕日が沈みかけて、空がオレンジ色に染まっていた。
「石田さん、正式にお付き合いしてもらえませんか?」
僕は勇気を出して言った。石田さんは少し驚いた表情を見せた。
「田中君、本当に大丈夫ですか?美咲さんのことは?」
「美咲のことは大切な思い出として心に残しておきます。でも、僕の未来には石田さんがいてほしいんです」
石田さんは考え込んでいた。やがて顔を上げて言った。
「はい。私も田中君とお付き合いしたいです」
僕の心は跳び上がるほど嬉しかった。
「ありがとうございます」
「でも、ゆっくりと関係を築いていきましょう。お互いをもっと知ってから」
「もちろんです」
僕たちは恋人同士になった。でも、急激な変化は求めず、今まで通りの穏やかな関係を続けていくことにした。
その夜、僕は久しぶりに心から幸せを感じていた。美咲を失った悲しみは完全には消えていないが、石田さんとの新しい恋が僕の心を前向きにしてくれていた。
翌日、大学で美咲と拓也に偶然出会った。二人は相変わらず仲良さそうで、美咲は僕を見て複雑な表情を浮かべた。
「直樹君、元気そうね」
「ああ、おかげさまで」
「よかった。私、直樹君のことが心配だったの」
拓也は気まずそうにしていた。僕は二人に向かって言った。
「美咲、拓也、二人とも幸せそうで何よりです。僕ももう大丈夫だから、心配しないでください」
「本当に?」
「はい。新しいスタートを切ることができました」
美咲は安堵の表情を浮かべた。拓也も少し安心したようだった。
「それならよかった。直樹、また今度話そう」
「ああ、そうしよう」
僕は二人と別れた後、図書館に向かった。石田さんが待っているはずだった。
「お疲れ様でした」
石田さんが迎えてくれた。僕は彼女の笑顔を見て、心が温かくなった。
「石田さん、美咲と拓也に会いました」
「そうですか。大丈夫でしたか?」
「はい。もう辛くありませんでした。石田さんがいるから」
石田さんは嬉しそうに微笑んだ。
「私も田中君がいてくれて幸せです」
僕たちは手を繋いで、いつものように勉強を始めた。新しい恋の始まりだった。
第八章 深まる絆
石田さんと付き合い始めて一ヶ月が経った。僕たちの関係は穏やかで安定していた。毎日図書館で会い、時々デートをし、お互いのことを少しずつ知っていく。美咲との関係とは全く違う、静かで深い愛情を感じていた。
「田中君、今度の連休、私の実家に来ませんか?」
ある日、石田さんがそう提案した。
「実家にですか?」
「はい。両親に紹介したいんです。もちろん、田中君が嫌じゃなければ」
「嬉しいです。ぜひお願いします」
石田さんの実家は電車で二時間ほどの地方都市にあった。連休の初日、僕たちは一緒に電車に乗った。
「緊張します」
「大丈夫ですよ。両親は優しい人たちです」
石田さんの実家は古い日本家屋で、庭には季節の花が咲いていた。玄関で迎えてくれたのは、石田さんによく似た上品な女性だった。
「お母さん、紹介します。田中直樹君です」
「初めまして、田中と申します」
「初めまして。娘がいつもお世話になっています」
石田さんのお母さんは僕を温かく迎えてくれた。お父さんも気さくな方で、すぐに打ち解けることができた。
夕食の時、石田さんの家族と話をしていると、彼女の人柄の良さがどこから来るのかが分かった。両親も温かく、家庭的な雰囲気があった。
「田中君、娘のことをよろしくお願いします」
お父さんがそう言った時、僕は身が引き締まった。
「はい。石田さんを大切にします」
その夜、僕は石田さんの家に泊めてもらった。別々の部屋だったが、廊下越しに彼女の存在を感じることができて、とても幸せだった。
翌日、石田さんは僕に町を案内してくれた。彼女が子供の頃よく遊んだ公園、通っていた小学校、お気に入りだった本屋。
「この町で育ったから、今の私があるんです」
「素敵な町ですね。石田さんの優しさがどこから来るのかが分かりました」
「田中君の故郷も見てみたいです」
「今度、僕の実家にも来てください」
僕たちは町の小さな喫茶店で休憩した。そこで石田さんが突然、真剣な表情で話し始めた。
「田中君、私たち付き合って一ヶ月ですよね」
「はい」
「この一ヶ月、とても幸せでした。田中君といると、心が安らぐんです」
「僕もです」
「でも、時々不安になるんです。私は田中君にとって、美咲さんの代わりなんじゃないかって」
その言葉に、僕は驚いた。
「そんなことありません」
「本当ですか?美咲さんのことを考えることはありませんか?」
正直に答えることにした。
「全くないと言えば嘘になります。でも、美咲のことを思い出すのは過去の思い出としてであって、恋愛感情ではありません」
「そうですか」
「石田さん、僕は美咲を愛していました。でも、石田さんを愛する気持ちは、美咲への気持ちとは全く違うものです」
「どう違うんですか?」
「美咲への愛は、守ってあげたい、尽くしてあげたいという気持ちが強かった。でも、石田さんへの愛は、一緒に成長していきたい、支え合っていきたいという気持ちです」
