第39話

「勝負あり。『勝利の毒杯』ゲーム、勝者、花屋」


 躑躅森が高らかに勝者を宣言する。


「……う、嘘よ。私がギャンブル対決で負けたですって!?」


 彩羽は青い顔でブルブルと震えている。


「ええ、厚本先輩。毒を2つ取ったあなたの負けです。お認めになりませんか?」


 花屋はそんな彩羽を挑発するように、ニヤニヤ笑みを浮かべていた。


「……そ、そんなの当たり前じゃないッ!! 1つの紙コップにピンポン球を2つ詰めるなんて、そんなの卑怯よッ!! ペテンだわッ!!」


「……厚本さん、気持ちはわかるっすが、ここは潔く負けを認めるっすよ。この雪辱はまた今度果たせばいいっす」


 ヒステリーを起こした彩羽を、馬酔木が何とか宥めようと説得する。


「おやおや、これは何時も強気な馬酔木先輩らしくもない弱気な発言ですねェ。『この雪辱はまた今度果たせばいい』ですって? そんなこと言わずに、今この場で再戦すればいいではありませんか」


「……なッ!?」


 何を言い出すかと思えば、今この場で再戦するだと!?


「ルールはさっきと同じで結構です。聖杯の紙コップは5つ。毒のピンポン球は2つ。相手に紙コップを持ち上げさせる『チェック』の使用権は一人一回までで、聖杯の奪い合いは、『本のページ当て』クイズで決めることにしましょう」


「……ば、馬鹿かッ!! 何を考えているんだ貴様はッ!? 折角ギャンブル対決に勝って500万円を手に入れたというのに、みすみす全てを棒に振る気かッ!?」


 躑躅森が慌てて花屋の暴走を止めに掛かる。


「……えーと、それで何で僕が馬鹿なんです?」


「厚本はこの図書室の全ての本のページ数を把握しているんだぞ!? そんな相手と『本のページ当て』をやって、勝てる筈がないだろうがッ!! それに、このゲームは聖杯を奪う方に有利になるように設計されている。さっきは奇策が上手く嵌まったから運良く勝てたものの、同じ手が二度も通用するような相手ではないぞッ!!」


「…………」


 躑躅森の言うとおりだ。1つの紙コップに毒のピンポン球を2つ詰め込むという花屋の策略は、相手を一撃で殺すことができる強力な手である反面、相手が運否天賦うんぷてんぷで聖杯を選んできた場合、かなり不利な状況に立たされる、諸刃の剣だ。もう一度同じことをやって通用するとは思えない。


「何を言っているんです? 向こうはたった今、500万円を賭けた大勝負に負けて、意気消沈しているところなんですよ? 心理的に追い込まれているのは、むしろ厚本先輩の方です。少なくとも僕の方から逃げるつもりはありませんね」


 花屋はそう言って、チラリと馬酔木の顔を見る。


「……花屋君、こちらとしてもリベンジマッチをしたいのは山々っすけど、さっきの勝負で失った500万円で厚本さんの全財産は吹き飛んだんすよ。何時かまた必ず再戦することは約束するっすから、今日のところはこの辺で勘弁して欲しいっす」


「おんやァ、全財産が吹き飛んでも、まだそっちには生徒会から無担保で借りられる200万円という種銭たねせんが残っているではありませんか。まさかとは思いますが僕には借金を強要しておいて、御自分は借りた金でギャンブルなどできないとか言わないですよね?」


「……ガキが。あまり調子に乗るなよ。ぶち殺すぞ」


「いやァ、負け犬の遠吠えで凄まれてもちっとも怖くありませんねェ。むしろ気の毒すぎて憐憫を誘います」


「……ぐッ」


 馬酔木は言い返すことができずに拳を握り締める。


「……いいでしょう。同じルールでもう一度やってやろうじゃないの」


「でも、厚本さん!!」


「もういいの、馬酔木君。ここまで一年に舐められたまま尻尾巻いて逃げたんでは、ギャンブラーとして終わりよ。花屋君、賭け金は私が支払えるギリギリの金額の200万円でいい?」


「……グッド。流石は厚本先輩です。そうこなくてはね」

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