石田さんは僕の言葉を聞いて、安心したような表情を浮かべた。
「ありがとうございます。田中君の正直な気持ちが聞けて嬉しいです」
「石田さんこそ、僕の心配をしてくれてありがとう」
僕たちは手を繋いで、喫茶店を出た。夕日が美しく、二人の影が長く伸びていた。
実家から帰る電車の中で、石田さんが言った。
「今日は本当に楽しかったです。両親も田中君を気に入ってました」
「僕も石田さんのご家族と会えて嬉しかったです。今度は僕の両親にも会ってもらいたいです」
「はい、ぜひお願いします」
その夜、アパートに帰った僕は、石田さんとの関係がより深まったことを実感していた。彼女の不安を聞いて、改めて自分の気持ちを確認できたし、彼女も僕の気持ちを理解してくれた。
携帯電話に石田さんからメッセージが来た。
「今日はありがとうございました。田中君と一緒にいると、本当に幸せです。これからもよろしくお願いします」
僕は返信した。
「こちらこそ。石田さんと出会えて、僕は本当に幸運でした。愛しています」
「私も愛しています」
その夜、僕は心から幸せを感じながら眠りについた。
第九章 試練の時
石田さんとの交際が順調に続いている中、予期せぬ出来事が起こった。ある日の午後、図書館で勉強していると、美咲が一人で僕の前に現れた。
「直樹君、少し話ができる?」
美咲の表情は深刻だった。石田さんは別の用事で席を外していた。
「どうしたの?」
「実は...拓也と別れたの」
僕は驚いた。美咲と拓也は幸せそうに見えていたのに。
「何があったの?」
「色々あったの。価値観の違いとか、将来への考え方とか。結局、私たちは合わなかったのかもしれない」
美咲の目には涙が浮かんでいた。
「そうか...辛いね」
「直樹君、私、間違ってたのかもしれない。あなたと別れたことを後悔してるの」
その言葉に、僕の心は動揺した。
「美咲...」
「もう一度、やり直せないかな?私、やっぱり直樹君が一番だった」
美咲の言葉は僕の心に複雑な感情を呼び起こした。かつて愛した人からの復縁の申し出。でも、僕の心には石田さんがいた。
「美咲、気持ちは分かる。でも、僕には今、大切な人がいるんだ」
「石田さんのこと?」
「はい。僕は石田さんを愛しています」
美咲の表情が悲しそうになった。
「そう...石田さんは良い人よね。私より優しくて、頭も良くて」
「美咲、比較する必要はない。ただ、僕は前に進むことにしたんだ」
「分かってる。でも、諦められないの。直樹君との思い出は本当に大切だったから」
その時、石田さんが戻ってきた。美咲と僕が深刻な話をしているのを見て、彼女の表情が曇った。
「あ、美咲さん」
「石田さん、こんにちは」
気まずい空気が流れた。美咲は立ち上がって言った。
「直樹君、考えておいて。私、待ってるから」
美咲が去った後、石田さんが心配そうに僕を見つめた。
「田中君、何があったんですか?」
僕は正直に話すことにした。美咲と拓也が別れたこと、美咲が復縁を求めてきたこと。
「そうですか...」
石田さんの声は小さかった。
「石田さん、僕の気持ちは変わりません。美咲とはもう終わったことです」
「でも、美咲さんは田中君の初恋の人でしょう?三年間も付き合った相手でしょう?」
「それは事実です。でも、今の僕の心にいるのは石田さんです」
石田さんは俯いていた。
「田中君、少し時間をください。考えたいことがあります」
「石田さん...」
「今日はこれで帰らせてもらいます」
石田さんは荷物をまとめて図書館を出て行った。僕は一人残されて、どうしていいか分からなかった。
その夜、僕は石田さんに何度も電話をかけたが、出てもらえなかった。メッセージを送っても返事がなかった。
翌日、石田さんは図書館に現れなかった。僕は授業中も彼女のことばかり考えていた。
昼休みに、ついに石田さんから連絡が来た。
「田中君、話があります。放課後、いつものカフェで会いませんか?」
僕は急いでカフェに向かった。石田さんは既に席に座っていたが、いつもの明るい表情ではなかった。
「石田さん」
「田中君、昨日はごめんなさい。突然帰ってしまって」
「いえ、僕の方こそ。驚かせてしまって」
石田さんは深呼吸をしてから話し始めた。
「田中君、私、一晩考えました。美咲さんのことを」
「石田さん...」
「美咲さんは田中君の最初の恋人で、三年間も一緒にいた人。私は田中君が失恋した時に現れた、言わば慰め役のような存在」
「そんなことありません」
「美咲さんが戻ってきた今、田中君の本当の気持ちが試される時だと思うんです」
石田さんの言葉に、僕は困惑した。
「石田さん、僕の気持ちに嘘はありません。石田さんを愛しています」
「本当に?美咲さんへの気持ちは残っていませんか?」
僕は正直に答えることにした。
「美咲への想いが完全に消えたわけではありません。でも、それは過去の思い出であって、今の恋愛感情ではありません」
「過去の思い出...」
「はい。美咲とは楽しい時間もたくさんありました。その記憶は大切にしたいと思っています。でも、僕の未来は石田さんと一緒に歩みたいんです」
石田さんは涙を浮かべていた。
「田中君、ありがとうございます。でも、私、怖いんです」
「何が怖いんですか?」
「もし田中君が美咲さんとよりを戻したくなったらって。私は田中君を失うのが怖いんです」
僕は石田さんの手を取った。
「石田さん、僕は美咲とはよりを戻しません。それだけは約束します」
「本当ですか?」
「はい。僕の心は既に石田さんのものです」
石田さんは泣きながら微笑んだ。
「ありがとうございます。私も田中君を信じます」
僕たちは抱き合った。石田さんの温もりを感じながら、僕は改めて彼女への愛を確認した。
その後、美咲から何度も連絡が来たが、僕ははっきりと断った。美咲との過去は大切にするが、未来は石田さんと歩んでいく。そう決意した。
第十章 新しい季節
美咲との件が一段落してから、僕と石田さんの関係はより深いものになった。お互いの気持ちを確認し合えたことで、絆が強くなったように感じられた。
夏休みが始まる頃、僕たちは二人で小旅行に出かけることにした。
「どこに行きたいですか?」
「海が見たいです。田中君はどこか希望はありますか?」
「石田さんが行きたいところならどこでも」
僕たちは伊豆の小さな海辺の町を選んだ。一泊二日の短い旅行だったが、二人にとっては特別な時間になりそうだった。
電車で二時間ほど揺られて、海辺の町に到着した。潮の香りと、カモメの鳴き声。石田さんは嬉しそうに海を見つめていた。
「きれい...海を見るのは久しぶりです」
「石田さんが嬉しそうで、僕も嬉しいです」
僕たちは海辺を歩きながら、色々な話をした。将来のこと、夢のこと、そしてお互いへの想い。
「田中君、私たち付き合って三ヶ月になりますね」
「早いですね。でも、濃密な三ヶ月でした」
「色々ありましたね。美咲さんのこととか」
「でも、あの件があったおかげで、僕たちの気持ちがはっきりしました」
石田さんは微笑んで、僕の腕に自分の腕を絡めた。
「私、田中君と出会えて本当によかったです」
「僕もです。石田さんがいなかったら、今でも一人で悩んでいたかもしれません」
夕方、僕たちは宿に着いた。温泉旅館で、部屋からは海が一望できた。
「素敵なお部屋ですね」
「石田さんに喜んでもらえてよかったです」
夕食は部屋で海の幸を楽しんだ。石田さんは少しお酒を飲んで、普段より積極的になっていた。
「田中君、私たちの関係について話したいことがあります」
「何ですか?」
「私たち、まだ手を繋いだり、軽いキスをしたりするだけですよね」
僕は頷いた。僕たちは確かに物理的な関係を急いでいなかった。
「石田さんの気持ちを大切にしたいと思って、急がないようにしていました」
「ありがとうございます。でも、私ももう準備はできています」
石田さんの言葉に、僕の心は高鳴った。
「石田さん...」
「田中君、私を抱きしめてください」
僕は石田さんを優しく抱きしめた。彼女の体は小さくて温かくて、心臓の鼓動が感じられた。
「愛しています、石田さん」
「私も愛しています、田中君」
僕たちは深くキスを交わした。それは初めての、本当に愛し合う者同士のキスだった。
その夜、僕たちは初めて結ばれた。石田さんは恥ずかしがりながらも、僕を受け入れてくれた。美咲との関係とは全く違う、深い愛情に基づいた結合だった。
翌朝、僕たちは朝日を見ながら海辺を散歩した。
「昨夜は...」
「はい」
石田さんは少し恥ずかしそうにしていたが、幸せそうだった。
「田中君、私たちこれからどうなるんでしょうね」
「どうなってほしいですか?」
「ずっと一緒にいたいです。田中君と」
「僕もです。石田さんと一緒に歩んでいきたい」
僕たちは将来について話し合った。卒業後の進路、結婚、子供のこと。まだ先の話だったが、共通の夢を描くことができた。
旅行から帰った後、僕たちの関係はより安定したものになった。体だけでなく、心も完全に結ばれた感じがした。
夏休み中、僕たちはたくさんの時間を一緒に過ごした。図書館でのデート、映画鑑賞、お互いの実家への訪問。どの時間も貴重で、幸せだった。
ある日、石田さんが真剣な顔で言った。
「田中君、私たち卒業したら結婚しませんか?」
突然のプロポーズに、僕は驚いた。
「石田さん...」
「まだ早いかもしれませんが、私は田中君以外の人との未来は考えられません」
僕は石田さんの手を取った。
「僕も同じ気持ちです。はい、結婚しましょう」
石田さんの目に涙が浮かんだ。
「本当ですか?」
「はい。石田さんと一緒に家庭を築きたいです」
僕たちは抱き合った。婚約したわけではないが、将来への約束を交わした瞬間だった。
恋人を親友に奪われた僕、新たな恋を歩み始める。 Nemu° @daihuku723
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